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断片なる序章・淡い金色の天蓋

―― ベルリン


 ひとつの都市の名前は、その名を口にした者の内で響き渡る。

 人の心を惹きつけて止まない余韻。

 そこを一度でも訪れた者なら、BからNまでの短いシラブルの中に、心騒がせる旋律を聴き取るであろう。

 そこに歌われる街は、敷石のすべての隙間から、古い壊れかかった建物から、冷たく光る新しいビルからそしてすすけたような翳りのある並木の一本いっぽんから、日々積み重なってゆく過去を、静かに吐き出し続けている。

 都会らしい喧騒も、日増しに上へ上へと伸びてゆく建造物も、人びとの愛も悩みも、すべて意味を持たぬ微かなうなりとなってしまう……そんな天空の高みから、この街を見下ろしてみたら、何がみえるのだろうか。

 おそらく、そこはドーム状の大気に覆われた世界がみえるはずだ。

 うすく黄味がかった灰色の霞が、冷たい青い大気の中に天蓋となって淡く光りかがやき、黒ずんだ旧き街の上に自らの宮殿を形作っている。

 霞が消え去れば、街はたちまちのうちに凍てついてしまうであろう。

 巨大なベンツのシンボルも、テレビタワーも、博物館島もすべては永遠の中に時の歩みを止めてしまうに違いない。

 枯葉を焚いた時の煙のごとき、あいまいな大気の塊からなるドームこそが、街の守護天使。過去の香りを宿した、街の魂そのものなのだ。


 そしてその全てを静かに見守る男が、そのドームの中に棲んでいた。

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