南へ
星のように輝く粒子、太陽の如く燃える火種。
短くなってしまったタバコを最後に大きく吸い込み、火の入った暖炉へと投げ込む。
何処か嬉しそうに火が吸殻を飲み込んだのを竜也は見なかった事にした。
あのドMの意思が火に混じっているかもしれない、などと考えたくは無かったのだ。
何はともあれ竜也の異世界ライフが今始まろうとしていた。
鼻歌を口ずさみながら部屋を物色する。
旅に使えそうな物を片っ端から、今着用しているローブのポケットから見つけた袋に詰めていく。
さすが異世界、物量的におかしい物が団扇の大きさの袋に入る入る。
タバコさえあれば元の世界となんら変わらない、むしろ数倍楽しい異世界なのだ。
「踊る阿呆に見る阿呆」先達は実にいい言葉を残してくれた。
海外旅行気分で竜也はローブにパッツンインナー上下、魔法の袋を身につけて小屋を出るのだった。
小屋を出たらまず墓標の前に立ち一言。
「タバコくれ」
しかし返事はない、金色の草も生えてこない。
「タバコ寄越せよ」
墓標を踏み付け、足の裏で転がし弄ぶ。
当然の様に墓標は何の反応も示さない。
そこで竜也は思った。
あのタバコなけなしの一本だったんじゃないか?と
出し渋っているのではなく、もう墓標からは出てこないとしたら…
「…マジで?」
再度蹴り転がしてみるが、当然反応はない。
「クソがっ!!」
墓標を全力で蹴り上げる。
前とは違いドM女の力で強化された竜也の蹴りは、墓標を空高く打ち上げ、落下の衝撃で地面へと深く埋め込んだ。
竜也はそんなものに気を取られずに、再び小屋へと戻った。
小屋へ入ると本棚を眺める。
そして見知らぬ文字で書き上げられた本を一冊手に取り読みふける。
竜也には自分が突然バイリンガルになったように、この世界の文字を理解する事が出来た。
その事を不思議に思わず、どうせドM女だろ、と勝手に解釈にしていた。
竜也が手に取ったいわゆる植物図鑑には、しっかりとあの金色の草が記載されていた。
『名称:金粉草
世界的にも珍しく、魔素の濃く暖かい地域に生息し、群生することは無く、孤立して物陰に生えていることが多い。
一定以上に成長すると全体を金色の粉へ変え空気中へとバラ撒く。
また…』
必要な部分だけを覚え、次は地図の本を開く。
しかし現在地がわからない。
竜也はため息をつきながら本を棚へ戻し、壁掛けの時計を確認して小屋を出た。
時刻は18時、目指すは南、だだっ広い焼け野原、野宿は必須、滅入る気持ちを奮い立たせてクソ女の領域を脱出するべく、太陽の位置を確認するが…
太陽が2つあった。
奇想天外、おっかなびっくり、不測の事態、エマージェンシー。
元の世界よりも小さいが、確かに光り輝く恒星が2つ。
異世界としては異世界なのだが、別々の方向へと沈んでいく太陽を見て竜也はポツリと。
「どっちが南だよ」
飽きそう