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 02

 ファン・ドールンが相談相手にカクタスを選んだのは、同じバイヤー仲間だが、妙に警察に顔が広い男だという認識からだった。そして、口が固いことでも信頼していた。

 それでも、中身についてはファン・ドールンはレンブラントに関するものだとは明かさなかった。

 ただ、「スケッチだが、かなり貴重な美術品だろう」とコメントしたのみだった。


 ファン・ドールンは小心者だと日頃から認めていたカクタスだったが、この件については直感が何かただならぬものを告げていた。

 少なくとも、どこかから狙われているのは事実だと確信した彼は最初、美術館に直接相談をもちかけようとした。

 だが、館長は口が軽いことで有名で、実際すでに数ヶ所から似たような噂が聞こえ始めていた。焦ったファン・ドールンにせっつかれ、カクタスはとり急ぎ、次の鑑定時にそのお宝を美術館に預けるフリをして、いったん安全な所に隠すように強く勧めた。

 ファン・ドールンが受付に預けた絵を、カクタスの派遣した人間が館長の名を騙って受け取るという計画は滞りなく実行され、回収された絵は無事、ローマに送り届けられた。


 ブツを隠した後は、ファン・ドールンも安全な場所に移しROCKERと美術館の間で何とか調整してもらうつもりだった。もちろん、彼の安全をはかるために、ファン・ドールンにも絵の隠し場所については明かさなかった。


 プラータを拷問したローゼンブリッツの連中は、日本から補佐が来ることも知り、絵の行き先を探るためにフランツを彼とすり変わらせ、その日本人を利用してファン・ドールンから情報をとることにした。

「オマエさんは、ハトと呼ばれていたんだってさ」

 ROCKERから偽プラータの元に必要な物を運んで来られるのは、その時にはサンライズのみだったから、伝書鳩扱いだったようだ。


 ノビノビノビタの方が、まだ平和的だよな、と一人思う。


「タウンゼントや本物のプラータたちを実際手に掛けたのはローゼンブリッツのヤツらだが、結局アイツらは、仲間に見殺しにされたようなもんさ」

「支部の問題は、解決できないのか? ヨーロッパ本部に相談して」

 サンライズは、帰りのタクシーに乗ってからオマール(すでに、恰好も顔かたちもオマールに戻っていた、ただ話し方だけは折り目正しいクイーンズイングリッシュだった)にそう聞いてみたが、彼はハンドルを握ったまま、ただ肩をすくめてこう言っただけだった。

「善し悪しっていうのは、単純に決められない。裁判の女神様でもね」

 単純に、調停が済んでカクタスが支部に戻れば円満解決、と言えないところがこの世界の厳しさかもしれない。


 オレは副業もほどほどに身入りあるし、とりあえず暮らしには困らない。カアチャンもハウスキーピングの仕事に出ているし、ガキも五人、元気でやってるし、それなりに幸せなのかもな。


 そう語るオマールは、すでにあきらめているのか、それともこれが、この都市でしたたかに生き残る術なのだろうか。

 それでも、彼の横顔がどこかサバサバしているのだけが救いだった。


 新しく見つかったスケッチは、結局油絵が確たる真作であるという決定的な証拠にはならなかった。

 文字を書いたのは多分レンブラント本人だが、弟子がデッサンして置いたままにした紙に、その場にあった木炭でメモを書いただけなのかも知れない、という意見が出た。

 しかし、レンブラント工房の謎を解くピースの一つとして、貴重な資料だと言う点では委員会も満場一致で意見がまとまった。

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