02
つい立ち上がる。「今どこだ?」
荒い息づかい。かなり動揺しているようだ。
「ライニッケンドルフ。アパートの近くです。カバンをどこかに落としたみたいで……」
携帯とアパートの鍵が入ったカバンをどこかに置き忘れたらしい。財布はコートに入っていて無事だった、スーパーに寄ってさて、家に戻ろうとして気づいたのだと。またかよ、とつい軽く舌打ちが出そうになる。
「今からあなたの部屋に行ってもいいですか? よければ今夜泊めてください」
「あー」額を押さえて少し考えてから、送話口をしっかり押さえてパウラに聞く。
「プラータが今からホテルの部屋に来たいと。携帯と家の鍵を落としたと言ってる」
「かわってもらえないか」手を出したので、まずプラータに
「副支部長のパウラと替わる」
と伝えた、がプラータは焦っている。
「もうカードがなくて電話が切れそうだ。とりあえず、Uバーンに乗ってそちらに向かいます。連絡は少しの間つきませんが」
「支部から留守電が入っていただろう?」
その質問には「えっ?」という答えが返ってきた。「ぜんぜん、気がつきませんでした」
どこまで持っていたか知らないが、カバンに入りっぱなしでは気づくまい。
「ここまで何分くらいで来られる?」
「50分くらいで」では、という間もなく電話が切れる。
「会ったら警察に紛失届を出したか聞いてくれ、すぐ出すように、と。あと、ホテルではなくこちらに泊まるように彼に言って。仮眠室がある」
パウラはまた仕事らしい顔に戻った。
ここからホテルまでは案外近い。とりあえずホテルに帰ることに決めたサンライズ、彼女にようやく聞いてみた。
「プラータの個人調書、今見せてもらってもいいか?」
「なんだ、一昨日彼から預かって……ああ、データを電車に忘れた、と言ってたらしいね」
パウラは脇のキャビネットをがさがさと漁って、分厚いファイルを取り出した。
「登録した名前がヤン・ホルツ、コード『プラータ』で登録日11月16日。個人調書は……」
支部長のデスクだ、と彼女は舌打ちした。
「11月に入ってから、業務をためている」今日はもう帰ったらしく、デスクの引き出しは副所長でも開けられないらしい。
「直接彼に会ったことは?」
「一度だけ、タウンゼントと話をしていたのを遠くからみた。支部長に、あれがプラータだ、今度から仕事を手伝ってもらう、と聞いていたが」
「彼の出身地はどこか判るか?」聞くと、即座に「ミュンヘン」と答えが返ってきた。
「眼はかなり悪いのか?」
パウラは、やはりメガネのサンライズに少し遠慮したのかまた宙をみて
「裸眼視力は0.1もない、と書いてあったな、確か」
それから彼の眼鏡をみた。
「落とすからベルトをするようには言ったが。キミもそのままかけているんだね」
「作戦時にはストラップをするようにはなったがね」
サンライズの方が視力はいいくらいだろう。
「それから……彼は旧東独に住んでいたことは? 身内などはいるのか?」
「いや、記録にはなかったな……何か気になったのか」
「何となくね」




