森と狼と時々、金粉草
ゆっくりと踏み出す第一歩。
大地はその一歩をしっかりと、受け止めた。
ただそれだけの事で、竜也は森が自分を認めてくれた気がして、胸がいっぱいになった。
「すげぇ、異世界すげぇよ」
二歩、三歩と進むたびに、竜也はこの世界の事を好きになっていく。
元の世界では見たことがない植物、虫、動物。
嫌悪感は感じず、美しさすら覚える異世界の姿に惹きこまれていく。
森の奥へと入っていく竜也。
見るものすべてが真新しく、好奇心をくすぐられるものばかりだ。
木は独特な枝の広がりを見せ、葉っぱ一枚とっても葉脈の主脈が二本通っていたり、と異世界らしさが滲み出ている。
観察を繰り返しながら歩いていると、日が傾き始めていた。
暗くなる前に寝床を探すため、竜也はさらに奥へと進んでいく。
最終的に竜也が見つけたのは、空洞になった木の根元だった。
袋から毛布を取り出し、包まる。
寝る前の一服が気にならないほど、竜也は木の一部になった感じのする、この空洞が気に入っていた。
翌朝、目を覚ました竜也の前には、狼のような動物の群がいました。
しかもヨダレを垂らしながら、唸っているではありませんか。
このままではいけない、そう確信した竜也は、素早く空洞から転がり出て、群れと対峙します。
素人の構えをする竜也を、狼達が見逃す筈はありません。
一斉に四方から獰猛な牙が襲いかかります。
竜也は目の前の一匹を殴り飛ばし、文字通り木っ端微塵にしましたが、その他の4匹には噛み付かれてしまいました。
一瞬痛みを覚悟した竜也でしたが、両腕、両足と全く痛みを感じません。
血も出ていませんし、かすり傷すらついていません。
噛み付いた狼も不思議なようで、何度も顎を上下させます。
竜也はそんな狼達を見て、ニヤリと笑った後、一匹ずつ地面に叩きつけて、命を奪っていきました。
そして、立ち去る竜也以外に残ったのは、真っ赤に濡れたグシャグシャの空間だけでした。
気を取り直して、竜也は昨日と同じく森を進み始める。
そして日が沈みかかり、寝床を探している時、森の出口を見つけた。
しかし、あたりは暗くなってきているので、森から出るのは明日に持ち越す事にし、適当な木の下で眠りについた。
日が昇りきる前に起床した竜也は、ついに森を抜ける。
広がる景色は緑に萌える草原、少し先には石造りの砦のようなものが見えた。
「飛ぶか」
砦に近づくため助走を付け始めた竜也の視界の端に光る物が!
即座に方向転換し、眩い輝きを放つ金粉草を毟り取った。
「これからも結構な頻度で見つかりますように」
祈りを捧げて、さっそく袋から適当に紙を取り出しタバコ作成に取り掛かる。
五分後。
助走をつけて飛び上がる竜也。
興奮しながら、異世界の建造物に思いをはせるのだった。
思った以上に砦から距離のある場所に着地したが、ゆっくりと歩いて向かう事にした。
段々と近くになるに連れて、砦の大きさがわかるようになった。
20〜30Mはあるだろうか。
積み上げられた石の壁は、不自然な光沢を放ち頑丈さを表しているようだった。
門の前にはざっと200人程の兵が並び、それぞれに武器を構えている。
「止まれ!!」
唐突に制止の声をかけられ、何事かと思いながら立ち止まる。
異世界流検問なのだろうか?
「ここに何をしに来た!!魔女め!!」
男なのに魔女とはこれいかに…
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