竜也、飛翔します。
夕暮れの空、ただし異世界の空だ。
片方の太陽は既に沈んでいるが、もう片方はまだ地平線の向こうに健在している。
二つ恒星に照らされ、不思議なコントラストを醸し出す空に悪態をつきながら、なるべく太陽の軌道に垂直になるよう道を選び、竜也は金粉草を求めて歩き出した。
しばらく進むと、小屋の建っている場所は小さな丘になっている事がわかった。
同時にこの焼け野原の広さも嫌になるほど理解させられた。
とりあえず、指の先よりも小さく見える遠い森を目指し、気分的にとても重い足を動かすのだった。
日はすっかり沈み、無数の星が暗くなった夜空を飾りつける。
クソ女のおかげか、夜目が効くようになった竜也だが、月が無いせいで道を進めないでいた。
月を探している間に南(仮)を見失い、就寝しようと毛布に包まった竜也を、無駄に光る星が邪魔をする。
結局瞼を照らされ、竜也は安眠する事が出来なかった。
寝起きの一服すらできない強制禁煙状態。
睡眠欲が満たされないまま、朝日に叩き起こされる。
森までの道はまだまだ長い、そこで竜也は考えた。
跳ぼう、いや、飛ぼう、と。
今の俺ならいける、やれる。
決意した竜也は、準備運動をし、しっかりと助走をつけて、力強く地面を踏み抜いた。
地面が少し抉れた感じがしたが、竜也の身体は、空へと勢い良く舞い上がった。
助走中の疾走感、飛んだ時の躍動感、飛んでいる最中の浮遊感、そして圧倒的な解放感に包まれてて、竜也は思わず叫んだ。
「ィイッヤッホオォイ」
存分に走り幅跳びを堪能した竜也は恍惚の表情を浮かべながら、森の中へと落ちていく。
木を数本なぎ倒し、それでも何の外傷も見られない竜也の身体は、軽々と森へ着地した。
着地の姿勢から顔を上げた竜也がまず目にしたものは、生命溢れる神秘の世界だった。
木々が立ち並び、花々が彩り、見たことのない動物達が、着地の衝撃に怯え逃げていく後ろ姿。
空から二つの光を当てられ、影が少なく明るい雰囲気を出している。
遠くから見ただけではわからない幻想的な森。
そんな褒め言葉しか思い浮かばない光景に竜也は心を奪われ、ただ呆然とその場で立ち尽くしていた。