そして旅人は
「どうだった、レンブラントは」
とボビーに聞かれてサンライズは正直に答える。
「すごくよかったよ」
「いいわねえ、本物が観て来られて」で、どの作品が一番印象にのこったの?
「そりゃ……黄金の兜の男かな」
「あら、あれってレンブラントの真作ではなかったんでしょ? 先日もそのニュースを聞いたばかりだわ」
レンブラントの直筆メモが出た、というニュースの際についでのように聞いたらしいが、レプリカに体当たりして壊したアホがいたのよ、あちらで聞かなかった? と無邪気にそう言うのでへえ、そうなんだと答えるにとどめた。
「真作でなくても、かなりの値打ちでしょうに。偽物を壊そうとして体当たりしたらレプリカだった、というのも哀しいわよね」
詳しい内容は他には伝わっていなかったようだ。
オレの顔がバレなくてよかった、と密かにためていた息を吐く。
「偽物でもいいんだよ、別に」
「ニセモノ、っていうワケではないんだと思うけど、でも本人の作ではないんでしょ?」
「誰が描いたにせよ……本物は本物だ」
いつまでも目に焼きついて離れない、あの黄金の光。決して華やかではないが、すべてを呑みこんだあの輝き。
「あらあら」ボビーは優しく笑っている。
「まさかアナタから、芸術論を聞けるとは」
「今もあの男が、何かをずっと見つめ続けてているんだと思うとね……」
そう、描かれた絵が今でもオレたちの前でずっと、命をつないでいる。そう思えば……
「やはり絵ですら、すべてを呑みこんでそこに在るんだろうな」
あの都市、ベルリンのように。
そしてオレたち生きとし生ける者たちのように。
了




