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迷宮の春 ―前編

 一人の少女は目を覚ました。はじめは混乱をしたもののすぐに落ち着きを取り戻し、今目の前にあるものの現状を確認し始めた。少女は鎖に囚われてるらしい。ジャラジャラと鳴らし簡単に壊せるものかどうか見た。しかしどうやらちょっとやそっとでは取れないものらしい。少女は舌打ちをする。

 そもそもどうして私がいるのかという気持ちが膨れ上がった。怒りがふつふつと沸いてくる。

 そんな時何人かの男たちが入り込んできた。

 そのうち先頭にいる男だけがやけに鼻を高くしているように見える。どこにでもいる、上だという雰囲気を出した人かもしれない。


「こいつが……」

「ええ、今日の実験体です」


 二人で会話する少女は目の前で行われているやり取りを見ていた。そして先頭にいる男は少女を見下ろす。腰帯には柄も全て刃で出来た剣だった。

 男は右手を少女の顎を掴み、嘗め回すように少女を見る。


 気持ち悪い。そう吐き捨てるように目を逸らすしかなかった。


「あの女とくっつけたらどうだ?」

「いえ、あの少女は貴重な情報です」

「なら、魔道兵器として改造してしまえ」


 少女は目を開く。あの女とは誰なのか。その女とは私の片割れではないのか。それを感じ取ったのか男は少女を見返し、そして邪悪な笑顔で少女を見下す。


「安心せいすぐには殺さんよ。貴様はこの国のために働くのだ」


 この迷宮の春でな。と高らかにいって男は部屋から出て行った。



 そこからの記憶はなかった。その代償のように右腕と左足がなかったのが元に戻っていた。



 ある男は一人で敵に占領された直轄区に向かった。

 その男は金を燻らせた様な髪を持ち、それを一つに括り、その括った紐に鈴をつけていた。その鈴は敵には魔界へ誘う魔犬の首輪だと恐れ、そして誰しも恐怖に包まれるような顔をしていた。彫が深く、正面から見るその顔はまるで血に植えた獅子のようだ。

 その男の名はアーバイン。ある国を迷宮の春と呼ばれ、そしてその国の騎士軍団長へと登りつめた男だった。その男は国王に名づけられた二つ名があった。

 それはこの国に因み、そしてこれからもこの世に語り継がれようとする名であった。






 ――――その名は春駆ける獅子。






「っ……!」


 何かから弾き飛ばされるように男は飛び起きた。その男は柄も全て刃で作られた剣を手に持ち、そのベットの縁に立つ女の首を切り落とした。

 女の首は吹き飛ぶことはなかった。ずるりと横に動き、そしてゴロンと落ちた。その顔は恐怖に包まれた顔だった。


「はあ……はあ……」


 荒い息をしながらその首がなくなった女体を抱き寄せる。その女体は裸であり、ぴくぴくと蛙が死ぬ間際のように震えていた。


「乾く……乾くんだよ……」


 そう呟き。切り口を舐める。頚椎を舐め、脊髄を舐め、そして筋肉を舐め、血管から噴き出る血を飲んだ。

 女の体にあった瑞々しさは消え去る。その姿はまるで羊の干し肉のように干乾びた。男は軽くなった女の体に歯を立てる。

 こんこんと扉が鳴る。そして了承も得ず入ってくる男がいた。見かけは女性化男性か分からない身なりをしており、髪も金色で長い。テンガロンハットを被り、白い羽をその帽子に飾っていた。


「あらら、また殺したのですかガルデス閣下」

「うるさい。この売女は俺の食料だ」

「まったく裏切りの枝にとり憑かれてから貴方は力を求めすぎたのです」

「黙れフェール! 貴様も食い殺してやってもいいのだぞ!」

「……しかし、閣下も人間ではないですね」


 荒い息をしていたガルダスは呼吸を整え、ゆっくりと立つ、左脇腹には大きく斬られた後があった。

 フェールはその姿を眺め、そしてゆっくりと後ろへと向く。


「あの小僧に斬られてから俺の体は疼くんだ。あいつを見つけ出して殺せとな」

「……」

「ズキズキ疼いてな。あの小僧を滅多刺しにしてやるんだ。内臓も何が何だかわからねえ位に切り刻んでやる」


 ガルダスは大きく笑った。フェールはその声を聞くだけ。


「アルトスとツァエリは、どうしている」

「アルトスは現在玩具で遊んでおり、ツァエリは草むしりをしています」

「そうか……なら良い」


 ガルダスは服を着ると外へと向かう。フェールはそのガルデスを見送った。

 フェールは見送った後、干し肉に変わり果てた女体を見つめる。


「ご飯ですよ。私の子供たち」


 フェールはその変わり果てた姿を見ていた。乾いた骨を砕く音。干乾びた肉をよだれでふやかし武者ぶる音が響く。

 その音を聞きながらフェールは笑った。


 その女はもう跡形もなかった。






「あっつい」


 感想を述べたのはハイネだった。ハイネは前の街とは服装が違い、マントを羽織りどこかお堅い服装だった。その服装で前をずんずんと歩く二人の後ろでそう述べた。

 そのうち一人が外套を脱ぎ、ハイネのほうを見た。


「ロランー! あっついから脱いでいい!?」

「人外に襲われた時にそのマントを羽織っていることで致命傷を避けれるかもしれないぞ」

「わたし人外を倒せるからいい」

「ふん。小娘が何を調子に乗っている。たかが最強の力を得ただけで貴様が強くなったというわけではないぞ」


 風が吹き、もう一人の外套が外れる。外套の中から赤い髪がしっとりと濡れていた。


「ロランに守られてばかりの人に言われたくない」

「馬鹿者。この奴隷は私よりまだまだ弱い。だから力をつけるために自分から率先して戦っているのだ」

「いや、アリスが動こうとしないから俺が守っているだけ」


 ロランがその言葉の制定をすると、アリスは蹴りをお見舞いする。しかしロランはそれをいとも容易く避けた。どうやらアリスよりロランのほうが戦闘能力は高いとハイネは思った。


「やっぱ脱ぐ。こんな状態で歩いていると私、股間までも濡れちゃうよ」

「ロランやはりこいつを捨ててきたほうがよかったんじゃないのか?」

「良いんじゃない? 不浄な人がいても俺は構わないから」


 そんなやり取りをハイネは見ていた。

 仲のいい二人。その二人はどこか突っ張っている関係だが、お互いにお互いの存在を信頼している。その二人の姿を見てハイネは唇をかんだ。しかしそれを隠すように外套を脱いだのだった。


 夜になり、ロランは枯れ木を切り倒し、たくさんの薪を作り上げ火をつける。夜の草原は冷え込み、ロランはいつも寝ないで火の管理をしている。

 アリスはロランの太股を枕代わりにしてすやすやと寝ていた。ロランはたまにその寝顔を見て微笑み、頬を撫でる。空は木々に阻まれていながらも美しかった。こんな静かな夜を過ごせるのはどうしてなのだろうかとロランは思った。

 そうまだ戦争は終わっていない。世界的に終わらない戦争はまだここまで手を広げてないということだけである。枯れ木をぎりぎりと握り締めるといとも容易く折れた。その折れた枯れ木を火の中にくべる。戦争というのは今目の前にある火と同じものだ。たくさんの人を犠牲にして赤く強く燃え上がる。その所為でロランの父を失うことはなかった。


 漆黒の男。


 今もその男はいるのかどうか知らない。ただいえることはいまだに賞金首のトップに君臨するということだ。

 漆黒の闇のような服。赤黒く血をすい続けたような身の丈もある剣。

 尋常ではないその格好はいまだに伝わっている。五年。その男を追い続けているロランは漆黒の男の所在を知らなかった。

 そして迷宮の春を滅亡まで追い込んだという一人の少女。

 それはいったいなんだろうかとロランは考えていた。


「……ロラン?」


 その声はハイネの声だった。ハイネは目の前で寝ていたが彼女は外套を毛布代わりに肩から羽織って座っていた。

 ロランはその声に反応し彼女を見る。

 ハイネの右腕には軍神オーディンが眠っている。そして足にはそのオーディンの神馬スレイプニールが宿る多重契約者。そのハイネは右腕をいつも黒く長い手袋で隠しているが今はさらし、夜風に当てていた。


「ロランさ、アリスのこと好きなの?」


 それは唐突だった。ロランの心臓は高鳴る。

 今までアリスを旅の相棒だと思って接してきた。しかし彼女とは五年の付き合いである。


「どうしてそのことを聞く」

「なんとなく」


 ハイネはそう言って火の周りに敷かれた石にはめてある鉄製のコップを手に取る。そのコップの中には火の熱が伝わった。少しだけ暖かい酒が入っている。

 ハイネはそれを息を鋭く吐いて冷やしてから一口口に運んだ。


「……分からない」

「どうして? 五年も一緒に旅をしているならアリスの気持ちも理解しろよ」

「俺にはその資格がないからだ」


 ハイネは口に運ぶ手を止める。

 ロランはもう一本薪を火にくべると口を開いた。


「俺はたくさんの人を殺してきた。その何人かは俺を死ぬ間際まで追い詰めた。そこをアリスは助けてくれた。それで俺はアリスに感謝をしている。だけどそれを逆手にとって好意を向けるなんて出来ない。俺は汚れているんだ。そんな体をアリスに差し出すなんて出来ない。

 それなら守るだけでもしたい。目の前にある相手が神であろうとも全てを捧げて彼女を守って見せる」

「……ならさ」


 ハイネは立ち、ロランの元へと向かう。ロランは動こうとしたが太股にはアリスの頭が置かれている。逃げることが出来なかった。

 ロランの左側に座るともたれるようにロランの肩に頭を乗せる。


「ハイネッ……」

「少しだけでいい」

「ハイネ?」


 ハイネは疲れた顔をし、靴を履いていない足をさすった。その足には靴擦れがひどく出来ていた。どうやら無理してロランたちについていたらしい。前にもアリスが靴擦れをした事を思い出す。


「お前のその守るという気持ちを私に向けてくれさえすれば私はそれでいい」

「……分かった」


 ハイネはそのまま寝てしまった。


 そのまま次の日になった。


 それは地下にある牢獄のように暗かった。先日の晴天の気温とは打って変わってこの地下のような暗闇は氷のように冷たい。

 水がどこかで落ちる音が響く。ぽたりぽたりと不規則に鳴り響く雫。その音で目を覚ました男はゆっくりと起き上がった。その男の顎には髭が生え、長い髪を一つに括っている。その髪は真っ黒だった。隣に長年使い込んだ剣が壁に立てかけてある。男は固い床で寝ていたのか痛む首を鳴らした。

 その首には紋章の一部が露出している。その紋章は赤毛の少女とよく似た紋章だった。


 ゆっくりと起き上がると男は外へと向かう。ゆっくりとした足取りで棘のように生える石にかけてあった漆黒の外套を羽織る。

 ゴツリと靴で石を踏む音が響く。

 外は雨だった。その雨は誰かのために流す涙よりも軽薄でひどく感情のない雨だった。男は外においてあった金属の筒を持ち、中へと戻る。

 そして座ると筒に入っていた水を飲んだ。喉には唾液が干乾びた物がこびり付いていたが水を通すことによって柔らかくなり、胃の中へと流れていった。飲んだ余韻を残すために息を吐く。


「……またか」


 その声につられるように入り口から蜘蛛のような生き物が入り込んでくる。人外だ。天井から歩いてくるその姿はまさに異形のほかなかった。足音もなくまるで虚ろとした存在の人外は武器を持ち、その男の元へと向かう。

 男は筒を置くと、座ったままその姿を見た。まさに滑稽な姿だと男は思った。お前たちもあの男にはめられたものか。と男は思った。

 お前は違うと心の中で思う。お前が俺を殺す存在ではないと。

 人外は露知れず、武器を振り上げて男へと振り下ろした。狙いは首。首だけでもとればいいのだ。

 しかしその男は見向きすらもしなかった。髪をぼりぼりとかきむしる。その瞳は赤く燃え上がるような目だった。


「……面倒だ」


 男のいた場所は驚異的な爆発を起こす。発破を岩に仕込み爆破させたみたいに山は粉砕し、天まで届くよな土煙が立ち上がる。


 山は跡形もなかった。






 雨の中、三人は歩いていた。ロランを先頭にしてアリスは外套を頭まで被って歩いている。ハイネはそのアリスの後ろを歩いていた。

 ハイネは露出の高い服を着、濡れた靴で靴擦れを酷くしない為に裸足で歩いていた。その足元にたまる水溜りが足を冷やし、昨日のような晴天とは違う顔を見せる。

 しかしそれでもハイネの苦情は消えることはなかった。


「ロラン! いつまで歩くの」


 後ろから聞こえる声にロランは振り替えもせず歩く。


「もうすぐ近くに村があるからそこで宿を借りる」

「もうすぐっていつなのよ!」


 ハイネは声を張り上げ、ロランに抗議を申し立てる。ロランはアリスを見るとアリスは少し元気がないように見えた。

 ロランはそのアリスの姿を見て話しかけようとしたが後にすることにした。

 雨は止むことをしなかった。ザーザーと地面を叩きつけるような音を響かせ、容赦なくロランたちを襲う。その冷たさは心地よさを感じるが逆に言えば体力を奪う。体を冷やすことをしないロランとアリスは体を小さくすることがやっとだった。その二人の後ろにいるハイネは宿について瞬間どうなるのだろうかとロランは思った。

 初めて街から出た野田から仕方ないと思う。はじめアリスもそうだったのだから。


 ロランは少しだけ離れたところに大きな人がいるのを確認する。ロランはその人が何者なのかを確認しようと目を細めた。

 その大きな人というのは人外のような気配がなかった。人外は気配が腐っているように感じるのだ。しかし目の前にいる人はそんな気配がなかった。

 人はロランよりも大きく、そしてふてぶてしい金属を着込んでいる。


「ロラン?」

「アリス。これ何……」


 言葉が消えたのはロランの顔が歪み、軋み、吹っ飛んだからだ。殴ったのはロランの目の前にいた人。それを見ていたアリスはロランの血を浴びる。頬に付着するロランの肉。その肉はどう見ても頬肉だった。ハイネはあまりのことに驚き、とっさに出した柄を握り締める。


「必中!」


 叫び、槍を投げる。その槍はロランを殴り飛ばした人の肩に当たる。

 しかし弾いた。槍は上に上がり、地面に突き刺さる。瞬間地面はクレーターのようにめり込んだ。それほどの衝撃を持って目の前の敵に衝突したのだ。

 それなのに肩は穴すら開かない。凹みもないのだ。


「ノエルか……」


 アリスは呟き、その目の前にいるものを睨んだ。人は沈黙を保っていた。ロランは何メートルも離れたところで地に伏していた。

 ハイネはロランの元に行こうとしたが、アリスはそれを制止する。


「貴様! ロランを心配しないのか!」

「ロランが簡単に死ぬわけがない。それを知っていて私はあえて放っているのだ」


 そのアリスの声は明らかにロランを信用している声だった。

 しかしハイネは理解していた。アリスの手は震えている。恐怖に包まれているのだ。彼女は心配をしているのだ。


「この目の前にいるのは」

「ゴーレム。迷宮の春の第四隊長ノエルの契約者だ」

「ゴーレム」


 ゴーレムの目が赤く光り、腕を振り上げる。ハイネはアリスの前に出て、槍を作り出した。重く振るわれた腕は槍を叩き折ろうと重くのしかかってくる。ハイネは苦痛に顔をゆがめ、その攻撃を塞ぐ。


「早く投槍撃を打て!」

「無理だ。この条件では火は出ない」

「っこの役立たず!」


 弾くように腕を上に振り上げる。ゴーレムの腕は上に上がると、ハイネは一瞬で間合いを詰める。ゴーレムの片腕はハイネがいた空間を殴った。ハイネは一気に詰めた場所から槍を作りかえる。黒く燃える炎に戻り、そして新たなる武器へと変換し始める。ハイネのイメージに沿って作り変えられるその武器は大剣にちかい大きさの武器だった。その剣を脇に収め、居合い切りのような構えを取る。その灰色の目は獲物を捕らえたわしのように強く鋭い眼光を走らせた。

 目の前にいる敵に殺意を持つ。

 すると剣は大きく揺れた。


「天を壊せ……神殺(ロンギヌス)


 ゴーレムの体が二つに切り落とされた。いや、切り落とされていない。

 ゴーレムの胴は抉れた様になかったのだ。


「小娘……」

「私の力ではこれはそんなに使うことは出来ない。特にこの技は一体集中攻撃だから一対一でしか使わない」


 剣を手放すと、黒い剣は霧散した。大剣の柄は、ハイネのベルトから出ている鎖に繋がれており、柄はベルトへと挟まれた。


「ロランは?」

「へーき。俺の頬肉どこか知らない?」


 ロランはゆっくりと立ち上がってハイネたちの元へ来る。右頬がなく奥歯が露出していた。アリスは頬に付着した頬肉をロランに渡す。


「すまんな」


 そう言ってロランはその肉を口に入れ、飲み込む。

 ハイネはうわ、と嫌そうな顔をする。ロランは口を閉じると、じわりとゆっくりだが、元へと戻ってゆく。少しすれば頬は元に戻ってくっついた。


「アリス。今のは?」

「ノエルの契約者だ。名はゴーレム。力は馬鹿みたいに強いが知能はない」

「ならどうしてここに」

「分からないのか?」


 アリスはロランを見る。ロランは治ったばかりの顎を撫でた。


「ゴーレムとは守るものという意味がある。ということはこの先は何かを守るものがあるという事だ。もしかするとノエルかもしれない」

「じゃあ、さっさと行くべきだ」


 ロランはそう言って歩き出す。ハイネとアリスはそのロランの後ろについていった。


 そこは村だった。その村はどこの村にもある懐かしく感じる雰囲気があるが、逆に寂しさも感じてしまう。廃墟と化した古い村だった。目の前にある家は苔に覆われ、そこには何もないという空虚感に包まれている。広場にあった噴水は枯渇していた。水もなく、全てが吸い取られたような死体だった。

 ロランたちはゆっくりと足を踏み入れる。ちゃんと地面を踏みしめているはずなのに、どこか緩衝材を一つ置いて踏みつけているようだった。アリスは目をゆっくりと凝らし、前をまっすぐ見ている。ハイネは周りをきょろきょろと見回していた。彼はそのアリスの視線に引かれるようにまっすぐ前を見た。

 雨でかすんで見えるが、目の前に少年がいた。

 年は六歳ほどで、髪は金色の肩まで伸びた貴族の息子と思わせるような風貌。ロランはその後姿を見たことがある。四年前に会ってそれ以来見たこともない少年だった。


「ノエル…隊長?」

「……まだ、僕をその名前で言ってくれるのですね、ロラン」


 祈るような姿勢を姿勢をしていたノエルは振り返り軽薄な笑みをロランに浮かべた。後ろについてきていたハイネはノエルを見たがすぐに興味を失くし、そっぽを向く。

 アリスはノエルを見つめていると、それに気づき、ノエルは深く頭を下げる。


「さっきのゴーレムは」

「大丈夫です。あのゴーレムは複製品(レプリカント)ですから。僕は死にませんよ」

「俺をどうして襲った」


 ノエルは顔色を変え、ロランを見つめ返す。ノエルの瞳は森のように深く鮮やかな緑だった。


「試験です。貴方に今の迷宮の春を破壊することが出来るか試してみたんです」

「俺は何を言われようともガルダスを殺す」


 ロラン自身は殺すと言い放った口が素直に動いたことに驚きを隠せなかった。ノエルはその姿を見て、儚げな笑顔を作る。アリスは俯くように目を下に向けた。


「…そうですか」

「ノエル隊長も戦いましょう。迷宮の春はこれ以上の犠牲を作らせないために」

「僕は、君の仲間にはならない」


 一言断る。ロランは驚きの顔で固まった。


「僕は迷宮の春側の人間だ。今回はこの村に謝罪をこめてここに来ただけだ」

「謝罪?」

「迷宮の春はいまひとつの計画を成功させようと奮起している。僕はその回収者にしか過ぎない。僕を殺すといい。だが僕を殺したとしても、何かが変わるというわけではないんだ」


 ハイネはノエルの言い放った言葉に嘘はない。とロランに口をつける。


「ノエル。今の迷宮の春は人間を捕まえて何をしようとしているのだ?」

「……人工人外計画」

「人外……」


 ハイネの表情が一変する。ロランはそれを感じ取り、制止の声を上げたが。もう遅かった。

 手には全てを貫き通す槍が、今にもノエルの右目を捕らえようとしているが、ハイネは歯を食いしばり、寸止めをする。ノエルはその一瞬の出来事に反応しなかった。

 いや、こう来ると分かっていたかのように立っているだけだった。ハイネは舌打ちをし、深い声を出す。


「貴様らが、この村を殺したのか!」

「殺していない。人外にしただけだ」

「それは人を殺したのと変わりないのか!」


 ロランはハイネの肩を掴む。


「ハイネやめろ。今はノエル隊長の言っていることを聞こう」

「私は、私は許さない! 人外が、貴様が! 迷宮の春が!」


 涙を流すハイネ。その槍は地面に突き刺し、崩れるように膝をつき嗚咽をかみ締めた。


「迷宮の春は、一人の少女に滅ぼされた」

「ノエル隊長は知っているのか?」

「ちゃんと見たというわけではないよ。生存者が言うには、天使だといっていたんだ」

「天使……」


 ロランはアリスを見る。アリスはただノエルを見つめていた。アリスには羽の痣がある。その背中に生える一対の羽はどこか天使に見えたのだ。アリスはロランの視線に気づいたのか、彼を見返す。ロランは恥ずかしくなって、顔を背けた。


「それからだよ。ガルダスが狂ったのは」

「引き戻そうとは思わなかったのか」


 アリスは問う。ノエルは首を横に振った。


「人工人外計画は、四年前から始動した。人外を捕獲し、構造を調べた結果。元は人間だということが分かったんだ。だけど、人外は今まで考えてきたものとは違った」


 ノエルは数歩距離をとる。距離にして一メートル。手を伸ばせば届く距離だった。少年は無邪気に微笑む。場違いな笑顔を振りまくその姿はどこかずれているようだった。


「僕ら契約者は僕らの器に契約者の魂と、力を受け入れる。器の大きさによって能力の力が変わるんだ。人外はそれに近いタイプだった」

「人外は、悪魔との契約を行い、悪魔は体の中に寄生して魂を喰らい、それごと悪魔の魂とした保管される」


 ハイネから教えてもらった人外の概念をロランは言った。ノエルは手を後ろで組んだ。


「そうだよ。でも悪魔ではなくて、世界樹の(グランシード)だけどね」

「グランシード?」


 ノエルは頷く。


「世界樹の種。それは神木、ユグドラシルの木に実った天使の種だよ。その種は人の中で発芽をし、世界の秩序を正す使者となる」

「それって……」


 そう、とノエルは言葉を続ける。


「僕らは『世界の敵』なんだよ。僕らの戦争は世界樹……ユグドラシルが引き起こした災厄なんだ」


 ロランとハイネはノエルを見つめていた。まさかと間違いを正そうとする。


「そして僕らは世界樹の味方なんだ」


 雨はゆっくりと止みつつあった。






 夜になると、雨は止んだ。パチパチと湿気だった木が爆ぜた。その音を聞きながらロランは火の勢いが消えないようにしっかりと見張っていた。

 ノエルはあのあと、ゴーレムの掌に乗り迷宮の春へと帰っていった。

 目の前に出された絶望。

 ロランは唇を強くかみ締め、炎を睨み付けた。怒るように炎が燃え出す。ロランの魔力の導きによって、炎の周りに酸素が多く集まったのだ。


「ロラン?」


 ロランの太股を枕代わりにするアリスが目を覚まし、ロランを見た。

 彼は彼女を見下ろし、ゆっくりと額を撫でる。アリスは擽ったそうに目を閉じて、その手を受け入れた。


「私たち、敵だったんだね」

「その前に人外は実は神の使者だって言うのに驚いた」


 それは私もだと呟くように言う。


「……どうするんだ?」

「何を?」

「迷宮の春だよ。貴様はこのまま迷宮の春の悪事を見過ごしたまま消えるというのか?」

「神に抗えというのか?」


 金色の瞳が炎から発せられる光によって輝いているように見える。その瞳は宝石のように美しかった。赤毛も痛みがなく、まるで女神のようだ。

 ロランは薪を火にくべる。


「……俺には何も出来ない。ただの契約者だ」

「貴様は神を信じるのか?」

「分からない。時と場合による」

「ノエルの言っていたことは虚言癖だとは思わなかったのか? 嘘をついていると思わなかったのか?」

「あの人は正直な人だ」

「……」


 アリスは黙った。ロランは父の形見である剣を握る。


「父のこの剣を俺に渡してくれたのはノエル隊長だ。俺はあの人の言っていることは嘘だと思わない。いや、思えない」

「……恩か?」

「そんなところか」


 アリスはロランの太股を殴った。

 激痛にロランは呻く。


「何するんだよ」

「貴様は私よりノエルを信じるというのか?」

「……」


 そう、もしこのままノエルを信じるといえば、それはアリスのことを信じていないということになる。アリスは四年間孤独だったロランを支えるために一緒に旅をしてきた。たった二度会った迷宮の春所属のノエルを信じるというのか?


「貴様にとって私はそんなに信じきれないものなのか?」


 ロランは言葉を捜した。


 しかし何もいい言葉は浮かんでこなかった。


 翌日になり、ロランは一睡も出来ず、煙しか出ない焚き火を見つめていた。

 雨に打たれ、湿った地面を乾かしながら燃えていたその姿はもう、何も燃やすことの出来ない種火である。

 ロランの目元には痣みたいなクマが出来ていた。

 小鳥も鳴かない静かな朝は気持ち悪さを際立たせていた。

 あくびを一つする。そのあくびは白い息へと変わり、ふわりと浮いてから消え去った。空はゆっくりと雲が這っている。今日は風が強い火になるだろうとロランは思った。


「おはよう」


 向かいで寝ていたハイネはロランに向かって挨拶をした。彼も挨拶を交わす。

 昨日はハイネは泣き疲れたようにぐっすりと眠っていた。その後姿をずっと見つめていたロランは口がいくら悪くても彼女は一人の幼い少女なのだとロランは思った。


「……なあ」

「何?」


 ハイネはロランに向かうように座る。灰色の紙がさらりと揺れた。


「ロランはどっちの見方なんだ?」

「……」


 ロランはぎりと唇の粘膜を噛む。肉は抉れ、鉄の味が口の中に広がったが、肉はすぐに補完された。

 ハイネは彼をまっすぐと見る。

 ノエルと話しているその姿はハイネにとっては不思議なものだったのだろう。敵同士がどうして仲良く話せるのかと。


「ノエル隊長は、多分どちらの味方でもないと思うんだ。隊長は隊長なりに何かを成し遂げようと奮起している。俺にはそう見えたんだ」

「……そう」


 ハイネはそこで会話を切る。ゆっくりと立ち、ここから離れようとするハイネを、ロランは呼び止めることが出来なかった。

 アリスがまだ寝ているとかそういうのではなく、それはどこか離れているせいなのかとロランは思った。離れて行くハイネの背中は復習をどこに迎えさせればいいのか分からないというような雰囲気さえ感じる。

 ロランは剣を強く握り締めた。

 ノエルに言われたとしてもロランは迷宮の春を潰さなければ村人には平和がこない。


「……ロラン?」

「決めた。迷宮の春を潰す」


 寝ぼけ眼のアリスは目を数回擦ったあと、うん。一言だけ応えた。






「ガルダス」


 新迷宮の春。その国は以前のような自然という言葉とはかなりかけ離れていた。その国は今までの国とは違って、煙を濛々と立ち上げ、城壁が真っ暗に塗りつぶされたみたいに黒く頑丈に見える。

 その国の王であるガルダスは呼び止められた。

 ガルダスは四年前と何も変わっていなかった。髭の長さも変わっておらず。唯一変わったといえばその体から出る狂気だろうか? その狂気は普通に人間が横切るだけで恐怖すら感じるほどの黒い毒だった。

 ガルダスを呼び止めたのはノエルだった。目を細め、ガルダスを見るノエルはにっこりと笑う。対するガルダスは深く怒りに満ちたような顔だった。


「また殺したのですか?」

「俺の食料は女のほかにない」


 彼の体から匂う血の匂いはノエルの眼前まで届いていたが、顔色一つせずそこに立つ少年は逆に歓喜に満ちているようだった。


「ガルダスが襲った村に向かった際、君の想い人にあったよ」

「何?」


 ノエルは金髪の髪を靡かせる。目を一度閉じてからまた開けた。


「聖炎の騎士だよ。君を潰すと言っていた」


 ガルダスは突然膝を床につけ、脇腹を押さえた。脂汗を噴出すその姿は苦痛のほかなかった。


「そうか、あの男が帰ってくるのか……!」

「うれしい?」

「ああ、うれしいに決まっている。この四年間俺は何を憎んできていたのかよく分からないくらいにあいつを憎んだ。今が憎しみを向ける時期! 神は俺に手を差し伸べてくれる!」


 高らかに大げさなオペラを見ているようだとノエルは思った。

 彼の執着心は全ては四年前から始まっていた。脇腹を切られ、致命傷を避けられたあの雪辱。殺せばいいものを殺さなかったロランが憎かったのだ。


「殺してやる……! そしてお前を殺した暁には貴様を俺の血肉にしてやろう……」


 一匹の獣が牙を剥く。


「アルトスと、フェールを奴らへと向かわせろ。人外も持たせてな」

「はい」


 ノエルはそう言って騎士宿舎へと向かった。

 ガルダスは笑う。その引きつかせるような笑い声は廊下を響かせていた。






 ロランは剣を振るう。その振るう姿は血潮を作り出す舞のように優雅で美しかった。周りにいた敵は首を的確に刈り取る、足を切り取られる。

 口の端をゆがませた。ロランの顔は赤く染まることなかった。周りに吹き上げる赤い噴水に濡れることなく、華麗に舞う。


 まるで戦場で華麗に咲く白銀の花。


「ロラン!」


 彼の名前を呼ぶ声、ロランは横目でその声の主を見た。ハイネが黒い槍を携え、伸びた槍を敵を貫いた。


「人外が多すぎる」

「アリスは?」

「馬鹿者、私が殺されるわけがなかろう」


 ロランは目の前にいた人外を切り捨て、アリスの右手に立ち、迎撃の態勢をとった。ハイネも逆に立ち、背中合わせのように立つ。その三人を囲うように人外がたくさんいた。ざっと見て、二百はくだらない。ハイネはしっかりと踏みしめているが、息を肩で呼吸をしていた。おそらくまともに戦えるのはロランだけだろう。


「どうする?」

「三手に別れた方がいいと私は思うが…それは名案だと思えない」


 しかしこのまま続けていればぼろが出る。

 ロランとハイネが持つ能力は一対一で行われるものであるが、周りを巻き込む様な技が多いため味方がそばにいることによりまともな力を発揮できない。ロランはそれをよく知っていた。


「大丈夫。私はそんな簡単にくたばる女じゃないわよ」


 そう言ってハイネは足元にスレイプニールの紋章を作り出す。一歩の踏み込みが砂埃を作り上げ、敵を中に飛ばした。

 数メートルロランから離れると、ハイネは槍を人外の腹に突き立てる。その槍を足踏み台にして、もう一体の人外の顔を蹴りぬいた。首からもげる音が響く。首は皮膚一枚でくっついていた。普通なら致命傷になるはずが、人外は生きていた。振りかぶる斧。それを右足で弾き返す。斧は柄で折れ、他の人外の頭を割った。

 槍を引き抜き、体制を整える。そして人外の血で汚れた槍を振り回し、刃を紙面に向ける。そして地面に突き刺した。


処刑杭(ニードル)


 瞬間、ハイネの辺りにいた人外の心臓に目掛け、グングニールの槍がたくさん生えた。

 まるで落とし穴に設置された針のように突き刺さる人外。足は浮き、体の重みで深々と突き刺さるその姿を、ハイネは目にもくれず、槍を引き抜いた。槍は全て煙のように霧散し、右手へと戻る。

 拍手が沸きあがった。


「すばらしい。さすが軍神といったところですか」

「誰だ」


 後ろで叩かれる拍手にいらだったハイネは振り向きざまに槍を投げ放つ。音速に近い速さで向かった槍は粉砕した。

 驚きの顔をするハイネ。その声の主とハイネの間には茶色の土塊だった壁があった。


「嫌ですね。争いは苦手です」

「そうかしら? あんたの体からは侠気が渦巻いているのが見えるけど?」


 実際は見えていない。しかしその壁の婿から黒い気配があるというのがハイネはうっすらだがいるということを知っていた。


「私は剣を握るのが苦手でしてね? 盾等の防衛を得意とするんです」

「っはん!」


 鼻で笑い、ハイネは槍を変形させた。大きな刃を持った薙刀。一閃するように一本の光の線を引いた。

 あたりにいた人外は二つに切り落とされる。少なくとも五十の人外は切り伏せられたに違いない。

 土塊の壁も光が走ると滑るように落ちた。

 その向こうには男か女か見分けが付かない人がいた。

 テンガロンハットを被り、ハイネからしたらナルシストにしか見えない。


「紹介しましょう。私は迷宮の春所属、第三隊長。フェールです」

「名乗る必要はない。貴様は今ここで殺す」

「私は戦いませんといったでしょう? 貴方の相手はこの子達です」


 指を鳴らすと、地面からうじゃうじゃと小人が湧き出ていた。ハイネは気味が悪いという顔をする。


「この子達はノーム。私の子供たちです」


 ふふふと笑うフェール。

 そして指を一本だし、ハイネへと向ける。


「さあ、お食事の時間です」


 その一言でノームはハイネへと走っていった。


 爆発が起き上がる。その爆発で黒い煙と一緒に見える紅い炎は家を焼き尽くす炎とは違い血のように黒く赤い色だった。

 その中心で立つ元凶は金色の瞳を有し、黒い炎を巻き込む紅い炎のように紅い髪を熱風に靡かせる。

 紅炎の緋女だった。

 どこか儚げに見えるのは炎の光のあて具合だからだろうか? しかし思慮深い顔をしているのは間違いない。

 右手には紅炎で作られた篭手を装着していた。


 人外は次々とアリスの元へと向かってくるが、全てがたどり着く前に灰燼へと帰する。その光景は火に入る蛾のようだ。


 目の前に人がいた。

 いや、人というものではない。人外の中で人間がいるということはおかしいことだ。

 その目の前にいる男は筋肉粒々で、どこか寂しい顔をしていた。はちきれんばかりの鎧を着こんで面を合わせるその姿に、アリスは覚えがあった。


「アルトスか」


 アルトスは口も利けず、背中に携えていた巨大な斧を取り出す。いや、斧とはいえない形状の武器。鎌のように歪曲したその武器の先端にはスピアのような棘を有した大きな獲物。

 その獲物をアリスに向けて鋭く投げた。アリスはそれをひらりとかわす。しかし、その獲物は直線ではなく、曲がった。いや、振るうように回った。


 アリスはそれを紙一重で交わした。


 赤い髪が一房切り落とされる。はらはらと落ちた髪は地面に着地する。

 アルトスはアリスの隣に立っていた。


「……投槍撃(ジャベリン)


 篭手を左手にも付加させる。両手に投槍撃に使う篭手を顕現させると、右手でアルトスの胴に目掛けて拳を放つ。

 ジャベリンは、一種の爆発物で飛ぶ破片の役目がある。爆発の衝撃。それらを打撃で相乗効果させるその威力は人間はおろか人外もひとたまりもない。その威力は言葉で表すことは難しい。地面が砕けるようにしてクレーターを作り出す。そして浮き上がる破片が爆発によって吹き飛ぶ。


「やはり同じ属性を持つ相手には効きにくいな」


 左手をぷらぷらと振ったアリスは微笑んだ。アルトスの着込んでいた鎧はおろか服を巻き込んで抉れていた。燃える服は灰になり、鎧は液体に誘拐して流れ落ちた。

 しかしアルトスの体は一切傷ついていなかった。


「……」


 アルトスは斧をしっかりと握り、振りかぶる。アリスは一定の距離をとり、どう出るか考える余地を選んだ。しかしその時間はアルトスは許さない。

 斧の先端にある棘を杭のようにして突き刺すと、遠心力の応用で風を切る蹴りを放った。その蹴りがアリスの胴に入る。綺麗に入った足がそのまま振り切る。紙くずを蹴り飛ばされたように飛んだアリスの顔は苦痛で歪む。


「っち……」


 胃から込み上げる激流を飲み込み、体勢を整えとうとする。しかし許さなかった。

 アリスの飛ぶ早さについてくるようにアルトスは跳躍する。アリスは驚きで思わず右手を前に突き出した。

 斧に炎を纏わせ、振り下ろすその姿は炎の魔人だ。牛角を生やす炎の獣人を連想させる。

 その斧をまとう炎は赤黒い。干乾びた血のように不気味なものだった。

 ドンと爆発音が響く。土ぼこりが舞い、赤黒い炎が空中で舞う。その軌道は三日月のように弧を描いていた。

 地面に倒れるものはアリスだった。口から血を吐きだし、呼吸をゆっくりとする。口に入った砂をかみ締め、ゆっくりと起き上がった。


 アルトスは元は貧弱な兵士だった。迷宮の春の試験では三年連続不採用であり、アルトスの両親は要らない子と言われ続けてきた。

 もちろんその貧弱から、いじめはあった。しかし、それに対抗する力もない彼は契約者と会う。その契約者はアリスが見た幻影とよく似た炎の魔人だった。

 孤独というマイナスを見た魔人はアルトスの力となった。その力はガルダスを劣るが、実力はそれ以上かもしれない。しかし代償は残酷だった。

 孤独というマイナスを気に入った魔人は『人』を奪い取った。

 人としての基本なことを許さなかった。

 食欲を許さず、傲慢を許さず、憎むことも怒ることも、大罪を全てを許さなかった。

 それは狂気だった。アルトスは後悔をする。しかし、その後悔さえ魔人は許すことをしなかった。


 それ以来、アルトスは人と会話をすることをやめる。いつまでも孤独でいる彼はただただ自分の体を鍛えるほかなかった。


「ばかばかしい」


 一言アリスは否定をした。何が孤独だ。と吐き捨てる。アルトスは大きな斧を片手で握り締めて、放つ用意をする。一歩でも仕掛けた時点で、彼女は串刺しになるのは間違いない。

 しかしアリスはその斧を見ていなかった。

 両手に燃え盛る篭手を解除する。炎が消え去り、傷だらけの腕が露となった。その傷は今出来たものではない。これまで数々の戦いによって生まれたこの傷だ。


「はあ……」


 息をゆっくりと吐く。血の味が吐く息からする。鼻にも息が通り、血のにおいがする。

 これ死に近づく瞬間。彼女は実感をする。

 アルトスが、まるで獣のように走ってきた。このまま避けなければ死んでしまうだろう。しかし力を振り絞って足を一歩も動かすことが出来なかった。アルトスの斧が解放へと誘うものだと誤認する。

 疲弊が激しい体に渇を入れる。


 動け、動いてくれ。と。


 しかしその願いは儚く遠いものだった。

 その二人が重なるように影が映る。アリスの影には斧の先端にあった棘が貫かれたように見えた。






「……アリス?」


 ロランは攻撃の手をやめた。あたりには人外がまだうじゃうじゃと沸いていた。

 ロランが感じた違和感。それはどこか気持ち悪さが漂うものだった。たった一人の契約者。その契約者が危ない目にあっているということ。

 人外は咆哮をし、ロランへと襲い掛かる。

 彼は髪で目が隠れていた。鈴の音は人外の血によって鳴る音が鈍い。


 襲い掛かった人外が止まった。


 ぴくぴくと数秒動いた後、ずるりと滑る音が響く。

 しかし、それは一回の斬撃ではなかった。

 細切れになったその人外を踏みしめる。グジュリと熟れた果実のように潰れる音を出したその音は踏んだロランにとって気持ち悪いものだった。


「不快だ。てめーらの所為で全部が不快だ」


 剣にこびり付いた血糊を露払いする。ピピピと一本の線が引かれた。

 そして剣を収めた。このとき人外は何かに怯えた。剣を持っていた彼には挑むという気持ちがあったが。今の彼にはこれまでにならぬ歪を感じたのだ。


 人外は人ではなくて、人である。


 それはノエルが残した言葉である。人外は人がグランシードを埋め込まれて使徒化したものだ。

 アリスには人を殺すことをあんまり許されてなかった。


 死んだ姿が気持ち悪いからだと。


「悪いが、俺は今時間ないんだ。そこをどけ」


 左胸から紅く燃え上がる炎が生み出される。

 心臓の上、いや、アリスとの契約した際に彫られるはずだった紋章が左胸に浮き出したのだ。その紋章から生み出された炎は両腕へと燃え移る。

 その姿に危険を感じた人外は、一つに固まった。

 人外には共通して一つの能力がある。それは『融合』その力を発動させた数多の人外は一つの巨大な生き物へと化す。

 翼を生やし、獅子の顔を持ち、鷲の足を持ち、そして毒蛇のような尾を持つ生き物。

 その生き物は人外の体と変わらず、黒い文字が体を巻きつけていた。大きな咆哮。地面がゆれ、瓦礫が振動によって浮いた。

 しかし一人、目の前にいる強大な敵を除いて。


「邪魔だ」


 一言吐き捨てると、ロランはその生き物に触れた。脇腹を撫でるように横切ると、腕で燃え上がっていた炎は生き物を燃やそうと燃え上がる。

 生き物は叫んだ。翼を燃やされ、尾が灰になろうともその体は再生し続ける。

 人外の能力は人外の生命の数がその生き物の命だった。よって、一回死ぬことによって生き物の命は減り、人外が一体死ぬことになる。しかし、生き物の体に付着した炎は消えなかった。

 次々と燃やし尽くすその炎はまるで消えることのない太陽の光だ。

 苦痛の声が上がり始める。鷲の足がもげると、肉が蠢くように足を作り出す。

 しかしその再生力が仇になる。何度『死』を受け入れなければならない。生き物は集合体である脳を活用する。

 しかしそれは誰しも分かることだ。


 発狂する。


 何度死んでも死ぬことを許されない断罪の炎。自分の生命力を呪った。

 ロランはその何度も再生する生き物を一瞥し、去ってゆく。

 そして巨大な生き物は結果的に灰へと帰るのだった。


「もう終わりですか? 軍神」

「はあ……クソ!」


 周りは地面がめり込んだ跡とたくさんの切り刻まれたような跡が通っていた。状況は明らかだった。ハイネが片膝を地面につけており、槍を杖代わりに凭れ掛かっていた。そのハイネの体は刃物で切られた後がたくさんあった。しかしその裂傷は全て浅い傷だった。

 そんなに離れていないところにフェールはハイネを見下ろしていた。

 ハイネはそれを見上げるように睨む。


「まだ抗うのですか」

「ッハ! 誰が諦めるなんか言った。ナルシストなんかぶっ殺してやる」


 フェールは指を鳴らすと一体のノームがハイネに目掛けて斧を振り下ろした。ハイネはそれを跳躍で交わす。しかしそれが簡単に掻い潜れる様な攻撃網ではなかった。

 ハイネの相手フェールは、土の妖精ノームの契約者だ。能力は単純。ノームの召還と防御の特化その二つだけだった。


 次々襲い掛かる斬撃にハイネは防戦一方になるしかなかった。


「どうですか私の子供たちは」

「不細工だね」


 一言だけ毒を吐くとハイネは必中(グングニール)を放つ。必中は三体のノームを貫くしかし威力は衰えず、フェールの心臓を食いつくさんと飛んでくる。しかしフェールはそれを何かを理解した瞬間目の前に土塊の壁が出来る。その壁に必中は当たると、二つに折れ、必中は霧散する。

 ハイネは舌打ちをした。あの目の前に顕現される壁を破壊しなければ奴を射止めることが出来ない。

 必中(グングニール)神殺(ロンギヌス)があるが、必中は遠距離型であり威力は神殺しより数段劣る。逆に神殺は超接近戦に使う業であるため、使ってもいいのだが周りにいるノームが邪魔する上に、この技はためが必要とされている。

 要は八方塞がりな状態だった。

 その防戦一方にハイネは腹を立てるしかなかった。

 こんな面倒な目にあうとは思いもしなかったからだ。


 ハイネ自身の体の魔力も尽きつつある。このまま長期戦に持ち込むのがフェールの目論見なのだろう。この状況を打破するにはノームを全て殺し、フェールを潰さなければならない。

 どうすればとハイネはスレイプニールの力を使い上空へと逃げる。辺りを見ると、紅く燃え上がる炎が見えた。その炎は猛々しく、そしてゆっくりと移動していた。


「……っち、本当面倒なことになりそうだ」


 ハイネは呟くと、フェールへと落下の応用で加速する。右手に携えるは大剣。幅もそんなにない細身のある剣だった。

 フェールはハイネにため息を吐き、ノームを迎撃させる。

 ハイネは途中で軌道を変換させ、ノームと交戦する。


「おい、ナルシスト。いい事を教えてやる」


 ハイネはフェールに向かって言い放った。

 フェールはピクリと眉をひそめる。


「お前の弱点を見つけた。今から教えてやる」


 そういうとハイネは右足に手をそえる。瞬間右足の紋章が光りだす。

 そのとき、時が止まった様に見えた。

 いや、一瞬の空白が出来た。


「お前の子供たちは単純な行動しかないんだな」


 そういうと、ハイネは必中を放った。

 フェールは驚きの表情を作り出した。ノームが一発の必中に貫かれる。そして必中はまた勢いを殺さずに、フェールへと向かった。もちろん壁が作り出される必中は霧散する。

 しかしハイネはそれを逆に利用する。


「お前のその頑丈な盾は頑丈で私の力で打破は出来ない。いや、不可能だ」


 しかし。と横で言葉を続けるハイネがフェールの横で居合いの構えをしていた。


「その壁、前が見えているのか?」

「なっ!」

「殺せ、神殺(ロンギヌス)!」


 ズッと空気が焼ける音が響く。黒い炎は空中に停滞すると、たくさんの槍がフェールに目掛けて飛んだ。

 尽きることのない刺突。その貫く音は何百にも聞こえた。

 息を上げるハイネ。その顔からはもう疲労の言葉しかない。


「やったか……」


 その一言は甘さだった。

 土埃から突然現れる巨大な腕。その腕はハイネの体を鞭打ちのように衝突した。


「……あ…」

「まったく大したものです。私のこの弱点を見抜くなんて驚きですよ」


 起き上がれないハイネの体を起き上がらせようと、大きな手がハイネの髪をつかみ、引き起こす。

 フェールは無傷だった。

 そして後ろに立つのは巨大な石の人間。


「紹介しましょう。妻です。エリスあんまり殺さないでくださいね」

「っち……こっちが本体か」


 今までの小人は子供。ということは妻もいるということになる。ということはハイネをつかんでいるこの巨人こそが本体ということになる。


「本当いい体ですね。子供たちに食わせてあげたいものです」


 フェールはうっとりとした目でハイネの胸を撫でる。

 ハイネは空ろの目でフェールと巨人を見つめていた。いや、本当はどこを見ているのかまったく分からない。


「でも残念だ。この体は穢れている」


 そう言ってフェールはハイネの服を破った。もちろん彼女はピクリとも反応をしない。フェールはそれにそそられた。

 フェールの妖艶な指先がハイネの胸から、股間へと移ってゆく。


「……時間ですか。つまらないですね」


 フェールは巨人におろせと命じると、巨人は投げ飛ばす。ハイネの体は綺麗な放物線を描き、地面へと叩きつけられた。

 ハイネは何度か体を地面に打ち付けて、転がり、そしてそのまま動かなくなった。


「紅炎の緋女を捕らえれたか、これはいい収穫ですね。ふふふ……」


 フェールは微笑みながら、去ろうとする。


「ま…て……」


 後ろでハイネがフェールを呼び止める。フェールは見下すかのようにハイネを見下ろすと、まるで興味がなくなったかのように去っていった。


「まて……この…ナルシス……トめ」


 動かない腕を伸ばし、フェールの足をつかもうとする。しかしその足は遠く届くことはなかった。






「ハイネ!」


 ロランはぼろぼろになったハイネを見つける。ロランはハイネを抱きかかえると、彼女はゆっくりと目を覚ました。

 体中ぼろぼろでいるその姿はあのときのハイネの姿ではなかった。


「ごめん。アリス連れてかれた」

「誰にだ!」

「フェールとか……っつう!」


 右腕を押さえるようにハイネは苦痛の顔をする。

 ロランは右腕を見ると、紋章が光り輝いていた。その紋章から黒い文字が蠢いている。


「これは……」

「大丈夫。すぐに治る」

「すぐじゃない! すぐに助けてやる! 俺はどうしたらいい!」

「軍神は負けた私に怒り狂っている。負けた代償に何かを貰おうとしているんだ」

「なんだと?」

「だからすぐに収まる……っつあああ!」


 体を丸め、激痛にこらえる彼女をロランは見るしか出来なかった。

 その無力さにロランは苦しむしかなかった。


 それから何分かしてハイネの代償は終わった。右腕だけだった紋章の範囲は右胸まで侵食していた。その所為か、右腕の紋章で侵食されていた皮膚は黒く変色していた。

 ハイネはゆっくりと呼吸しながら眠っている。

 ロランは移動をすることをせず、その場で休むことにした。人外は全て焼き尽くしたのだ。他に人外がいないか調べたがもう一体もいなかった。

 目の前で焚き火をしている。その焚き火は轟々と今までの醜い戦いとは裏腹に清清しい熱を持っていた。


「アリス……」


 ロランは呟く。アリスは捕まった。ロランは彼女の名前を呟く。しかし彼女は返事をすることはなかった。

 膝枕をするハイネを起こさないように、自分の頬に拳を殴りつけた。


「ロラン?」


 ゆっくりと目を覚ましたハイネはロランの赤く腫れた頬を見上げる。

 ハイネの契約者である軍神(オーディン)はハイネの体を蝕んでいた。負けると命を吸い取られる。その使命を負わされたたった十六の少女はロランの頬を撫でようと左腕を伸ばした。

 白い肌はアリスと良く似た色だった。しかしロランはその手を避けようと顔を反らす。

 ハイネの手は宙に浮いた。


 ロランは焚き火に薪を突っ込んだ。その炎は揺らめき、勢い良く燃え上がる。その炎は遠くないが辺りを照らすように灯していた。






「この鎖を解け! この愚民共!」


 両手に鎖を巻きつけられ、その鎖は等間隔で札が貼られていた。その札はアリスは知っていた。昔あらからだからあふれ出す神に近き力を封じるための札だった。

 いや、実際に言えば違うものだ。魔力を封印する札ではない。

 魔法は普通に放つことが出来るが、別の意味でアリスは札を取ることが出来なかったのだ。

 アリスがいる場所は鳥かごのような牢獄だった。


「畜生! せっかく私は出ることが出来たのに! どうして私はまたここに囚われなければならないのだ! ここから出せ!」

「残念だがそれは到底無理な話だ」

「その声は……!」


 鳥篭から外の世界は全く見えなかった。しかし近づく靴音と、その声から誰かアリスは一瞬にして判断した。


「久しいな紅炎の緋女。今度も反逆罪で捕まるとは、どうやら貴様はそれほどこの迷宮の春に未練があるらしいな」

「ふん、そんなものはもう捨てた。貴様らが私を連れてきたのだろう」

「ははは、確かにそうだ。どうだったか? 外の世界は、不快だったか? 汚物でまみれたか? 外は汚れていただろう?」

「……」


 ガルダスは手を伸ばし、アリスの口に触れる。


「早く私のものとなれ、アリス・スプリングフィールド……いや、『母体』」

「その名で私を呼ぶな下種め」


 ガルダスが伸ばす腕は膨れ上がった。ガルダスの皮膚は破れ、中から岩のように鋭い棘がたくさんむき出しになる。

 アリスはその目の前で起きたことを驚愕と思った。目の前で起きたことは明らかに異変なのだ。


「貴様は母体となりて、天使を生むべき使命だ」

「嫌だ」

「その強気がどこまで続くか試してみよう」


 ガルダスは高笑いし、指を鳴らした。それと同時に光がおろされる。

 その光の下には一人の少女が座り込んでいた。背を向け、震えるように儚い姿はどこにでもいる戦争にまきこまれた被害者だ。

 しかしその姿は異形。


「これを見たまえ。我等、迷宮の春が生み出した最強兵器だ」


 右腕と、右足には人外の気配がある。そして背中の肩甲骨に見えるその紋章。

 ガルダスはその兵器の元へと歩いてゆく。そしてぼそりとしかしアリスに聞こえるように言った。


「奴らを殺せ」

「……あ……」


 少女はゆっくりと立ち上がり声を漏らした。ガルダスは微笑み、鳥篭の中にいる小鳥を逃がすかのように扉を開けた。少女はその開かれた扉へと歩き、外へと一歩踏み出す。


「さあ、殺して来い」


 足元に紋章が浮かび上がった。その色は青く、そして黒い稲妻を帯電させる。アリスは片目を閉じ、行く先を見つめる。あの紋章は見たことがあった。剛力を司る契約者。

 ドンと爆音が響く。衝撃は遅れ、頑丈そうだった足場は簡単に崩れ去った。少女はいなかった。あるのは閃光の後である雷電。

 アリスは鳥篭の柵に手を伸ばした。


「やめ……」

「あの少女は知っているだろう? 少女が持つ契約者の名を」

「やめろおおおおおおおおおおおお!」


 ガルダスはアリスの声を塗りつぶさんと笑う。彼女の口から漏れる声は悲惨と後悔だった。

 彼は絶望の縁に立たされた彼女を一瞥した後、彼は鳥篭から出て行く。高揚としていたガルダスに一人の伝令係が近づいた。


「伝令です。一人逃亡したとの事です」

「かまわん、放っておけ」

「それが……『母体』なのですが」


 ガルダスはぴたりと止まった。

 母体と呼ばれるのは二人いる。一人はアリスであり、ガルダスが知っている中で一番母体としての適性があるものだった。

 しかし、実はもう一人母体の性質を持つものがいた。

 それはとある双子の妹であり、まだまだ未熟な少女だ。


「……人外を出せ、放っておけぬ」

「っは」


 伝令係は立ち上がり、すぐに指令を遂行するために走って行った。

 ガルダスは壁を叩いた。


「何か失態でも?」


 後ろからフェールが現れる。神出鬼没な奴だとガルダスは憎たらしげに言うが、それはもう昔から知っていたことだった。振り向くと、凛とした立ち方をして壁にもたれていた。テンガロンハットを目深に被ると、ガルダスのほうへと歩き出す。しかしフェールはガルダスの目の前で止まることをせず、そのまま横切っていった。


「フェール。貴様」

「何ですか?」

「母体を逃がしたのは貴様か」


 フェールは流し目でガルダスを見る。フェールの目は死んだ魚のような目をしていた。濁りのあるその瞳は何を思っているのかまったく分からない。


「私は軍神と戦って帰ってきてばかりですよ? そんな器用なことを出来るのはツァエリとノエル、そして貴方ぐらいしかいませんよ」

「……まあよい。アリス奪還良くやった」


 いいえ、とフェールは微笑み、去ってゆく。

 ガルダスは確信をしていた。母体を逃がしたのはフェールだと。


 ツァエリとアルトスは隊長格であっても母体の鍵を預けていない。持っているのはノエルとフェール、そしてガルダスだけだ。

 そして、その中で召還をすることが出来るのはノエルとフェールのみ。

 しかしノエルのゴーレムは大きい上に低知能のため自由に動くのは制限されているのだ。


 だとすればフェールのみ。


「……何をするつもりだ……」


 ガルダスはもういないフェールの後姿を睨むだけだった。






 少女は走る。追っ手から逃げるために。

 狭い鳥篭の中から抜け出すことが出来たのは小さい小人のお陰だ。しかし、三十分も立たずに三匹の人外が少女を捕まえんと向かって走ってきていた。

 一体は鷲のように羽根を広げ、飛んでおり、もう一体は獅子のように雄雄しく、そして疾風のようにかける。最後の一体はなぜか豚だった。

 しかし少女にはその全てが恐怖の対象である。

 空から降ってきたあの巨大な化け物と同じ黒い文字を体中にこびり付かせるものは全て恐怖でしかなかった。


 少女は枯れた声で助けを呼ぼうとする。


 しかしその声を聞くものは周りにはいなかった。

 獅子を象った人外は跳躍をし、少女の背中へと飛びつく。少女を巻き込むように獅子は転がり、首筋に爪を立てた。


「助けて…」


 少女は布を引き裂くような声を上げる。だがその声は誰の耳に届くのだろうか。周りには誰もいなかった。

 獅子は唸った。その唸り声は黙れといっているのと変わりない。


 瞬間獅子の上で飛び交っていた人外が落ちた。地面にどさりとまるで飛んでいる途中に命が切れたかのように落ちたその胸には心臓を射止める槍が刺さっていた。

 獅子は周りを見回す。前方に男が立っていた。

 その男は距離にして5メートルもない。逃げ出すにはまだ十分な距離だった。


 しかし獅子は戦うことを優先にしなかった。

 逃げ出すということは背を向けるということ、獅子は後ろを見ることは出来なかった。

 腹に突き刺さる、紅炎の槍。その槍は人外の内部を焦がしながら、植物のように根を張った。

 獅子は泣き叫び命を乞う。

 ゆっくりと歩みを進める男は右手で剣を掴むと一言。


「何言ってるかわかんねえよ」


 と一言毒を吐いて首を絶った。


「大丈夫か?」


 少女に話しかけるロランは左手を差し出した。右手は獅子の首から噴き出る返り血によって赤く染まっている。それを見せるには酷な気がしたロランはそれを体で隠すように手を差し出したのだった。

 ロランの後ろにはハイネが立っており、柄を繋いである鎖で弄んでいた。その鎖は闇のように黒く、そしてジャラジャラと鳴り響く。

 少し離れたところに人外がいたがその人外は襲い掛かるような素振りを見せなかった。


「俺はロラン。あっちはハイネだ。お前の名は?」

「私の名前はタクン。あの、もしかして契約者の人ですか?」

「……どうして…」


 彼女は安心した顔を浮かべた。差し伸べた手に掴まり、ゆっくりと立ち上がる。茶色の靡く髪は清楚な雰囲気を漂わせた。


「私の妹が契約者でして……」


 突然の出来事だった。二人の少し離れた所で爆発が起きた。いや、実際は人外がいたところに何かが着地したのほうが正しい。衝撃が三人襲う。ロランは体重が軽い少女の腰に手を沿え、ロランの背中に送った。ハイネは盾を作り出し、身を守っている。

 衝撃が去り、目の前は砂埃が舞っていた。

 その土埃に警戒をする二人は剣を構えた。ハイネは槍を作り出し、臨戦態勢をとる。


 土埃に黒い電気が走る。


 ピシリと何かが爆ぜる音が聞こえる。その音は時を追うにつれて加速していく。そして音もだんだんと大きくなり、土埃は収縮した。

 慎と静まり返る。それは嵐が来る静けさのように。

 雪の世界に反り立つ金属の棒のように。


 その土埃の中心にいた少女が作り出した空間なのか。少女の髪は白く。足元まで延びている。その姿からもう人間ではないと判断したロランは背筋が凍る恐怖を感じる。

 いや、ロランが感じたその恐怖はその少女の周りにあったはずの砂埃が金属の球体が宙に浮いているからだろうか。


「ハイネ!」


 そのロランの叫ぶ声と同時にその球体は放出された。

 赤い熱線となり。音速を超えて向かってくるその狂気。やりより早いその弾丸を受け止めるのはハイネの黒い鎖だった。


不千切鎖(グレイプニール)!」


 ハイネが持っていた鎖がロランとハイネを覆う。熱線で向かってくる弾丸を鎖は弾き飛ばした。

 弾丸が尽きるとハイネはそれを見計らい、右手に所持していた槍を不千切鎖を解き、必中を放った。

 しかし少女はその槍を右手で叩き落とした。しかしハイネの攻撃は終わらない。

 彼女は高く跳躍をし、体を捻る。ベルトについている鎖は駒のように渦巻きを描き、槍を引く。そして遠心力を利用する。両手で振るうより、遠く離れたい位置での攻撃は重くそして早い。


「っせえの!」


 槍は少女に命中した。斬撃は地面を割り、砂埃が一直線上に立った。ハイネは綺麗に着地をする。鎖を引き槍を手にした。


「ハイネ……」

「まだだ」


 砂埃でまた隠れた少女はまだ倒れていない。そう感覚で言う彼女は武器を変更する。黒く燃え上がると、また武器形成を始める。

 その武器は斧だった。その斧の刃は三つに分かれ、どれもが鋭くずしりとした重量に見える。


三叉槍(ハルバード)


 地面に先端を突き刺していたものをひょいっと持ち上げ、肩に乗せた。


「さあ、出て来い。化け物。退治の時間だ」


 にやりと笑うハイネは砂埃が急速に晴れるのを確認する。少女は額から血を流していた。しかしその顔はまったく怪我に興味を持っていない。

 目が死んだ魚のようににごっていた。


「ロランさん! だめです!」


 ロランの袖を掴むタクン。ロランは彼女を見ると涙を流していた。砂が入って流れているとは思えない。


「ノタンは、彼女は私の妹なんです!」

「え?」


 少女は右腕をすっと前に出した。その手は人差し指をハイネに向けて伸ばしていた。その指から青白い紋章が表れる。その紋章からまったく別の魔力を練りだした。その魔力は黒い稲妻を発電させる。

 ハイネは走った。少女の下へ。

 少女は放った。たくさんの金属の玉を。


「ノタンを助けて……!」


 タクンは願った。ハイネは咆える。ロランは舌打ちしか出来なかった。

 彼女、ノタンはタクンを認識するならば鉄球をこちらに打つことはない。しかしノタンは全てが敵だと思わんばかりに容赦なく放ったのだ。


 ハイネの叫びは、彼女の剣技は金属の玉を次々叩き落としてゆく。その音は手拍子を全力で叩いているような音だった。ハルバードはまだ肩にかけたままだ。ハイネは鉄球をはたいていた右手で足を撫でる。地につけた足元に紋章が現れた。そして彼女は消える。

 音もなく消えた後、ノタンは吹っ飛んだ。

 中に浮かび、髪は軌道を描く。

 しかし、放物線を描くことはなかった。ドンと打撃音が響くと、ノタンは地面にめり込んだ。少しはなれたところにハイネは立つ。

 左手で携えていたハルバードを右手で掴むと地面に下ろした。鎖を掴み、ゆっくりと振り回す。次第に風を切る音が響く。

 少女は目を覚ました。

 その目の前にある光景を把握する、彼女が感じたものは単純明快な本能。


 危機。


 ハイネはハルバードを振り落とした。


 彼女は絶叫する。その声は少女の声で間違いない。今にも殺されそうな断末魔のかななり声に変わりなかった。だが怒りであることも間違いはない。

 ハイネはハルバードを離し距離をとった。ノタンが倒れていた場所から巨大な光が天上へと舞い上がった。雲に突き刺さり、雷雲を呼び起こす。

 天候は一瞬にして雨へと変貌した。


「やっと本気になったか」


 ハイネは鎖を引き、ハルバードを引き戻す。ハルバードは宙に舞うと鎖をもう一度引き右手で受け止め、肩に乗せた。

 雨は振り落ちる。ハイネはその雨をじっと見つめていた。

 パリッと青い光が走る。

 雨は電気をためていた。それは一つの小さい爆破物でもある。

 一瞬に気体に化すその勢いは空気膨張によく似ている。

 ハイネは舌打ちをする。ということはこのあたり一面にはその爆破物が存在するということだ。

 体に触れた雨が次々と電撃を体に送り込む。体に触れる雨の度に体がぴくりと揺れるほどの電力が次々と入っていった。


「おおお!」


 低い声を唸り上げ、鎖を掴みハルバードを振り回した。雨の水滴は全て刺激され、爆発する。雨は一瞬だけ止んだ。

 しかしその一瞬をノタンは見逃すわけがなかった。

 目の前で拳を構えているノタンを見てぎょっとしたハイネは鎖を思いっきり引いた。

 しかしその速さはノタンより遅い。

 ノタンの背中に合った青い紋章は大きく膨れ上がるように光ると、足元の地面がめり込んだ。


臨界(メギンギョルド)


 体中が電気に包まれる。右腕に巻きついていた紋章が赤く光り輝き、ノタンの体に新たなる力を与える。

 それは一瞬の連打だった。


 音はない。しかしハイネの腹に打ち込まれた拳の数は十で終わるものではなかった。


 ハイネの口から血が出る。体は宙を体を折り曲げて飛ぶ姿をロランは見ていた。

 ロランはハイネが落ちる場所を予測し、走り出す。そしてハイネの後ろに回って体を受け止めた。


「ハイネ!」

「あはは、あいつやっぱ強いわ」


 口端から流れる血を手の甲で拭うとロランに言った。


「大丈夫か」

「一応。威力は逃がしたけどこんなダメージを食らうとは思わなかった。軽くあばらを持っていかれたかな」


 そうか。とロランは言うとハイネを寝かせる。

 ノタンの体は青く光り輝いている。襲い掛かることはしてこない。

 ただロランたちの反応を見ているかのようだ。


 ロランはそれが嫌いだった。


「覚悟しろ」


 すらりと引き抜かれる剣。その剣は今まで愛用していた剣なのか。禍々しい気を放っていた。その剣の切っ先をノタンに向けると、その剣越しにロランは敵と認識した敵を睨んだ。


「ここがお前の死に場所だ」


 狂うように笑う目の前の敵はまるで矢のように跳躍をし、ロランの顔へと殴りかかった。ロランは豪風を纏う拳を掴む。ロランはそれをいなすように横へと出ると、ノタンを地面に叩き付けた。

 しかし彼女はこれだけでは死なない。右足が水を欲する魚のように跳ね上がり彼の呼吸路を潰さんといわんばかりに襲い掛かる。だが、それをロランは読んでいた。その足を横に払い、攻撃を封じる、そして彼の足が杭のように右肩に乗せられた。

 ぴたりと攻撃が止む。体を起こすことが出来ないのだ。


 ノタンは咆える。しかしその咆哮はもう人間の声に近くなかった。


 ロランは剣をノタンの腹に突き刺した。

 ノタンの体はびくりと震えた。

 突然ロランの体に電撃が走る。ロランは苦痛の顔をし、その場を離れた。ロランの手にしていた剣はノタンの腹に突き刺さったままである。しかしその剣は湯気が立ち上がっていた。

 金属に水分があったのだろうかとロランはよぎった。剣はゆっくりと動き、引き抜かれた。そしてゆっくりと起き上がるノタン。


「っち、化け物」


 その体から黒い電気を発電させる少女。その少女の髪は白く、まるで鬼火のようだ。

 ロランは剣をノタンにむけるように構える。


臨界(メギンギョルド)


 少女の声が聞こえる。ロランは神経を研ぎ澄ます。

 後ろにあった岩山が消し飛んだ。いや、粉砕した。


 反応できなかった。


 ロランは冷や汗を流し、ゆっくりと後ろを見る。その崩れた岩山の上に立つ少女。

 彼は嘲笑するしかなかった。どうやって戦うんだよ。しかしそんなことを待ってくれるはずもない。

 ノタンは狂った声を上げ、臨界を発動する。ロランは勘で剣の峰を前に出し防御する。その峰の後ろには左腕を交差させるように剣を支える。その衝撃はまるで塊で走ってきた人を受け止めるような衝撃だった。その衝撃は剣と腕の防御を貫通し背中に激痛を走る。そして地面を削るように大地を踏みしめた。ロランは体の感覚で理解する。今ので左腕は使えなくなった。

 まだ目の前には少女の姿がある。ロランは剣を振るう。その一閃は渾身の一撃だ。右足を前に踏み込み、体重を乗せながらの一撃。


 しかしその一撃は交わさる。ロランは下を目だけで見た。ノタンはもぐりこみ、拳を構えている。

 そして膝の進展を伝えるように拳を顎に叩き込んだ。綺麗なアッパーは脳にダメージを与える。本来頭蓋骨は外からの衝撃から守るためにあるが、その守る壁は逆に仇となる。

 例えるならば、バケツの中に豆腐がある。そのバケツをずっと叩いていると、豆腐は崩れるのだ。

 今ロランの頭はその状態だった。

 脳は頭蓋骨に振り回され、感覚という感覚を潰されてゆく。


「あ、が……」


 ロランは一つ嗚咽を漏らし、意識を保つ。唇をかみ締め痛覚を取り戻す。

 まだ右手にある剣は手放していない。


 距離を取るように何歩か後ろへとたたらを踏んだ。そして体を折り曲げ、体を前へと倒す。剣を下から上へと切り上げる。その剣の軌道は左脇腹から袈裟刈りに線を引いた。

 ロランの体は倒れ掛かるのを左足で踏みしめ支えると、折れた左腕を握り締める。まだ完全に治っていない左腕に紅炎の篭手を纏わせ、ノタンの左頬へと叩き込んだ。


手甲弾(ガントレット)


 その威力はゼロ距離の投槍撃(ジャベリン)。深く突き刺さった左頬から紅炎の炎が漏れ出し、爆発的な威力を生み出す。

 ノタンの体は地面と水平に吹っ飛んだ。


 ロランは息を荒らげる。半分意識が吹っ飛びながらも打ち抜いた手甲弾は少しでもダメージがあればいいと願うばかりだった。

 しかしその願いも儚く散る。

 悠々と立ち上がるその少女は白い髪を紅く染め上げ、立っている。

 そして少女の顔は歪むほど笑っていた。


 ドンと地面が割れ、走りこんでくる少女をロランは剣を構え攻撃をかわすしかなかった。

 しかし彼女は臨界を開放した状態。

 こちらは回復を待っている。そんな状態で勝てるなど皆無に等しかった。


 次々と襲い繰る打撃、腹に打ち込まれ、内臓はよじれる。肋骨を拳で叩きおられ、呼吸がしにくくなる。左腕は手甲弾を放ってから治りが悪いのを知っているのか、次々と叩き込んで回復を遅らせてゆく。

 ロランはそれを剣で受けきるだけだった。

 しかしロランは逆転することだけを考えていた。


 目の前にいる敵を……コロス。


 その意思に気づいたのかノタンは右ストレートを構えた。ロランは対処できていない。このままだと腹に右ストレートを叩き込まれ、威力を弱くすること無く、貫かれるだろう。

 動けと体に指令を出す。

 しかし足は震えていた。限界なのかとロランは心の中で舌打ちする。


 そして腹をつらい抜いたのは幼い、しかし黒い文字列が蠢く右手だった。


 ロランの口から血が流れ出す。その血は二の腕に滴る。咳き込むロランを見て彼女は笑った。

 しかしロランはこれを待っていたのだ。

 ロランの感知した左腕はその右腕を握りしめる。

 ノタンの表情が固まった。


「これで終わりだ」


 ロランは血を流しながら右手の剣を手放す。

 その右手から現れたのは紅く燃え上がる炎だった。その炎で燃え上がる右腕でロランの体を貫く右腕に触れた。


断罪炎(パラディン)


 その炎はロラン自身が作り出した炎だった。

 ノタンは体から右腕を引き抜き、その炎を消そうと試みる。

 しかしその炎は消え去ることはない。そう、ノタンを燃やす炎はあの獣を何度も殺した炎だった。

 ロランは膝を地面に立て、息を整える。


「ノタン!」

「大丈夫だ。殺しはしない」


 でもとタクンは嘆く。ロランはそのタクンの頭を撫で、静かに微笑んだ。口から流れていた血を拭い、血を隠す。


「あの炎は邪なものだけを燃やす炎だ」


 断罪の炎はその対象が背負った罪を洗い流すための、いわば浄化の炎だ。人外だけ、グランシードだけを燃やすことだけに特化したものであり、言い換えれば人間には一切ダメージを与えない炎である。


 それは護ると決めた人のために作り出した炎である。


 ノタンの右腕に巻きついていた黒の文字は燃やされ、だんだん薄れてゆく。

 彼女は初めは叫び、炎を振り払おうと躍起になっていたが今は力なくただ消すことを諦め、その終わりを過ごしていた。

 ロランは指を鳴らす。断罪の炎はふっとろ蝋燭の火を消したかのように消え去った。


「ノタン!」


 タクンは走る。その目の前にいるノタンを抱きかかえ、肩を揺らすとノタンはゆっくり目を覚ました。


「ノタン私よ! わかる!?」

「……タク……ン?」


 しばらく彼女は周りを見回していた。そして察したのかゆっくりと笑った。


「そっか、私……タクンを襲ったのか」

「違う。多分お前はガルダスに命じられていたんだ。俺を殺せと」


 ロランは口を出す。ノタンは彼を見て、その意味を理解した。

 彼女を救ったのは俺たちで、お前は俺を殺すために来ただけだ。タクンを殺すためにここに向かってきたというわけではない。

 ノタンは右腕を見た。あの時は黒焦げになりもう何もなかった右腕がトカゲの体のように生えていた。その右腕には黒くないが白く日焼けのように残った文字の羅列があった。


「ごめん。ごめんなさい」


 彼女は泣き、謝罪をした。

 その声はロランにもハイネにも届いていた。


 ロランはその二人の前を後にし、ハイネのほうへと向かった。ハイネは岩にもたれるように座っている。


「大丈夫か」

「まったく、こっちの身が持たないよ」


 まったくだとロランは相槌をうち、ハイネへと手を伸ばしたのだった。

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