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 03


 アラームをかけておかないと、と身を投げ出したベッドから無理やり上体を起こす。今何時だ? ベッドサイドの液晶表示が目に入った。

 すでに午後の3時を回っている。

 ちっと舌打ちして、彼は起き上がった。

 普段ならば、10分でも寝られる時には寝ておくのだが、今はキケンな感じがする。眠気が半端ではない。仕方なくベッドから降りて上着を手にする。

 出ようと思っているところに、電話がきた。フロントからだった。

「お湯が出るか試しましたか?」

 と聞くのでまだ部屋についたばかりで湯は使っていない、というと

「配管の故障で、そこの部屋にお湯が送れません、上の階にお部屋を用意しますので移ってください」

 言葉こそ丁寧だが、移動は当然だろう? みたいに断固とした口調だった。

 荷物をまとめ直し、入り口近くに置いて自分は外に出ることした。

 外に出てみると、雪はもう止んでいた。しかし路肩に水っぽい薄墨色の塊が山になって、上に軽く、白い新しい雪が残っている。

 寒いのはイヤだな、やっぱり部屋に戻ることにして、彼はくるりと踵を返した。

 カフェで珈琲を一杯飲んでから、フロントで鍵をもらって今度は401の部屋に。

 もう荷物は届いていた。

 そういう所はシゴトが早くて気に入った。それにこの寒さではお湯が使えたほうがだんぜんいいに決まっている。

 すでに外は暗くなってきた。部屋を少し明るくしようと彼は窓際に寄って、厚手のカーテンを開ける。

 窓の脇にあったテーブルから何かが落ちた。

 見ると、薄手のガラスでできた、華奢な水差しが細かく割れてカーペットに散っている。

 カーテンの縁に触ってしまったのだろう。軽いものなので簡単にひっかかって、簡単に割れてしまったようだ。

 彼はかがみこんで、透明な欠片を拾い集めた。

 触ってみると、本当に薄い。

 どうしてこんな所に、こんな繊細なガラス製品が必要なのだ、と半分むくれながら欠片が残らないように注意して拾い集めた。

 さっきの部屋にはこんなものはあった記憶がない、重たげなヘンな灰皿には覚えがあったが、割れそうもなかった点ではこれより優秀だ。

 膨らんだ腰の部分に、金のつる草がこれまた細かい線で描かれている。

 集めた欠片を何となくつなぎ合わせてみる。つる草はぐるりと一周揃った。

 しかし手を離せばすぐにバラけてしまう。

 単なる自己満足の復旧だった。それでも大きな拾い忘れはなさそうだ。

 フロントに降りて、水差しを割ってしまったことを伝える。

 フロントの女性は、気の毒そうに笑ってから

「5ユーロです」とさらっと言った。「現金でお支払いになります? カードで?」

 あれは単なる、ホテル従業員の小遣い稼ぎの一手だ、懐から財布を出しながら彼は思う。

 中にいてもロクなことがない。

 彼はコートを取って来ると、また外へと出かけていった。

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