04
「パパ」戸口の所に、少女が立っていた。
まどかと同じくらいの年齢、少し背が高いので10歳くらいか、鳶色の髪がすんなりと伸びて白いネグリジェの肩にかかっている。
「だれ、その人」ドイツ語だった。
総一郎は、少女のもとに寄って髪をなでる。
「ごめん、声で起きたかな?」少女を貴生のところまで連れてきた。
「ハナ、っていうんだ、うちの一人娘」ハナ、オマエのおじさんだよ、タカオさんだ、と貴生のわきに立たせる。
ハナはまっすぐ立ったまま、彼を見上げていた。
「大きな声出したの、おじさん?」
「うん……ごめん、起こしちゃったね」
毒気はすっかり抜けてしまっていた。
「ハナ、っていうのか。今何歳?」
日本語で聞くと、日本語で答えてくれた。
「8歳」
まどかとあまり変わらない。そう言われれば、何となく似ている気もする。
「ねえパパ、ミルク飲んでいい?」ハナは父親にもたれかかった。
「ダメだよ、歯を磨いて寝たんだろう?」
アニキもちゃんと、チチオヤしてるんだな、とつい笑みが漏れる。
そこに胸の通信機が細かく震えた。タカオは瞬時にサンライズに戻った。
「はい」
「アオキのだんな、すまん」オマールだった。
「今、留守電聞いたところだった、警察からも電話もらってたんだな、さっきはROCKERからも直接連絡あったのに……姪の結婚式で出てたんだ、大丈夫か?」
「だいじょうぶ。オレもたまたま身内に会えたんだ、アニキに」
「旅行中だったのか、兄さんは」
「こちらに住んでいるんだ。偶然だった」
「今はどこに」
「アニキの家だ」
場所まで教えない方がよさそうだ。プラータの件で懲りた。
「でももうホテルに戻るよ」
本当は戻りたくなかったが、他に行く場所がない。
「そうか……夜は気をつけて、オレが行けりゃいいんだが……遠かったら必ずタクシー使ってくれよ」
「ああ、ありがとう、おやすみ」
通信を切って、彼は立ち上がった。「オレもう帰るよ」
「ホテルにか?」総一郎も立ち上がる。
「泊まって行くんじゃないのか?」
「いや……まだシゴトも残ってるし」
「どんなシゴトしてるんだ、今は?」




