ep13:命知らず
「これは?」
「色が変わったね、濃く見える。黄色かな」
「ふむ、アルコールも見えると。……濃度の高さによるか。これは?」
「右から順に言えばいいのかな? 水色で、段々と濃くなってるね」
「若干の透視、と見ていいのかのぉ」
透明ではない、金属の容器を持ち上げ軽く揺らしながら応える。
「視認性は?」
「うーん、良くはないかな。最悪レベル。これだけ近づかないとハッキリ見えないよ。これでもまだ濁りが見える」
「それは、ざまぁないのぉ。ただまぁ、そんな顔で言われても、信憑性なぞ皆無に等しいが」
そんな顔、と言われてもね。
視認性は最悪だが、楽しいものまた事実。
空気中に点在する、薄い水色の濁りを吸い込み、異常がないのを確認する。
手をグーパーして、軽く身体を動かすも、特にこれといった異常さ見られない。
「これ、結局何なのかな? 分かる?」
「年上には敬語を……まぁいいか。小僧には無理そうだ。結論じゃが、その濁りは──毒じゃ」
至極真面目な顔で、老害は応える。
しかし、的外れな答えだ。
毒なら、異常が出ないとおかしいだろう。
そんなボクの疑問を視線で感じたのか、バカを見る目で老害は言葉を発す。
「これだからバカは嫌じゃ、意思疎通に齟齬が出る。……はぁ、これは義務教育で習う範囲じゃと思うが、今小僧が吸い込んでいる空気、その中に含まれる酸素ですら、濃度が高くなれば、人体にとっての毒となるのじゃ。具体的な説明は省くが、つまりその眼は、毒として反応するモノの範囲が広いのだろう」
分かったような、分からないような。
要するに、この眼の使い勝手はとても悪い、ということだろうか。
……クソッ、ハズレ引いた。フハハ♪
それにしても、『ポイズンスライムの眼』は、響きが弱そうだなぁ。
魔物の眼、略して魔眼とでも言っておこう。
◇◆◇
「ほれほれ、さっさと働かんかい」
「クソジジィめ、こき使いやがって」
現在、ボクは毒の仕分け機として、こき使われている。
あれから幾度となく毒の種類や範囲を調べさせられ、調べられた後、周囲まで濁り、焦点が上手く合わないため遅くはあるが精度だけはいい事が分かり、邪悪な老害の手によって、仕分け機として使われているという訳だ。
……全く、強制的に人体実験をした被検体を近くに置くとか、いい根性してるよ。
働かざる者食うべからず、とか言ってさ。
そのくせ料理はボクにやらせるんだ。
毒とか入れられたらどうするつもりなんだろうか。
やっぱりあの老害はイカれている。
ま、面白いからいいけど。
デバイスで調べた限りだと、ボクの家があった場所はどうやら瓦礫の山となっているようだし。
ここを飛び出して今すぐダンジョンに、というのもいいけど、ここは魔物の素材が多くあって面白そうだし、後もう少しだけ、この不思議な熱を弄って遊んでいたい。
手の平の上で、千手観音の様な形になった薄い湯気を見て、そう考える。
あぁ、秘密裏に作られたラボって感じがして良い。
ここで過ごしてはや二日、未だ老害の名前すら知らない。
◇◆◇
「おい、その気色の悪い手はなんだ」
手をクネクネと動かしながら『熱』を弄っていると、科学者が未知への探求をするような、そんな視線。
こんな未知に満ち溢れた世界になったのだ、気になって仕方がないのだろう。
種類は違えど、ボクも同じだ。
「うーん、そうだねぇ……多分、魔力なんじゃないかなぁ」
老人は呆れた目を向けて
「なぜ小僧自身がわかっておらんのじゃ。あの、光の板。ステータスでも見れば分かるじゃろうに」
そんなことを言う白衣の老害に、見せつける。
バリッバリに割れてぶっ壊れたステータス画面を。
それを見た老人は、なんと言うか、困惑に困惑が重なり合い、フリーズした。
バカは嫌い。意思疎通に齟齬が出る、ね。
バカと天才は紙一重、とかなんとか。
とりあえず三発ほどビンタしておいた。
男女平等ならぬ、人間皆平等主義なのだ、ボクは。
◇◆◇
機械の規則正しい駆動音が、響く。
電灯から発せられる光が、影をつくる。
…………。
……老害が、倒れている。
多分、あの調子だと、死ぬことはないだろう。
少しすれば、元通りだ。
…………。
視界に、黒色の濁りが。
目線の先には、老人。
……あぁ、そうか。
だったら──
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ep13:命知らず




