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赤い稲妻 01


 ツォー駅に近いカフェで、サンライズはパウラと向かい合って座っていた。

「ヤツが持っていた写真は二枚とも処分しておいた。コピーはもうないそうだ」

 まだもう一枚、撮ってやがったのか。さりげなく「そうですか」と答えながらもサンライズはわずかに目をそらす。

 今でもまだ、思い出すと胃の腑が縮みあがるような恐怖が残っている。しかし僅かに、そうほんの僅かずつではあるが、その痛みも減りつつあるような気がする。

「ありがとう」

 思い直し、またパウラをまっすぐにみつめて礼を言った。

「酷い目に遭ったね……私たちの仕事を手伝ったばかりに」

 パウラの目の中にようやく、詫びにも近い色が見えた。

「しかし早く忘れることだ」

「忘れることはないだろうが、もう気にしていない、どうにもならない事はいつまでも後悔しないことにしている」

 パウラは楽しそうに声に出して笑った。

「やはり、ジャカードに聞いた通りだな、キミは」


 偽のプラータは自白によって、正体が判明した。

 本当の名はフランツ・ドレッシャー。旧東ドイツ・ハレの出身だった。

 元東ドイツの画学生だった彼はRAFから分派した『ローター・ブリッツ』に参加した。

 彼らは急激に進んだ資本主義を極悪なる帝国主義だと糾弾するグループだった。

 フランツは一年ほどロシアでテロの訓練を積んだ後、ベルリン市内で資金稼ぎの活動を補佐していた。

 しかし、自身の食いぶちを稼ぐにはやはり、アルバイトに精を出すしか、すべはなかった。


 ファン・ドールンは市内のあちこちの画廊に出入りする骨董品のバイヤーだった。

 アムステルダムに住んでいた彼は、特にレンブラント関係の情報に詳しく、自分でもたびたび、レンブラントが一時期手元に所有していた骨董品を扱うこともあった。


 フランツは、偶然バイト先の画廊で、オーナーとそこにたまた来合わせたファン・ドールンとの話を立ち聞きしていた。画廊のオーナーとファン・ドールンとは旧知の間柄で、彼がベルリンに来た時には必ずその画廊にも立ち寄っていた。

 ファン・ドールンの話はこうだった。

「博物館島内にあった共産党芸術研究会議所の倉庫に、十七世紀のデッサンや銅版画が数点発見されたんだ。

 その中の一枚が、どうもレンブラントらしい、国立美術館の館長に非公式に呼ばれたので、まずどんなものか確認してもらえないか、と相談を受けたが、内容からしてかなり信用できそうだ。しかも、それの真偽によっては他の作品についても再判定が必要になるかもしれない、これは美術界きっての大ニュースになる可能性があるぞ」

 かなり興奮した口調で、オランダ人のバイヤーは早口にそう語っていた。


 大きな金づるの匂いを察し、フランツは、早速仲間に相談した。

 スケッチを強奪し、それをネタに美術館をゆすろうという計画はすぐに詳細までまとまった。


 ファン・ドールンはそれでも仕事柄かなり慎重な方ではあった。

 ある日、街中で、全然見も知らない若者の視線を感じてそちらに目をやった時、2ブロックは離れていたにも関わらず、数日前にマクドナルドのレジ前ですれ違った男の顔と同じだったと急に思い当って、彼はその場に立ちすくんだ。

 それから翌日も、事務所の窓から見おろしていた時、通りに停めた車からこちらをうかがうような顔が目に飛び込んだ。

 彼は、さすがに怖くなって頼りになるベルリンの知人に助けを求めた。

 それが、カクタスだった。

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