02
お互いの近況を(差しさわり無い程度に)伝えあいながら、気がついたらすっかり夜中の12時を回っていた。
そろそろ帰ろうかな、といいかけた所に、総一郎がふと話のついでにといったようにこうつぶやいた。
「ヒロママのこともあったしな」
サンライズの表情をみて、総一郎は驚いたように
「聞いてないのか?」眠そうな目を見開いた。
「何を」
弘子は貴生の実母の名前だ、急に心拍数があがる。
「どこにいるのか分かったとか? その……」母さんが、と素直に口から出なかった。
しかし総一郎の言葉は衝撃的だった。
「ヒロママに、会いに行ったんだよ去年」
サンライズはすっかり貴生に戻っていた。
なぜ兄貴がオレの母親に? 確かに兄貴だって、実の母親に6歳くらいで死に別れてからはしばらく、父の再婚相手である弘子のことを母と呼んではいたはずだが、どうして?
「うそだろ」
「ほんとだよ」総一郎がムキになってこたえる。
「オマエ、知らなかったのか? まさか」
「知らないも何も……」貴生は立ち上がった。「どこから聞いたの、居場所」
「サエポンから聞いたに決まってるだろう? オマエのところにもてっきり連絡が行ったと」
父親は三度結婚していた。最初が総一郎の母、彼女と死に別れてから次が貴生の母・弘子、そして彼女が出ていってから間もなく結婚して、父なき後も椎名の家を守っている沙恵美。血は全くつながっていないのにも関わらず、沙恵美にも総一郎はくったくなく接していて、彼女のことを以前からサエポンと呼んでいた。
「サエ……母さん、電話はオレもたまにはするけど、何も言ってなかった」
急にはげしく、裏切られた気がして目の前が真っ暗になる。
「何でだよ、何でそんな大事なこと兄貴には教えて実の息子には……」
「おい、落ちつけよ」総一郎も立ち上がり、弟の肩を抑える。
「聞いてなかったのか、そうか、悪かったよ」
「何でアニキが謝るんだよ!」
総一郎の手を振り払う。ここがどこか、何のために来たかも忘れている。
「ずっとずっと、気になっていたのに、捜して……」
言いながらも、実は捜していなかったということに思い至り、愕然となった。
MIROCの情報網を使えば、それにシヴァのような優秀な覗き屋がついてくれれば、姿を消した実母の行方なぞ案外簡単に見つけられていただろう。
しかし、今の今まで、彼は全然捜そうとしていなかったのだ。
「多分……実の息子だからこそ、オマエには言えなかったんだと思うよ、サエポンは。まあ座れ」
「ゴメン」貴生は、呆然とした表情のまままたソファに座り直した。
「オレ、全然捜そうともしてなかった、気になってはいたけど。捜してなかった、ゴメン」
「オマエが謝ることでもないよ」
総一郎の言葉が優しく胸にひびく。
「あのさ、ヒロママ入院してたんだ。というか、ずっと施設にいて……ブリスベンの」
オーストラリアにいたのだと言う。
自分も今海外にいるくせに、海外にいただなんて、思いもつかなかった。




