表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/35

鳶色の眼のカクタス 01

 新しくレンブラントのスケッチが見つかったらしいという記者会見は、二日後の午前中と決まった。

 国立美術館館長と絵画館主査、アムステルダムからレンブラント再調査委員会の二名もやって来ることになった。

 デッサンの移動は、カクタスが細心の注意を払って行っていた。

 ローマからまずチューリヒへ、それからロンドンへ戻りそこからベルリンへの直通便を利用して運ばれた、と連絡があった。

 そして当日。

 サンライズたちも、厳重な警備に護られながらダーレムの記者会見会場に入った。

 一昨日みたばかりの展示スペースはすでにあらかた絵が外されていて寂しい限りだったが、美術館脇の広い会場に入ってみると、すでに、あの絵が掲げられていた。

『黄金の兜の男』の前、1.5メートルほど離した所に低くて長い演台がしつらえてあった。

 マイクは二本、絵から外した右よりの真ん中にはまるでオークションでも始まろうかというテーブルがひとつ。

 国内はZDFをはじめ、海外からも各メディアが詰めかけていた。

 レンブラントはどこの国でも人気なのだろう。

 サンライズは、かっちりした黒いスーツに身をつつみ(パウラから、このサイズを見つけるのに苦労した、と言われた。違う、オマエらがみなガサツにデカイからだ、と心の中で突っ込む)、着々と用意の整っていく会場内を見回していた。

 通信機が鳴った。

「サンライズ、絵が到着した。会場前に来い」

 直接受け取る役目は館長達だが、その後ろからついていくように、指示を受けていた。彼はネクタイを直し、入口に向かった。


 会場入口に、黒いバインダーを抱えてやはりフォーマルな黒ですっくと立っていた男をみて、サンライズははっと息をのんだ。

「カクタス・ローゼンだ、館長だね」

 男は館長に黒いバインダーを手渡した。

 A3くらいだろうか、思ったよりも小さい。しかし館長は緊張した面持ちでそれをうやうやしく受け取った。フラッシュがいくつも光り、何人かは拍手していた。

 ついて来た学芸員どうしが少し話している間に、鳶色の眼をしたカクタスがサンライズをみた。

「色々巻き込んでしまったようだな……それでも無事で安心した」

 トルコ訛りはすっかり取れていた。

「タウンゼントは見つかったよ。つい先ほど連絡が来た」

 ハンブルクの港内で、シートにくるまれた遺体が発見されたそうだ。

「オレのサポートが十分できていれば、こんなことにはならなかったのに……」

 夏の終わりごろ、ベルリンの移民連合集会があり、カクタスは任務で内部に潜入した。

 だが正体がバレかかって危うく殺されそうになった。

 彼の正体を暴露したのは、同じ支部の人間だった。彼らは支部内でも独自に国粋主義的な動きを強め、しばしばカクタスのような他民族のメンバーにいやがらせをしたり故意に危険な目にあわせたりして、支部からの追い出しを図っていた。

 副支部長のパウラ、特務課長のシェーンブルク、同僚のタウンゼントなどは彼の数少ない、しかし頼りになる理解者だった。

 だが敵対グループは次の手を打った。カクタスに情報漏えいの濡れ衣をきせたのだった。

 ヨーロッパ本部をも巻き込みかねない騒ぎとなり、カクタスはやむを得ず身を隠した。

 オマールと偽名を使い、それでもタウンゼントたちの力になれるようにベルリン市内でタクシーの運転手を始め、情報集めなどを手伝っていた。

 カクタスがごたごたの収束を図りつつ(支部長はすでに心労からかなりおかしな言動が目立ってきていた)、絵を守るために奔走している間に、タウンゼントは偽の情報によって、ハンブルクに飛んでしまった。

 タウンゼントは、従兄弟の息子で建築家の卵であるプラータを助手としてアシスト登録したばかりだったが、カクタスはその人物にも実際まだ会えていなかった。

 支部長から、空港へ日本から来た客人を迎えにいって欲しい、タウンゼントの代わりにプラータを補佐させるからその日本人をとりあえずホテルまで案内してやってくれ、と頼まれた頃には、彼はパウラと直接会うしか物事の解決は図れないと考えて何度かコンタクトを試みたが、パウラもしょっちゅう所払いをされているらしく、支部にいることはまれのようで結局会えずじまいだった。

 カクタスの尽力も空しく、タウンゼント、プラータの二人は運悪くできてしまった混沌の隙間にすっぽりと落ち込んでしまったのだった。


「そしてせっかくつなぎをつけたファン・ドールンまで……気のいいヤツだったのに」

「キミもエージェントだったんだな、カクタス」

「オマールと呼んでくれ」運転手の顔でにやりと笑った。

「帰りも空港まで送ってやるから、それまで無事にいろよ」

「了解」

 カクタスは黒塗りの車に戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ