ep4:オラッ。
塔……いや、この際ダンジョンで良いか。
今更、呼び名に拘る理由も無い。
というか、そもそも光の板がこの塔をダンジョンと呼んでいたし。
まぁ、多分ソレでいい。
入口の向こう側は、黒く濁って見える。
光が無い訳ではない。
けれど、奥行きが判断出来なかった。
一歩程度で済む距離なのか、
それとも、一度入れば戻れないほどの距離なのか。
……まあ、いっか。
考えるのをやめて、邪魔な鞄を投げ捨てて、
身を投げ出すようにダンジョンへ飛び込んだ。
◇◆◇
薄い膜が、全身を包み込む様な感覚が、
進んでいるはずなのに、進んでいないような、
不思議な感覚だ。
水の中に入ったかのように、鈍い音の流れがする。
なんと言うか、さっきまで居たあの街と、この塔は繋がっていないような……
「グへッ」
前のめりに、顔面から床にぶつかった。
なんで……いや、当たり前か。
思いっきり飛び込んだし、イテテ。
痛む顔面をそのままに、よろよろと起き上がる。
……あ、れ?
何か、おかしい。
空気が重いわけでも、変な匂いがするわけでもない。
でも、なんだろうか、質が、違う。
気になって、思い切り息を吸い込んでみた。
「げほっ」
咳き込んで、思わず背中を丸める。
何だ、これ。
身体に直接の害は見当たらない。
ただ、異物が体の中に入り込んだみたいな、不快感だけが残る。
本当に何なんだろうなぁ、これ。
フハハッ。
…………。
まぁ、いいや。
気を取り直して、周囲を見る。
劣化した石壁に、苔の浮いた石の床。
いかにも、という見た目だ。
だけど妙なことに、光源はどこにも見当たらないのに、視界はやけに鮮明だった。
明るい、というより──暗くならない、と言った方が近い。
そして、外から見た塔の大きさと、今立っているこの空間。
どう考えても、釣り合っていない。
……ダンジョン、なんて呼ばれてる時点で覚悟はしてたけど。
やっぱり、普通の建物じゃあないよねぇ。
楽しくなってきた。
◇◆◇
理解の及ばない場所。
ダンジョンのような場所に辿り着いた時、やろうと決めていたことがある。
こういう場所では、まず一つ、確認しておくべきだよね。
──ガンッ! ドゴォ、グシャァ。
何かと何かが衝突する音が、薄暗い塔の中で響く。
「あー、無理かぁ。イッタタ」
拳、肘、額、膝、踵。全部痛い。
あーあ、血まで出ちゃってるよ。ほんと、久々だ。
フハッ。
そのくせ、なんの成果も得られないんだ、悲しいものだね。
まぁ、薄々分かってはいたよ。
ダンジョンの床や壁が壊せないことくらい。
お決まりだもんね、ダンジョンの。
現実だったら、破壊不可、なんて理不尽ないと思ったのに。
はぁ、痛い。ダンジョンの壁なんて不思議なモノなら、自我くらい持ってないかな。
そうしたら、損害賠償の請求くらいなら出来るかもしれない。
殴り始めたの僕だけど。
壁に口なんてないんだ、証言も出来まい。
…………。
オラッ。
──キィィィィン
「あっ」
そういえば、水筒って、金属製だもんね。
硬いものにぶつけたら、そうなるよねぇ……。
そう、考えているうちにも金属の反響音はダンジョン中に広がって行く訳で、
もしも聴覚の鋭い敵対生物なんかがいたりしたら……。
思わず、口角が釣り上がる。
「楽しそうだ」
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ep4:オラッ。




