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くすんだ煤色の一画 01

 ファン・ドールンがいるという事務所は博物館島からほど近い場所だった。

 プラータに案内されるまま、ほとんど地理が解らないままついて行く。

 街並みのいたる所に大掛かりな補修が行われようとしているらしく、古びた街並みの中にがらんとした空間がいくつも透けてみえた。

 取り壊し予定のビルらしい、ブルーシートが掛けられた四角い塊が目の前にそびえていた。すでに生命の終わった淀んだ空気に取り巻かれている。その陰になるような一画も、同じようにさびれた雰囲気を漂わせていた。

 ファン・ドールンのいる建物もブルーシートこそかけられていなかったが、かなり古くからあるのかすっかり煤けた色をして、ところどころ外壁に穴も開いていた。

「あれは、爆撃の痕ですよ」

 そう言われてサンライズはぎょっとした。

「爆撃だって?」

「ええ」当然のようにプラータが応える。

「第二次世界大戦の。前世紀の傷がいまだに残されているんです」しかしこの一角ももうじき、すべて取り壊しになるでしょうがね、とあっさりした顔でビルに入っていく。

 ビルの入り口には真鍮のプレートがあり、一列に白いシールで名前が貼ってあった。

 ここに入っている事務所の名称らしい。

 ロゴなんてしゃれたものはなく、手書きのものばかりなのでそれほど流行っている所はなさそうだ。

 すっかり黄ばんだものの上から、ところどころ新しいシールが貼り替えてある。それぞれの名前の脇には、黒い四角いボタンがついている。呼び鈴がそれぞれの部屋につながっているようだ。

 新しく貼られたネームの中に

『GALERIE 17』

 というこじんまりした活字体の黒い文字があった。

 プラータがその脇にあるボタンを押すと、どこかでかすかなブザー音がして、階上から誰かが降りてくるのが聞こえた。途中まで来て

「誰?」

 と聞いてきたので、プラータが

「この前電話した、ヤン・ホルツです」

 と告げると少し間をおいてから黙って手まねきした。

 階段はほこりっぽく、他の事務所もいるのかいないのか判らないくらい、あたりは静まり返っていた。

 三階の事務所、ドアの前に先ほどの男が立っていた。

 寒さを感じないのか、かなり薄着だ。サスペンダーの下のシャツは何日も洗っていないかのようだった。

 二人は彼に続いて事務所に入った。

 山になった荷物をかき分けるようにして、彼は訪問者たちをソファに案内した。

 貼ってある美術展のポスターや積んであるパンフレット、書籍などを見る限りでは確かに美術関係の場所だろうとは想像がついたが、特に積極的に活動しているようにも見えなかった。

 他に人はおらず、窓際のデスクも一つきりで、やはり荷物が山のように積まれていた。

「ライモント・ファン・ドールンさんですよね」

 プラータの質問には直接答えず、彼はせかせかした口調で何か答えた。

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