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 02


 ホテルに帰ってみると、伝言が届いていた。

「支部に至急連絡を」とあった。

 プラータが寄って帰ったのではないのか? といぶかしく思いつつも、電話を入れてみると副支部長のパウラが出た。

「プラータといつ別れた?」

 まずそう聞かれたので、つい先ほどだと答えると、今度は

「ファン・ドールンに会ったのはいつだ?」と聞かれた。

「何かあったんですか?」

「事務所で死んでいた、ドアが開けっぱなしになっていて、同じビルの住人に見つけられたそうだ」

 あの建物に、他にも人がいたんだ、それが正直な感想だった。

「いつ?」

「発見されたのは午後3時過ぎ」

 もうすっかり暗くなっていたが、まだ6時にもなっていない。

「事務所を出たのはいつだ?」

「正午少し過ぎです」

「警察が言うには、殺されたのがその頃だと」後ろからナイフで首を切られていたと言う。

「支部長は、もちろんROCKERには問題はない、と主張しているが……」

 急いでプラータを呼びだしたが、なぜかずっと連絡がつかなかったらしい。

 昼も一緒だったし、午後はずっと美術館にいたと伝えたが、はっきりしない返事から、サンライズに対しても何らかの疑いを持っている様子がうかがえた。

「一度そちらに伺ってもよいですか?」

 電話を手にしながら、窓際に寄る。カーテンが少し開いているのが気になって、裾を持った。

 是非来てくれ、というので電車の乗り方を聞く。すぐ行きます、と電話を切る時に気がついた。

 テーブルの上の水差しがない。

 その瞬間、裸足の足先、親指の付け根に何かが当たった。食い込む感触に、そっと足を持ち上げる。

 指の付け根に、何かが見えた。大きな三角の、ガラスのかけら。しっかりと刺さっている。みるみるうちに、赤い血が盛り上がってきた。

 窓際は照明が暗いので、片足を上げたまま注意して部屋の真ん中に戻り、床に座る。

 靴を履いていればよかったのだが、何となく部屋に入ると靴も靴下も脱いでしまう。それが祟った。

 そっとガラスを取りのけ、明かりに透かしてみた。もう一度凝視する。

 ガラスの端に金線のつる草がみえた。


 バスルームに行って傷を洗い、持っていた絆創膏を貼る間も、部屋中を見渡してみて、他に変わったことはないか注意を払って眺めてみた。

 クローゼットやベッドの下も一通り確認。荷物ももう一度見たが、特に荒らされたりとか変わった様子は認められない。

 それから、またそっと窓際に戻る。

 かがんで、テーブル脇のカーペットに、ゆっくりと手をすべらせる。

 ガラスの破片はもう見つからなかった。

 前の残りというわけはないはずだ。金線が一周ぐるりと揃ったのを全て、拾って捨てていたのだから。

 今朝見た時には、新しい水差しはもうテーブルに乗っていた。しかし今はもうない。

 あまり意識して眺めた覚えのない、単なる装飾品。まるで無視されるのに慣れてしまった人間のように、ただその場にあっただけ。欠片が足に刺さらなければ、決して無くなっていることにも気づかなかっただろう。

 ちゃんと靴下と靴を履いて、上着を取り上げてまた外に。今度はドアの目立たない場所に黒い紙を挟んでおいた。


 フロントに鍵を預ける時に、今日掃除に入らなかったか聞いてみる。

「札を出して置いたんだが、掃除とか誰か入ったかな?」

 シゴトで来たので社内規定に従い、午前中出かける時に一応『DON‘T DISTURB』をドアにかけて出たのだが、もしかしたら? と聞いたのだがフロントの若い男は

「ナイン」きっぱりと強い口調でそう答えた。

「札が出ているお部屋には決して入りませんよ」

 

 だろうな、叱られちまったよ。でももう5ユーロは払ってやらないぞ。


 簡単な仕事だと思って最初から油断していたからこんな目に遭うんだ、彼は冷たい外気にぶるりと身を震わせ、Sバーンの駅へと向かった。

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