手紙
『拝見 竜也様。
突然のお呼び立て、誠に申し訳ありません。
既にお気づきの事と思いますが、この世界は竜也様の居らした世界ではございません。
いわゆる異世界の「剣と魔法のファンタジー」世界になります。
そして元の世界に戻ることはできませんのでご了承ください。
私がこちらの世界に竜也様をお呼びした理由を完結に伝えたいと思います。
150年前、この地で戦争がありました。
その戦争で私の恋人は亡くなり、はしたなく怒り狂った私が戦争を終結させました。
しかし戦争が終わっても彼は帰ってきません。
そこで私はこの地に住み、彼の魂を見守る事にしたのです。
この焼け野原で亡くなった無数の魂の中でも、私には彼だけが特別輝いて見えました。
その時の私はそれだけで幸せでした。
しかし時が経つにつれ、魂達は少しずつ数を減らしていきました。
そしていつしか焼け野原を漂っていた彼の魂も天へと昇り、この世界から旅立ってしまいました。
それでも私は彼の魂を魔法を使い見守り続けました。
輪廻を巡り、時には鳥、時には虫となり、数多の生と死を繰り返し、ついに彼の魂は人間に転生したのです。
そしてその私の恋人の魂を宿した人間こそが竜也様なのです。
私は歓喜しました。
長年の夢が実現する。そう思い早急に召喚魔法、正確には変換魔法の研究に勤しみました。
しかし魔法公式が完成した頃、私の命は長くありませんでした。
竜也様がこの手紙を読んでいらっしゃる時、私は小屋の前で眠りについているでしょう。
彼と出会って200年、彼が亡くなって150年、彼が竜也様に生まれ変わり25年経っても、私の願いはただ一つ。
私を罵ってください。
私はもうこの世にはいませんが、この小屋の前にある墓標に向かって罵ってください。
怒鳴り、ツバを吐き、墓標を踏み付けてくださっても構いません。
彼が生前の頃には嫌われてしまうのではないか、と恐くて言い出せなかった私の望みを叶えてください。
彼によく似た姿と声の竜也様に罵って頂きたいのです。
どうか私の願いを叶えてくださる事をお祈りいたします。 敬具
追伸
私のわがままでこの世界にお呼びしてしまったお詫び、といってはなんですが、私の力を差し上げます。
ただの力の塊、インゴットのようなものですので、竜也様にどのような力が現れになるかは、私にも想像がつきませんが、きっと竜也様のお役に立てる物と思います。』
「ふざけんな」
そう呟いた竜也は手紙を机に叩きつけ、怒気に満ちた足取りで扉に向かい、前蹴りで力強くこじ開ける。
そして早足で墓標へと近付き全力で墓標を蹴り倒した。
「ふざけんなよクソ女!!、あなたの前前前前前世が私の恋人だったから願いを叶えてとか俺全く関係ねぇじゃねぇか!!魂が同じだからって俺はお前の恋人じゃねぇし知り合いでもねぇ!!そんな異世界の赤の他人を呼び出して罵れとか大概にしろよ変態クソドM女が!!愛しい恋人の死体でもそこから眺めてろこの覗き魔!!」
そう怒鳴り、竜也はもう一度墓標を蹴りつけ、ありったけの悪意を込めてツバを吐きかけた。
すると突然墓標から火の手が上がり、燃え盛る炎はぼんやりと人の姿を象った。
そして何処からともなく、
「ありがとうございます!!ありがとうございますううぅぅ!!」
という女の声が聞こえ、炎は吸い込まれるように竜也の胸に消えていった。
結果的に竜也は手紙に書かれていた彼女の願いを全て叶えてしまった事に気づいた。
「死ねっ!!」
しかし相手は既に死んでいる。
意味の無い暴言を吐きながら竜也は髪を掻き毟る。
その動作で竜也は身体が異様に軽く感じる事に気が付いた。
ドM女の言っていた力の塊のおかげと結論付けた竜也は、思い思いに身体を動かす。
ダッシュは音を置き去りにした様に速く、ジャンプは重力から抜け出した様に高く跳んだ。
初めて体験する超人の動きを一通り楽しんだ後、竜也は墓標の前へと戻った。
「今はこんな力よりもタバコが欲しいよ、タバコが」
そう竜也が呟くと、墓標から動画の早送りの様に、金色に輝くイネ科植物の様な草が生えてきた。
ふと何かを考え閃いた竜也は、金色の草を根元から引き抜いて小屋へと駆けた。
小屋へ入るとまっすぐ本棚に向かい、適当な本から一枚ページを引き裂く。
そのページを今度は適当な大きさに整え、その上に粉々に握り潰した金色の草を敷く。
案外パリパリと乾燥した草をページの切れ端で筒状に丸めていく。
唾で形を整えたり、草がこぼれたりしないように湿らせたら、
異世界タバコの完成である!!
フィルターは無くいわゆるピースタバコだが、タバコである!!
竜也は歓喜した。
しかし火が…と思ったら、暖炉に火が入ってるではないか。
初めに見た時には薪すらくべられていなかったはずなのに。
しかし竜也はドM女の仕業か、と対して悩みもせずページの切れ端に火を移しタバコに火を付けた。
すると金色に輝く粒子が煙の様に立ち上り、タバコの先は煙よりも一層輝いていた。
深く吸い込み、吐き出す。
吐き出した煙も金の粒子で、若干ガムのCMに似ていたが、味は紛れもなくタバコだった。
しかも竜也が愛煙している「メイビーセブゥンス」にそっくりだった。
「…幸せ」
竜也はそう呟き、異世界の一服を満喫するのだった。




