02
追われていた男は、覚悟を決めたのかこぶしを固め、何かの構えをしてみせた。
サンライズは包囲から出ようとあたりをうかがったが、周りの男たちもそれなりに場数を踏んでいるらしく、隙が見当たらない。
『シェイク』しか手がないのか? 思った瞬間、隣の男が一人に飛びかかっていった。何らかの構えはしていたものの、結局は素人だったらしい、やみくもに中の一人に殴りかかっている。
後ろのヤツが、サンライズにも掴みかかった。とっさに腕をとり、背負い投げる。
次のヤツもかかってきた。身をかがめてやりすごす。胃がきりきりと痛んでいたが、身体が勝手に戦うように動いている。が、突然、脇から切れのいいパンチが飛び出し、左頸骨を直撃。
そこから、少し記憶が飛んでしまった。気づいたら繁華街の中を、誰かに引きずられていた。大勢の話し声に囲まれている。目を上げてみると、隣は制服の警官だった、パトカーに向かうところらしい。
あり得ねえ。切れ切れの意識の下でそう毒づく。遠巻きにした人々が好奇の目を向けているのが見えた。日本のビジネスマンらしい姿もあった、かもしれない。どこか遠くで、誰かに呼ばれたような気がして振り向こうとしたが、立ち止まる余裕もなく、車に押し込められた。
今夜は史上最低の一日か、その一つ上くらいだな、車に揺られながら、それでも彼はようやく少しだけ、まどろむことができた。
「ヘル・アオキ」
ごった煮の留置所の中、サンライズは顔を上げた。
「迎えが来たぞ、出ろ」
周りの東洋人たちがじろじろと眺める中、彼は立ち上がって外に出た。
オマールにずいぶん早く連絡が取れたものだ、暗い通路を制服の警官について歩きながら、サンライズはついクセで胸ポケットの通信機を確認しようとする。
さっきハコに入る前に預けたんだった。いや、取られたというのか。
受付脇、椅子が向かい合わせに並んだ談話スペースに、がっちりした大柄な東洋人が、背筋を伸ばしてあたりをうかがうように座っているのが見えた。
彼を見かけると、はっとしたような表情になる。
サンライズも彼の顔をみて、思わず足をとめた。後ろについていたもう一人の警官が彼に軽くぶつかった。
その東洋人には、確かに見覚えがあった。
昔は気づかなかったが、どことなく父親に似ている。一瞬、逃げようかと思い、次にそんな自分に苦笑した。
「オマエ……」相手が声を発した。日本語だった。
「やっぱ、タカオだよな」
「……アニキ」
まさかこんな所で会えるとは思わなかった。兄との20年ぶりの再会だった。




