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幾多もの電飾の灯る通り 01

 飢えた旅人のように、彼は早足であてもなく歩き回った。


 本当は、早く家に帰りたかった。家とまではいかなくても、本来自分がいるべき場所に。

 それは日本だろうか、それともこの異国の地にも、安息の地があるのだろうか。

 どこかに帰りたい、という欲求は歩を進めるごと、強く激しく、彼の胸を締め付ける。

 どこかで立ち止り、煙草をと思い、はっと気づいた。

 サイフはおろか、煙草1本、持っていない。ホテルのキーは呆然としながらもフロントのキーボックスに投げ込んできたため、文字通り手ぶらの状態だった。

 しかしなぜか、通信機だけは胸ポケットに収まっている。

 オレはシゴトバカだ。頭を抱えてその場にうずくまりたくなってきた。

 ROCKERに電話してから(別の連絡員はどちらにせよ朝にならないと来ないと言っていた)いたたまれないような気分になり、逃げるように出てきたものの、これといって行くあてはない。

 ふと、空港に着いた時出迎えてくれたオマールのことを思い出した。が、どこに住んでいるのかさえ分からない。通信機では彼には連絡できないし、今はROCKERに聞いてみる気にもなれない。

 とにかく、あのホテルには戻りたくなかった。

 しばし、彼は両手をぶらんと下げて、歩道の暗がりに立ちすくんだ。

 後ろから若いカップルが何かとりとめなく話しながら追い越していく。向こうから、さえない色のビニルジャケットにくるまった男が迫ってきて、彼をじろりと一瞥すると、そのまま去っていった。

 すべての視線が痛い。彼はよろめきながら先に進む。


 気がつくと、クーダムから少し入った、暗い路地に迷い込んでいた。

 間もなく、大勢の話し声が少し前方の暗がりから湧きおこり、急激に近づいてきた。

 小柄な東洋人たちが、同じような一人の男を追っていた。

 逃げる男が、サンライズにぶつかった。すがるような目をしている。

 追いかけていた男の一人が叫んだ。一言も理解できない。ベトナム人のようだ。手を振り回し、かなり怒っている。

 急に逃げてきた男が、サンライズの腕をつかんで走り出した。思いがけず強い力で、彼もつられて走り出す。

 彼らはすぐに、クリスマスの飾りつけが始まった明るい繁華街の路上に出た。近くにいた中年のカップルがぎょっとしたようにふり向き、彼らに気づくと顔をしかめて早足で去っていった。

 明るくて人通りの多い場所ならば追われずに済むと思ったのだろうか、しかし、先ほどの暗い小路から、尖った目つきをした東洋人が四人ほど飛び出してきて、彼らを取り囲んだ。


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