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 一行は無事、聖都セトルトンへと辿り着いた。

 都は想像に値する通り、人の数が実に多い。商業などが盛んでもあるために大陸中から多くの人達が賑わう中心都市だ。ありとあらゆる施設が身を連ねているため、人が集中するのは容易に想像できることだろう。


 石畳の道路を練り歩く人々の脇に、一件のカフェが存在している。店の外に置かれた木製の円卓テーブルと椅子……店外のテラスオープン席に、四人の男女が座っていた。


「ふう、ようやく落ち着けましたね」


 その中の一人、リノアンが一息つきながら他の三人に微笑みかける。


「ああ。ここでちゃんと食って英気を養っておかないとな。試験にはなんとしても受かるぞ!」

「ふふ、その意気ですね。私も兄さんに負けないよう頑張ります! そのためにもまずは栄養が必要ですね」


 期待を胸に、にこやかに話しているクロヴィスとリノアン。

 その傍らで――


「……」

「……」


 テーブル越しに対面しているにも関わらず、目を合わせようとしない二人。……レイとミリルである。両者とも実につまらなさそうな顔をしている。


「……あのですねぇ。ケンカはそのへんにしておいてくださいよ。ご飯が不味くなるじゃないですか?」


 二人を見かねて、リノアンが不満そうに忠告した。

 先のプギューミーの一件以来、二人はまるで会話を交わそうとしていない。


「……俺は悪くない。そもそも、なんでこいつが付いてきたんだ?」

「それを言うならお前だって、何故ここにいるんだ。お前こそ必要無いだろう。クロヴィスとリノアンと私の三人で良かったものを」


 お互いを邪険にしつつ、睨み合うレイとミリル。それを見てまたしても溜息を吐くリノアンだった。


「まあまあ、そんな暗い顔するなよ。そんな顔してたら運も幸せもどこかに行っちゃうぞ。一緒にギルド員を目指す者同士、仲良くやろうぜ!」


 光のように明るい声と笑顔で、クロヴィスは二人を諭した。


「クロヴィスがそういうなら……まぁ、しょうがないけど仲良くしてやるか」

「不本意だが、しょうがない。これからは仲良くしてやる。ありがたく思え」

「……本当に仲良くなったんですかね?」


 レイもミリルもクロヴィスの純粋な瞳の前に気分を改めたように見えるが、実質の所お互いにぎこちないままである。渋々といった様子だ。

 リノアンの疑念も不思議ではない。


「ところでリノアン、別に私に敬語は使わなくていいぞ。私の方も、適当に喋らせてもらっているしな」


 ミリルがリノアンの口調に疑問を抱いたのか、提案を出した。


「ああ、私はこれが口癖なんです。こっちの方が喋りやすいんですよね。だから気にしないでください」


 リノアンは当然のように言いながら、人差し指で頬をぽりぽりと掻く。


「どんな人にでも私、敬語を用いますんで。あっ、でも別に気に負わないでくださいね。私は別にミリルさんやレイさんを尊敬しているから、敬語を使っているというわけじゃありませんので! 別にお二人のことはこれっぽっちも尊敬してないので、ご安心ください。あ、でも兄さんだけは別ですよ! 心の底から本当に尊敬しています! 兄さんに対しては本当の意味で敬う言葉、そのものです!」

「あ、ああ……」

「そ、そうか……」


 表情豊かに小気味よく喋るリノアン。その姿と言葉の内容にミリルとレイは若干気圧されていた。


「ちなみに、リノアンが本気で怒った時は敬語じゃなくなるぞ!」

「マ、マジか?」

「それは少し見てみたいな……」


 実に楽しそうに豆知識を放り投げるクロヴィスであった。レイとミリルはその豆知識が非常に気になるようで、視線はリノアンへと向けられていた。


「兄さんは本気で怒ると、髪の毛がぴかぴかに光輝き出しますよ」

「はぁ!?」

「何っ!?」

「あははっ、冗談です。本気にしないでください」


 リノアンの冗談に、ガタッと席を立つぐらいに動揺を見せたレイとミリルであった。実際の所、クロヴィスにそんな面白設定は無い。


「お待たせ致しました」


 会話を楽しむクロヴィス達の前に、店のウェイトレスが料理を運んできた。

 手に持つ盆の上には具材たっぷりのバーガーと、キノコと野菜の豊富なパスタ。肉多めのカレーに、ピザのトーストが乗せられている。それらをそれぞれの席に置いていく。

 ちなみに飲み物はクロヴィスがレモン水、リノアンはアイスティー。レイはコーヒー、ミリルはココアを先ほどから飲んでいる。


「美味っ! やっぱ都の飯は流石だな」


 スプーンを手にカレーを一口食べたレイは絶賛の声を漏らした。


「ギルド員になったら当分は都での生活が続くでしょう。そしたら美味しいご飯にもありつけますし、お洒落なお店もたくさん……期待が膨らみますね」


 フォークにパスタの麺を巻き付けつつ、リノアンが言う。


「この広い都の治安を維持するというのは中々に大変そうだが……それだけやりがいもありそうだな」

「ああ。こんなに多くの人が住んでる所だし、きっと仕事はいっぱいあると思う。だからこそ、ギルド員の力が必要なんだ。俺は絶対にやってやる!」


 周りの光景に目を配りながらピザトーストを噛むミリルと、バーガーにかぶりつくクロヴィス。

 とにかく都は人が多い。人が多いということは、それだけトラブルの種が多いという証拠でもある。治安維持ギルド員はこうした世のはびこる悪を滅すだけでなく、魔獣の退治や人々の悩みを解決など……多岐にわたる案件を解決していくのだ。そのためにも実力は大いに問われる業種である。能力はあればあるだけいい。

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