細い金色の線描き 01
空港の税関を通りドアを抜けるとすぐ、彼はボール紙の出迎えを受けた。
受け入れ側が全然用心していないのは、書いてある文字からもすぐわかった。
下手くそな日本語で「サンワイズ様」とある。
多分オレのことだろうな。ちゃんと「青木」っていうナイスな名前を教えておいたのに。
ROCKERベルリン支部もMIROCと注意力は似たり寄ったりなのだろう。
そう心の中でひとりごちて、サンライズはすたすたと名前のところまで近寄り、どうにかボール紙に手を伸ばそうとした。が、がっちりとした男の頭上、届かない。相手も悪気があるわけではなさそうだが、ついつい、近づいてくる彼に愛想をふりまいて、空いている方の手で握手を求めようとするのだから、差し上げた手の方に全く注意がいっていないらしい。
「ヘル・アオキ?」
「ああ、あの、その紙」
「あっしが書いたんでさ。日本語うまいでしょ」
「そうだね。もう降ろしていいから、その紙」
「オマール、と呼んでくだせえ」差し出された手はがっしりとして、熱く、乾いていた。
不快ではないが、かぎなれない煙草の匂いがする。
きれいに刈り込んだ口ひげの上で、とび色の目が楽しげに笑っている。
「ホテルまで送りまさ。荷物は」
「これ一つだけだ」
オマールは急に気がついたように「ダンナ、ドイツ語がいけるんだね」
「少しだけ。英語の方が少しは分かる」
「あははあ」なれなれしく、どん、と肩をたたくと、オマールは彼のスーツケースを担ぎ上げた。
「オレはどっちもよく分かんねえ。日本語もね。でもなんとかなりそうだね。じゃ、ダンナ、コートを着なせえ」
「え? 何だって」
「コート。ここで着た方がいいよ。外は雪だから」




