プロローグ『瞬きの日』
―――それはまだ全てが『完全』だった。
一人の少女は立つ。目の前に大きな白い丸い光。その光に触れるように少女は伸ばす。しかしその手は短すぎる。少女は何かを望んだ。それは小さくも彼女にとって大切で大きな望みだった。しかしその白く丸い光は叶える物ではなかった。静かに沈黙を保ち、世界を傍観する小さき臆病者だった。
お願い。と彼女は嘆く。小さくかすれる声で白い光を見つめる。
少女の胸が大きく膨らんだ。成長でもない。胸の中心に突然針を通されるように矢が生えた。少女は苦痛に顔をゆがめ、倒れる。彼女は虫の息だった。ただでさえ彼女は幼い少女である。やせこけた手足には血管の筋を張り巡るように浮き出ている。
靴音が響いた。光は見ていた。少女を貫いた矢を放った者を。彼女の隣に靴音が止まるとすらりと鞘走りする音が響く。
「世界の秩序を護りたまえ」
そう一言呟き、剣を掲げる。少女は涙を流した。口から血を噴出し、憎しみを込められた瞳で、呪いを吐く。
―――みんな、死んじゃえばいいのに……
呪いは光に届いた。
突然感情が大きく膨れ上がり光を放った、剣を掲げたものは光から目を護るように腕で光を防ぐ。それはまぶしく、邪悪を照らす光だ。
光は動いた。ゆっくりと少女の元へと向かう。その姿はまるで子どもを護る負傷した母のようだ。そして真上に来た。
少女は思った。綺麗だと。
―――かくして、この世界は『不完全』になったのだ。




