変質者とプライバシー
五月晴れだった。
雲一つない澄み渡る空、荒廃した大地。
足元には花が供えられた墓標らしき石。
振り返ると木造の小さな小屋が建っていた。
それ以外は見渡す限りの焼け野原。
とりあえず竜也は、募る苛立ちを抑えながら、露出狂を脱出するべく乾燥した草を踏み鳴らし、小屋へと向かった。
こぢんまりとした一人暮らしに最適そうな小屋。
しかし扉を開けると、そこはまるで空間を無視した広い部屋が広がっていた。
外観からは想像出来ないレンガ造りの立派な物だった。
床には絨毯が敷かれ、机やソファーもしっかりとした物が置かれている。
ベッドや衣装棚と本棚、暖炉に水場など、一室しかないが生活感のある落ち着いた雰囲気。
住人は不在の様だが、それはそれで都合がいいと竜也は衣装棚に手をかけ中身を漁り出す。
しかし出てきたのは、まるでSMに使うような拘束具がずらりと。
家主の見てはいけない部分だわコレ、と竜也はそっと拘束具をしまい込み、別の段に手を掛けた。
しかしその段で出て来た物も家主の見てはいけない部分だった。
明らかに女物の下着類が綺麗に整頓されて置かれていた。
この小屋も持ち主は女だったのか…と認識を改めて下着類の段もそっとなるべく見ないように、棚へと押し込んだ。
さらに別の段を引き出すと、下着類以外の服があったが、これも女物で、スカートやらフリフリ。花柄にワンピースなど、竜也には恥ずかしくて着れない物ばかりだった。
衣装棚の四段中三段が不作に終わる。
最後の四段目に手を掛けながら、裸で焼け野原を歩く予定を進めていた竜也だが、ベッドのシーツでも巻けばいいか、と引き出し中を覗き込んだ。
結果として全裸散歩は免れた。
四段目で見つけたのは魔法使い的なローブとピッチピチのインナー上下のみ。
露出狂ではないのだが、身体のラインがこれでもか、という様に出ているのでローブの前をはだけることは出来ない。
家主(女)には悪いが少し拝借させてもらうことにした。
服を着て、苛立ちも若干収まり、落ち着いてもう一度室内を見回して見る。
あれ?もしかしたら俺泥棒じゃね?と今頃になって竜也は気づいた。
しかし気づいたところで竜也は慌てなかった。
突然炎に囲まれて知らない場所に連れてこられ、文句を言いたいのは竜也の方なのだ。
それにこの小屋に住んでいるのは女で、いざとなれば力尽くでどうにかしようと考えていた。
そしてふと、机の上を見ると、小屋に入った時にはなかったはずの手紙が、置かれていた。
竜也は言いようのない恐怖を覚えた。
誰かが小屋に入ったとは考えられない、扉が開いた音はしなかったし、家主が帰って来たら声をかけるはずだ。
声を掛けなかったとしても、気配を消して潜む、もしくは小屋に入った時から潜んでいたとしたら、相手の位置がわからない竜也に勝ち目はなかった。
家主が女だと思って油断していた。
あの手紙は死刑通告だと、家主の見てはいけない部分(拘束具)を見てしまったからだと、竜也は推測した。
好奇心は猫をも殺す。プライバシーは尊重されるべきなのだ。
竜也は素人の感覚で、手紙の主の気配を探ってはいるが、何処にいるのか見当もつかない。
しかし手紙を置いたということは読めという事。
恐る恐る慎重に歩き、竜也は手紙を手にとった。
そして汚い平仮名のような字で書かれた手紙を一通り読み終えた竜也は一言。
「ふざけんな」
竜也は激怒した。