ep11:真っ黒な眼窩。
…………。
「それは……何の?」
ニヤついた顔で問いかけると、あろうことか白衣の老害は気色の悪いものを見る目でボクを見る。
……妙に、違和感のある眼だ。
「……気色悪い顔じゃのぉ。ふむ、これはのぉ、眼じゃ。それもただの眼ではない、魔物の眼じャ。これを今から小僧に移植する」
そう言い切った翁の顔は、正しく邪悪だった。
己の欲望の為だけに他者を蔑ろにする、あの顔だ。
幾度となく、見た事がある。
「えぇっと、一応まだボクの目玉二つとも健常なんだけど……?」
「む? 分かっておるわ、そんなこと。切除してから移植するんじゃよ」
器具を片手に振り返った老害は、さも当たり前のことのように言ってのけた。
「……老害め。フハッ♪」
魔物の眼か、どんな風になるのかなァ。
そうして、白衣の邪悪はボクに筋弛緩剤だけを刺す。
それ以外に術前の処置が見当たらない。
視線に気付いた老害はニヤリと笑い……
「おやおや、麻酔はないぞぉ? 使わないのではなく、ないのじゃよ。楽しみじゃのぉ」
…………。
ボクは、とりあえず楽しむ事にした。フハハ。
◇◆◇
瞼を指で押し広げられる。
冷たい金属が、眼球の縁に触れた。
逃げ場は、ない。
身体は、動かない。
「……ひゅー、ふー、ふ、ふふハ」
しかしまぁ、逃げる気もない。
いつの間にか、瞼が縫い付けられたのか、閉じれなくなった。
じんわりと、焼けるような痛み。
「……っ、こういうのって、普通何かの器具で固定するんじゃなかっ「面倒いからのぉ、糸の方が安上がりで楽なんじゃよ。……まぁ、偶に失敗するがのぉ」
カチャカチャと、器具を弄る音。
視界の端には、メスやハサミ、吸引器に縫合糸、アンバランスな医療器具が並ぶ。
……成功させる気がないのかと思う程に少ない。
「ねぇこれホント「さて、始めるぞ」
──グサッ
「──っが、ァ"ッ」
冷たいものが、視界を裂いた。
目の前が真っ白で、黒になって、目の奥が切り刻まれて。
右目の視界が完全に消えた。真っ黒だ。
頭の奥にまで何かが侵入していく。
それを、左目が見ている。
頭の中に、"何か"がある。
その事実が、感触が、気持ち悪い。
「あっ……」
時計の針が、何度か回った頃、抜き取られるような喪失感。
左の視界では良く見えない。
目の、奥の神経に、針が刺さる。
カチャ、クチャと、血肉と金属の音が、静かに響く。
一段落ついたのか、音が消えた。
僅かな風が、取れた目の奥に触れる。
「ふぅ。おい、クソガキ。今から眼の移植に移る。覚悟しておけ。なに、それが無理なら死ぬだけだ。安心せい」
視界の端で、器具を片手に老害は嗤う。
「ク、クソ、ジジイ、め。フハ、ハッ♪」
痛みで、今にでも意識が飛びそうだ。
が。
こんなの余裕だ、と。老害のみたいに、嗤って見せる。
フハハッ、本当に、倫理感の欠片もない、クソみたいに邪悪な老害だ。
魔物の眼。こんなにも甘美な言葉、絶対に楽しい。
痛みは、ちょうど一月前に、慣れるほどに浴びたのだ。
こんな痛み、耐えてみせよう。
眼が、入る。
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ep11:真っ黒な眼窩。




