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ダンジョン が あらわれた  作者: 黒白のアレ。
PHASE1 楽しくない世界
9/13

ep7:未だ人間。


 逃げる、逃げ回る。


 振り返り、魔物の姿を確認しながら、瓦礫の中を走り抜ける。


 魔物はまるで、お前などいつでも殺すことが出来る、と言わんばかりに余裕な様子で、大剣を片手に僕を追っていた。


 呼吸が上手く続かない。

 足が、酷く痛む。

 口の中はずっと鉄の味がする。


──身体が、熱い。


 視界の端に見えた足元の瓦礫が、踏んでもいないのに、砕けていた。


「ハァッ、は、ァ」

 

 魔物は、依然として重々しい足音を立て、

 悠然と、大剣を引きずり迫っている。


──ギィィィィン!!


 耳鳴りを伴う一閃。空気が裂ける。


 衝撃。瓦礫が散弾のように飛び散り、視界を埋める。


 直後、全身が衝撃に叩きつけられた。


 咄嗟に手をかざす。

 受け止めた。だが──右腕の感覚が、遠い。


 肘から先が、自分のものではないみたいに。

 

 ……熱い、熱イ、あつい。

 

 液体にでもなってしまいそうな、熱。


 鼓動が二重に聞こえる。

 魔物の姿が、ブレて見える。


 気づけば、傷口からとめどなく溢れる血液が、量を減らしていた。


 ……?


 魔物の足が、一瞬、止まった。


 薄暗い廃墟の中。

 赤く光る双眸を、僅かに細めている。


 …………。


 分からない事ばかりだ。フハハッ。



◇◆◇



 全身は、傷だらけ。

 大剣の傷跡から、絶えず血が流れているのを感じる。


 視界が歪む。

 余裕は、ない。


「ハァ、はぁ、なんか君、強すぎない?」


 ……相変わらずの、無反応。


 じゃあ、さっきのはなんだっ──


 瞬間、鉄の轟音。


 コンクリートの地面を砕き裂く、赤色の斬撃。

 

 右腕が巻き込まれ、激痛。

 完全に右腕の感覚が消えた。


 先程よりも、斬撃の速度が速い。


 見れば、魔物はその大剣を両手に持ち、その眼光は鋭さを増していた。


 …………。


 瓦礫が吹き荒れている。


 本っ当に、考える、暇がない。


 鋭さを増す眼光からは、直感的に、そんな事を理解させた。


 とにかく、足を、動かさないと。



◇◆◇



 ……どれ、くらい、走った? の、だろう、か。


 足の感覚が曖昧だ。

 目の前がぼやけている。

 右腕は、もうビクともしない。


 肌を伝う生暖かい血は、今も尚流れ続けている。


 身体は熱にやられたように、とても熱い。


 すぐ後ろで、鉄が唸る。


 振り向く間もなく、赤鉄の大剣が振り下ろされようとしている。


「ね、ぇ。キミは今、何を、感じたのかな? フハ、ハァッ──」


 あっ。


 足が、もつれた。


 視界が一瞬で灰色に塗りつぶされる。


 身体が前のめりに崩れ──


──ゴシャッ


 瓦礫に叩きつけられ、肺から空気が抜ける。



 ……あー、まじ?


 これで3回目だ。


 身体が、まったく動かない。

 指先すら、言うことを聞かない。


 瓦礫まみれの地面に、うつ伏せに。


 口からは、空気の抜けるような、そんな音だけ。


 後ろからは、大きな鉄の塊を持ち上げるような、空気が靡く音が、微かに聞こえる。


 ……熱い。


 巨大な鉄が振り下ろされ、風向きが変わる、そんな音が、ゆっくりと。

 目の前には、風圧に押されて揺れ動く瓦礫たちが、なんだか、のんびりと。


──いつの間にか、大きな傷口から流れ出ていた赤黒い血液は、止まっていた。



────────────────────

ep7:未だ人間。


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