土砂降り
「いや、俺男ですよ?どうしたら魔女に見えるんですか」
とりあえず弁解を試みる。
「幻覚か擬態の魔法でも使っているんだろう?絶対に騙されんからな!!」
魔女というのは余程彼らに嫌われているらしい、なかなかの警戒心を持っていた。
どうしたものか、と竜也は悩む。
魔女と呼ばれる者のことを知らないし、何故警戒するのかもわからない。
「それに、そのローブは魔女が常に着ていると言われるローブではないのか?そんなんでよく自分は魔女じゃないと言えるな!!」
「これは焼け野原にあった小屋から盗ってきたんです。俺は気づいたらそこに裸で立ってて…」
一昨日の出来事にまた怒りがこみ上げてくる。
「怒りヶ丘から来たのか?信憑性が増したな。」
相手は竜也の話を皆まで聞く気がない。
その事で苛立ちが上乗せされる。
「俺が姿を偽る魔法を使っていると思うなら、解除の魔法でもかけてみてくださいよ。何もしませんから。」
無実を証明するため、ぶっきらぼうに言い放つ。
「…解除か、いいだろう、おい!!」
「ハッ!!」
隊長らしき人物が声をかけるだけで、魔法兵らしき三人が前へと出てきた。
三人は何か指示を受け、杖を構えて呪文の詠唱を始める。
他の兵は微動だにせず、武器を構えて一切隙を見せない。
(こんなにも強そうな人達が恐れている魔女って本当になんだ?怒りヶ丘って言ってたけれど、あの小屋の立っていた丘?)
竜也がそんな事を考えていると、魔法兵達の詠唱が終わり、彼らの前に幾何学模様の魔法陣らしきものが現れる。
そして三人同時に最後のフレーズを叫ぶ。
『炎の剛球!!』
「あ?」
突如出現した燃え盛る巨大な火球は、竜也に向かって飛んでいく。
竜也は反射的に横に転がり回避に成功したが、着ているローブの裾が焼けていた。
「なにしやがんだ!!」
そう怒鳴るが、相手方は竜也の事を見向きもせず、統率のとれていた兵達が動揺している。
「ローブが焼けたぞ」「魔女は火魔法が効かないんじゃなかったのか?」「魔女は命よりローブを大切にしていると聞いたが?」
彼らは竜也が確実に魔女だと思い込んで、火球を放ったのだ。
火魔法を得意とする魔女ならば、その攻撃で正体を表すだろうと踏んでの行動だった。
しかし竜也は魔法に心底驚いた顔をし、ギリギリで回避に成功したのが現実。
予想とは違った出来事に兵達は僅かに混乱していた。
「騙されるな!あのローブは偽物だったのだ!魔女め姑息な手を使いおって!!」
隊長の大声が響き、立ち上がった竜也に対し、兵達は再び武器を握り直す。
「偽物だったのか」「卑怯な事しやがって」
「いやらしい魔女め」「正体を偽って何をする気だ」
そして口々に竜也に向かって暴言を吐いた。
そんな理不尽をされて黙り込む竜也ではない。
統率を取り戻した一団に向けて、なんの予備動作もなく、竜也は地面を蹴り上げた。
ふてくされる意味ではなく、文字通り辺りの地面を無数の土の弾丸に変えて、一団へ飛ばしたのだった。
隙間なく埋め尽くされた土砂の雨が兵達に降り注ぐ。
お気づきですか?私は特定の人称で書き上げるのが苦手です。
見苦しいとは思いますが、思いついた物語をそのまま書き上げるので、その時書きやすい人称で進めてしまいます。
そして人称を統一しようと消去したが最後。
私は書きたかった物語を忘れてしまうのです。