第一章 裏ボスと勇者
勇者が魔王を倒して大体3年程たった。
魔王がいなくなった事により魔物達も活発的に動く事もなくなり、世界はそれなりに平和になったようだ。
しかし―――
「とうとう、見つけたぞ!」
俺の平和はなくなったようだ。珍しいな、ここに人が来るなんて。
俺がここに住み着いて以来初めての事だ。
「こんな所に住み着きやがって!」
「探すのに2年と7ヶ月かかったじゃない」
「…………殺す」
しかも団体さん。
えーと、最初に喋ったのが勇者だな。
この人間らしからぬ膨大な魔力、魔王が死んだ時に感じてた魔力だ。
で、次が……凄いムキムキの筋骨隆々とした身体で巨大なグレートアックスを持ってる男戦士……っぽいけど、格好的にあれ僧侶か。
ウソだろ? 強面でムキムキでグレートアックスなのに、格好が聖職者のモノって……
彼に一体何があったんだろう。
次が魔法使いの女性。
金色の長い髪の毛に尖った耳、そして勇者には及ばないがかなりの魔力量……、エルフ、いやコレはハイエルフかな。
人間とハイエルフが一緒に行動しているのは珍しいな……
人間とエルフは種族間で仲が悪いという事はない、むしろ良好な関係だが、ハイエルフとなると話は別だ。
ハイエルフはエルフも人間も自分達より下に見てる、はずなんだよな。
今の時代は違うのか?
次が暗殺者の男。
全身真っ黒の如何にもな格好をしている。
そしてかなり殺る気満々、殺気の籠もった眼を俺に向けている。
もっと平和的に行こうか。
しかし珍しい組み合わせだよな。
僧侶と魔法使いは分かるんだが暗殺者ってのは意外だ。
暗殺者は基本的に集団で行動はしないし。
でもこのメンバーであの魔王を倒しているならチームとして成り立っているんだろうな。
「貴様が何者かは知らんが、この世の平和のために討たせてもらうぞ」
勇者が腰に差した剣を抜き、こちらに突きつける。
あれは聖剣……えっと確か、コールブランドって言ったかな?
最上位の聖剣か、あんなので斬られたら魔王だってただじゃすまないだろうな。
しかし、勇者を見てまず驚いたのは……
「アリア、流石に魔王ほどじゃないと思うけど油断しちゃダメよ!」
魔法使いが勇者にそう言う。勇者の名前はアリアと言うのか。
名前で分かったかも知れないが今代の勇者は女だった。
「ああ、分かっている。お前達も気を引き締めていけ」
しかもかなり凛々しい。
格好も頭意外は白銀の鎧に身を包んでいるし、勇者というより騎士っぽいな………………。
と、いうか、もしかして俺、勇者達に殺されそうになってる?
「お前達、俺を倒しに来たのか?」
「そうだ」
勇者が頷く。
「何故だ? もうお前達は魔王を倒したんだろ? なら、ただの魔族の俺を倒す必要はないはずだ」
そもそも勇者は神から神託を受け、魔王を倒すまで絶大な力―個人差はある―を付与され、魔王を倒せば付与された力は無くなるはずなんだが。
「ただの魔族にしちゃ、魔力がデカすぎるよなぁ?」
ゴリマッチョ僧侶がグレートアックスを肩に担ぎながら言う。
だからなんで僧侶。
「あんたを倒せば私達の旅も終わるんだからさっさと死になさい」
魔法使いが手に持つ杖をカツンと地面に打ち付ける。
「…………死ね」
暗殺者がダガーを両手に構え、戦闘態勢に入る。
「まぁ、どうしてもやりたいなら掛かって来ればいいよ」
「では、行くぞ!」
勇者はコールブランドを掲げると、刀身が光輝き、そして閃光が俺に直撃した。