ぴっちぴち
「それは?」
「…魔女は今、災厄の象徴として扱われています。
150年前、この地を囲む4つの国が戦争を起こしました。
ミジップ、スターボード、アヘッド、そして我が国アスターンです」
「へー、そんなにこの焼け野原が欲しかったんだ。枯れ草しかないのに」
「いいえ、それは違います。戦争が始まる前、この焼け野原は金粉草の宝庫でした。
金粉草は魔力の回復、魔法薬の素材、魔道具の媒体など魔法の発展には欠かせない物です。
睨み合いの末、戦いを切り出した4国はそれぞれ10万程の兵を出撃させました。
剣と剣がぶつかり、雄叫びと血飛沫が飛ぶ中、突然火の手が上がったそうです。
その火は、戦地を丸々と囲んでしまうと、誰も寄せ付けない灼熱の檻となり、1週間兵達を閉じ込めました。
4つの軍は一時休戦となり脱出の方法を話し合いましたが、水をかけても土をかけても、火はそれらを飲み込み、さらに激しく燃え上がりました。
時が経つに連れ、檻は輪を小さくして行きます。
2週間後に残ったのは、あの小屋が建っているほんの小さな範囲だけでした。
そこで火は消え、120人の命は助かりましたとさ」
「随分おとぎ話みたいな口調だな」
話の区切りを見計らい、竜也はクラメルに喋りかけた。
「私がまだ幼かった頃、母から毎晩のように聞かされましたから」
彼女は少し寂しそうに呟いた。
「それで魔女は嫌われてるのか」
「ええ、火が消えた2日後に小屋が建ち、そこに住む魔女に各国は糾弾しましたが、ことごとく追い払われ、結界を張られて近くことすらできなくなりました」
そう言ったクラメルの顔は暗く、何か思いつめた表情をしていた。
「どうかしたのか?」
「いえ、少し魔女の事を考えると…」
「なんだ」
言葉を濁し俯いた彼女に、竜也は続きを促す。
「…魔女は恋人を失った悲しみであの様な事をしてしまったんです。私の祖父もその戦争で命を落としましたが、私魔女の気持ちがわかるような気がして…」
クラメルのその言葉を聞いて、竜也は彼女の評価を大幅に変えた。
(恋人が戦争で死んだからって40万の人間を殺して言い訳ないだろが。「わかるような気がして…」ってコイツも魔女と同種かよ、気持ち悪い)
「死んだ人間の気持ちなんてわかんねーよ」
そう言って誤魔化した竜也は、気付いた事を質問する。
「祖父って言ったけどさ、150年前だよね?キャラメル今何歳だよ」
魔女の手紙にもあったように、この世界の寿命は長いんじゃないか?と推測する竜也。
「今年で82になります」
竜也の想像を超える高齢者だった。
(この外見で82歳?サイヤ人みたいに若い時期が長いのか?いや、長すぎるだろ)
驚く竜也は次の質問をする。
「この世界の平均寿命ってどれくらい?」
「?変な事を聞きますね。約200歳だったと思いますが」
「んじゃ俺は何歳に見える?」
「20程でしょうか?」
いや、この世界の人に聞いても意味がない、と竜也は小屋へと向かった。
小屋の物を漁り、手鏡を見つける。
恐る恐る覗く鏡の世界には、元いた世界でいう17、8歳の目つきの鋭い男が写っていた。
「う、嘘だろ?こ、これじゃタバコ咥えたって格好がつかないじゃないかっ!」
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