プロローグ:退屈な日常の終わり。
朝起きて、食って、学校へ行き、家に帰って、そして寝る。
それを、ただ繰り返す。
社会人であれ学生であれ、項目が違うだけで、この変わり映えのない日常は、きっと同じなのだろう。
色褪せた世界。
魅力を喪った日常。
そんな窮屈な箱庭は、その日を境に、退屈を失った。
──少なくとも、僕にとっては僕にとっては。
彼は、非現実的な光景を前にして、ただ笑う。
「遊び道具、みィーつけた」
学校帰りの下校中。
街中を歩いていた彼の前方に、突如として巨大な建造物が現れた。
色を失った灰色の空の向こう。
人々の眼前に、摩訶不思議な塔──"ダンジョン"が出現したのだ。
街は一瞬で騒然となった。
人々はスマホ型の空間投影デバイスをかざし、空に浮かぶ情報板を覗き込む。
流れ行く情報は混雑を生み、人々は一人、また一人と、絶えず正解を追い求める。
ある者は焦り、ある者は騒ぎ、ある者は立ち尽くす。
止めることのできない事象に、ただ翻弄された。
──酷く現実的な、いつも通りの行動。
退屈でしかない。
色彩を失った世界に、何の前触れもなく現れた異物。
それを前にして尚、自分の目よりも大多数の意見を優先する様は、少し勿体なく感じられた。
「ふふ、ふふはっ……これは、楽しくなりそうだ」
手にしていたデバイスは、独りでに淡く輝く。
だが、今はそんな事よりも──目の前の玩具だ。
──現実的で、彩りの無い世界は、もう終わった。
この日から、僕の退屈な日常は、確かに終わりを迎えた。
「さて……どんな遊びを、始めようかな?」
僕は笑う。
世界のことなんて、まだ何も知らない。
けれど、そんな問題は些事に過ぎない。
僕は今日をもって、退屈を終えたのだから。
◇◆◇
突如として、何の前触れもなく、世界は変革の時を迎えた。
2XXX年X月X日〇時△分◇秒。
その瞬間、世界は変わる。
空には亀裂が奔り、灰色の雲が渦を巻く。
光が降り注ぎ、雷鳴が轟き、世界中の電光掲示板や空間投影デバイスが、未知の光を発した。
誰もが目を疑う光景――ダンジョンの出現。
石造りの塔型ダンジョン。
宙に渦を巻くゲート型のダンジョン。
形式は不規則で、法則性は見当たらない。
そのどれもが、この世界に在ったモノだったとは、言い難い存在。
人々は非現実を前に驚愕し、情報を求め、やがてこの事象が世界中で同時に起きていることを知る。
あまりにも現実離れした光景に、恐怖は伝播し、混乱は更なる混沌を生み落とす。
だが――これは、単なる『始まり』の一つに過ぎなかった。
◇◆◇
齢十七。
愚道戯楽は、カオス渦巻く街の喧騒の中で、ただ笑っていた。
彼にとってこの現象は、
この非日常的な色彩は、
退屈だった日常を終わらせるための、最高の遊び道具だった。
彼の目には、眼前に佇むダンジョンも、世界を包み込んだ天変地異も、混乱する人々の姿さえも、まるで見世物のように映る。
そして誰にも理解できない、
彼自身にしか理解できない方法で、世界を『遊びながら』、少しずつ歩みを進めていく。
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プロローグ:退屈な日常の終わり。




