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勇者、バックれます!!!!

翌朝、鳥の鳴き声で目が覚めた。

窓代わりの隙間から陽光が差し込んでいて、意外と居心地がいい。腹が減った。

昨日なにか食べたっけ?……いや、異世界に来てから何も食べてない。宝箱のコインは50枚残ってるけど、皮の服を埋めてきたから今はただの盗んだ服を重ね着しただけの怪しい男だ。この服がこの世界に溶け込んだ普通の服であることを祈って外へ出る。

とりあえず村に戻って何か食えるものを買おう。変装のターバンはまだ巻いたまま。頭巾みたいになってるから、顔が隠れてちょうどいい。


村に戻ると、朝の空気が気持ちいい。

広場ではおばちゃんたちが井戸で洗濯したり、子供が走り回ったりしてる。パン屋らしき店を見つけて、中を覗く。焼きたてのパンが山積みで、香ばしい匂いが漂ってくる。


「いらっしゃい! 珍しいお客さんね。旅の人?」


店のおばちゃんがニコニコしながら声をかけてきた。

「あ、はい。パンを……一つください」

声が上ずってる。緊張してるな俺。コインを出して渡すと、おばちゃんがちょっと眉をひそめた。

「このコイン、王都の刻印ね……。最近、王都から来た人なんて珍しいわ」

「えっと、荷馬車に便乗して……」

「ふーん。そういえば昨日の夜、商人の旦那が帰ってきたわね。あの荷馬車?」

「えぇ、まあ……」

「そうなの?―――はい、こちらお釣りね。毎度あり!」


バレるかどきどきしたが、セーフ! 助かった!

お店のおばちゃんは気にした様子もなく、紙袋にパンを入れてお釣りを渡してきた。

パンを受け取って、かじりながら村を散策する。

パンうまい。シンプルだけど、異世界の小麦って感じの素朴な甘さ。


プラプラと辺りを歩いていると、村の広場のようなところに、掲示板が置いてあり様々な紙が貼ってあった。

『冒険者ギルド支部 募集中!』

『魔物退治依頼 ゴブリンの群れ 報酬10銀貨』

『行方不明者捜索 報酬相談』


おお、ギルドあるのか。でも俺は勇者バックレ中だから、冒険者なんてなる気ゼロ。でも、情報収集にはいいかも。その近くにいたおばさんにギルドの場所を聞くと、その広場から直ぐ側だった。

ギルドの建物は村の中心にあって、小さいけど立派な木造二階建て。剣と盾の紋章みたいな看板が掲げてある。

中に入ると、カウンターに可愛い受付嬢がいて、数人の冒険者風の男たちが依頼板を見てる。俺はカウンターに近づいて、小声で話しかけた。


「あの……この村の近くに、大きな町とかありますか? えっと、あの、仕事!仕事を探してて!」


受付の女の子が微笑んで答えてくれる。


「王都から離れたここは辺境に近いんですけど、北に三日ほど馬車で進めば『リベリア』という交易都市がありますよ。そこなら商会も多くて、仕事も豊富です」


女の子がテーブルの上の地図を指さし、リベリアといい文字を指す。みたことない文字なのになぜか読める不思議。たが、いまはそんなことを気にしている場合ではない。

馬車で三日ということは……。歩きだと一週間くらい?結構な遠さだ。


「荷馬車とか、定期便みたいなのは?」

「毎週、王都とリベリアを往復する商人のキャラバンがあります。次は明日の朝に出発予定ですよ。広場の宿屋に聞いてみてください」


ラッキー!これに乗れば、王都から遠く離れられる。あの革の服が見つかる前に出来るだけ遠くに逃げたい。

俺は礼を言ってギルドを出た。


宿屋に行って、キャラバンの参加を申し込む。宿の親父は怪しまなかった。盗んだ服のおかげでただの旅人に見えるらしい。一泊銀貨2枚。パンを食べて腹が落ち着いたところで、部屋でまた爆睡。



翌朝、キャラバンに混ぜてもらって出発。

荷馬車が5台、護衛の冒険者が8人くらい。俺は荷台の隅で藁に埋もれて、また寝てる。揺れが心地いい。三日間の旅は特に事件もなく、リベリアに到着。

ここは王都の10倍は大きい都市だ。石畳の通り、巨大な門、市場は人でごった返してる。ここなら、勇者なんて誰も気にしないだろう。

俺はキャラバンの人たちに礼を言って、別れた。

まずは仕事探し。冒険者ギルドは王都より立派で、依頼も多い。でも戦うのは嫌だ。

掲示板を見ると、『雑用係募集 商会 給与相談』とか『農場手伝い 日払い』とかある。

普通の仕事もたくさんある。ギルドって要は職安みたいなものかも知れない。

自分にできそうなのは室内作業っぽい商会の方かな?と、そっちに応募。

受付に声をかけるとその日のうちに面談となった。

嘘はバレそうだから、ギリギリの言い方を心掛ける。


「読み書き計算はできます。王都の方から来ました。前職は、大きな商店で働いてました」


大きな商店で働いていた―――つまり、サラリーマンしていたという嘘はついてない経歴で、無事に採用された。

仕事は帳簿付けと荷物の仕分け。給料は安いけど、社員寮みたいな共同部屋があって飯付き。最高じゃん。

盗んだ衣服もあって、衣食住はちゃんとそろいました。


こうして、俺は異世界で普通の商会員として第二の人生を始めた。魔王? 知らね。姫? 興味ねえ。勇者の血? もう関係ない。俺はただ、疲れずに暮らしたいだけだ。


最近、ギルドの噂で「新しい勇者が召喚されたらしいけど、今回の勇者は旅立ったあと行方が知れないようだ」と聞く。

「勇者不在になっても、前のように次の勇者召喚はされていないようだ」「さすがにもう儀式はやめたのか?」など情報は入ってくる。

どうやらまだ革の服は見つかってないらしい。俺が死んだかどうかも分からないのだろう。俺が死ななければ、新しい勇者は召喚されないわけだし、もう不幸な異世界人は増えないのだ。


俺は心の中でガッツポーズ。

これからも見つからないことを祈りながら、疲労回復しつつ、のんびりと異世界生活して行こうと思う。


バックレ大成功!!!!



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