大勝利もやし君
やあ、久しぶり
金貨十枚。
価値を知らない竜也にとっては、正に猫に小判という言葉が当てはまった。
大通りの屋台で、物は試しと串焼きを買おうとした際、お釣りが無いと追い返されてしまう。
金貨という物はそれなりに価値がある。ただそれだけを学んだ竜也は、再びフラリと街を彷徨いはじめた。
大通りから外れ、ひと気の少ない裏路地の奥。
竜也はちらりと見た看板に、金貨と同じマークが描かれている事に気がついた。
マーク以外には何も書かれていない。
ヤバい店でも何でもいいや、と竜也は看板の付いている建物に入っていく。
建物の中は見た目よりも狭く、下へ続く階段が一つ、大柄な男が三人、門番のように立っていた。
その横に「提示」とだけ書かれた立札。
何気なしに金貨を取り出すと、門番はにっこり笑って、階段へ竜也を招く。
何も考えず進み、階段を降りる竜也。
過ぎた力を手に入れたせいか、元からなのか、かなり楽観的な行動が多い竜也である
光る水晶でほんのりを照らされた階段を我が物顔で降りきると、そこには相撲の土俵の様に盛り上がった場所でとっく見合う筋骨隆々なおっさん二人と、それを取り囲み、木の札を握りしめて盛り上がる観客。
土俵と観客盛り盛りでアゲアゲやな、とバカな思考を繰り広げる竜也に声がかかった。
「いらっしゃいませー。こちら賭け札受付でーす。
どうやらギャンブルなお店に入ってしまったようだ、と竜也は早速札を買いに受付へ向かう。
「どうも、次の試合の札買える?」
「次のですか?次はキング・マックイーンとルーキーの少年の試合ですが。あまりお勧めしませんよ?前座みたいな物ですから、みなさんキングに賭けてますし。」
「そう、んじゃルーキーに金貨十枚。」
「…今なんと?」
「ルーキーに金貨十枚。」
「…こちらになります。しっっっかりとお確かめください。」
アホを見る目の受付に、しっかりと金貨を握らせて、竜也は試合のイカサマの準備に取り掛かった。
準備を終え、絶好の観戦ポジションを奪い取った竜也があくびをしていると、魔法で派手な演出をされた剛腕なモジャ男が現れた。
その後ろには、ひょろっちい十代半ばと思われる少年。
前座もいいところだ、と竜也は呆れた。
そして、キングの長いアピールが終わると、土俵の上でモジャともやしが向き合う。
風船の弾ける様な快音と共に両者が激突した。
先制はキング。巨木の威圧感をまとわせ、一直線に右ストレートを少年に放つ。
少年は反応すら出来ていない様子。
そこに竜也のイカサマが輝く。
小難しい事は何もない。そこらへんで拾った物を小さくちぎって竜也の力で投げるだけである。
力技故に効果は抜群。キングの右腕はしなるムチの様に軌道を変えて、少年を捉え損ねた。
さすがの少年もこれはチャンスと見たのか、ストローアームを虚弱満点で突き出す。
そこでまた我らが竜也の登場である。
少年の拳がキングに当たる直前。再び拾い物を投げてやる。
観客は全員気付かない。竜也が投げるものは遠目にはあまりにも小さく、速度もそれなりにあるからだ。
観客には少年の拳が不可解なほどクリーンヒットしたように見えただろう。
キングは場外へ吹き飛び気絶。竜也以外は唖然。
ウキウキ気分で竜也は換金場へ向かった。
金貨十枚が一時間で八倍になる力を使った竜也は、結局ギャンブル以外で金貨が使えずお腹を空かせるのであった。