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ダンジョン が あらわれた  作者: 黒白のアレ。
PHASE1 楽しくない世界
12/13

ep10:高齢者を敬わない。


 光の弱い電灯が、視界の端で揺れている。

 消毒液の匂いが鼻に刺さる。

 視界の端で、点滴が揺れていた。


 ……病院?

 どこだ、ここ。


 頭が痛い、喉がひりつく。


 ……寝すぎちゃったかな?


「……っ、ぃ"たっ」


 身体を起こそうとして、気づく。

 身体が、動かない。


 拘束されているという訳では無い。

 酷い筋肉痛や骨に響くような痛み……それと、漫画でしか見たことの無いようなぐるぐる巻きの包帯のせいで、動くことができないのだ。


 鏡ないのかな、ミイラみたいになってそうだ。



──コツ、コツ


 足音がこちらへ近づいてくる。


 誰かいるのか……。

 こういう時って、『誰だッ、そこにいるのはッ!?』とかって言った方がいいのかな。

 どうだろうか、いや、面白そうだ、やってみよ──


「ふむ? おや、目を覚ま「誰だッ! そこにいるのはッ!?」


 絶妙に会話がすれ違った。

 白衣の老人と、ばっちり目が合う。


「……」

「……」


 数秒、沈黙。

 心地の悪い空気が漂う。


「……騒がしいのぉ。次叫んでみろ、口を縫いつけるぞ」


 老人はピキった。

 皺の多い額に青筋を立てている。


 ボクは笑った。



◇◆◇



「こんにちはァ。ボクは愚道戯楽。それで、ここは何処で、今は何時なのかな? 君はボクを助けてくれた人物なのかな?」


 沈黙。


「それは白衣かな、随分と年季が入っているようだね。失礼なんて思わないけど、年齢聞いてもいい? 歳をとると髪の毛って白くなるものなん「縫うぞ」


 ドスの効いた声で、淡白に。

 即座に口を閉じた。


「……」


 針を持った老人の気迫は恐ろしい。

 種類は違えど、あの魔物を彷彿とさせる。


 お口にチャックを施されそうになり、息を殺していると、包帯が徐々に取られていく。

 包帯を取っていいくらいには、傷が癒えているという事だろうか。


 …………。


 あの、大量の傷が?


 ……あの日から、一体どれだけの時間が経ったのか。


 手の震えもなく、淡々と回収していく様には、手際の良さを感じさせられた。年の功と言うやつだろうか。


 何歳か、なんて知らないけど。


 ……それにしても、何故この老人はボクを治療しているのだろうか。


 周りをよく見てみると、割れた窓は板で塞がれ、花瓶は割れていて土が零れていた。

 病室のように見えるものの、通常の病院とは程遠い設備のボロさだ。


 周囲に人の気配は感じられない、か。


 恐らくボクを治療したのは、この老人の独断だろう。


 勝手な偏見だが、善意で人に施すような人間には見えない。


 何がしたいんだろうか。

 楽しいことだといいなぁ。


 そう思いながら、部屋の奥を見た。


 ホルマリン漬けにされた大量の目玉達が、こちらを向いていた。


 …………。


 フハハ♪



◇◆◇



「よっ、ほっ、やっ、と。ねぇねぇ〜、はやくしてくれないかな〜」


 あの日、確かに感じた熱を、再発させる。

 やり方は、身体が覚えていた。


 温度のない、熱とすら言えない不思議な熱を動かす。

 押し込んで、伸ばして、形成して。

 体内も、体外でも関係ない。自由度の高い粘土を弄くり回す。ちょっと楽しい。


 まぁ、要するに暇つぶしだ。



 包帯を取り終わると、そのまま流れるように筋弛緩剤を打ち込まれた。

 どうやら、あのしわしわの翁はボクの身体で人体実験をしたいらしい。


 魔物の眼が……、適合時の拒否反応が……、なんて、独り言のようにブツブツ言っていたのを覚えている。


「ふむ、まぁ少しくらい待っとれ。まだ起きてから30分も経っていないだろうに。被検体間違えたかのぉ。騒がしいクソガキは、儂のようなか弱い年寄りにはちとキツイわい。ほっほぉ(笑)」


「ジジイになると倫理感も無くなるのか。脳みそでも腐ってんのかなァ? クセェぞ、クソジジィ。フハハ!」


 穏やかな口調でストレートな辛口、そのくせ最後には満面の笑みでボクを煽る。

 そうしてボクもまた煽り返す。


 包帯を取ってから、もう10分。ずっとこれだ。

 

 全く、大人気ないものだね。


 白衣を着た老害は、妙にハイテクな小箱を片手に、冷ややかな目で。


「チッ、敬う気はないのか、クソガキめ」



───────────────────

ep10:高齢者を敬わない。


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