勇者、バックレます!!!
くすねた洗濯物を着こんで、ターバンのように頭にも布を巻いて、ちょっとした変装をして街に向かう。シーツを風呂敷代わりに誰かの洗濯物を包んで背負う。古着屋に売ることも考えて、ちょっと多めに頂いた。慰謝料にしては、激安だ。
ちなみにあの、変な皮の服は洗濯場の端っこの土に埋めてきた。
その上に植木鉢を置いたからたぶん、ばれないはず!
街は城下町だというわりに、こじんまりしていてなんだか初っぱなからバレそうな予感がした。
だからさっさとこの街をバックレたほうが安全な気がすす。
しかーし! 魔王がいるってことから、ここは剣と魔法のファンタジー世界の可能性が高い。つまり街の外には魔物がウヨウヨしてることが考えられる。歩いて街の外に出るのはちょっと危険過ぎる。
さて……。どうしようか……。………う―ん……
考えていると、なんだか、まぶたが重くなってくる。
ヤバい。疲労度Maxなんだった。
激務のあと目が覚めたらこの世界に来ていたけど、俺は何時間くらい寝ていたんだろうか。
実は全然寝てないうちにこの世界に来ていたのではないだろうか。
だって、こんなに、眠い…。
俺は目を擦りながら、人気のない、眠れそうな場所を探し始めた。大通りから外れて小路に入り、馬小屋っぽい建物の中に積み上がった藁を見つけると、なんだかそれが立派なベッドに見えた。
フラフラと引き寄せられるように藁のなかに埋もれて、俺は目を閉じた。
ガタンガタン―――
心地よい揺れで目を覚ます。
チクチクする藁に埋もれていても熟睡できるとか、疲労度Max半端ない効能。
ってゆーか、なんの揺れなんだ。
俺はもがいて藁から顔を出すと、そこは真っ暗だった。手を伸ばして当たりを探って、ざらりとした帆布の感触。さらに身体を捩って藁から自由の身になったところで、帆布の壁をたどってみる。捲ることのできる布をあげると、予想通り、馬と御者の背中を確認した。俺は荷馬車のなかにいるようだ。疲労度Maxで馬小屋と思い込んでいたのは、荷馬車の荷台だったのだろう。
藁の山を乗り越え荷台のうしろがわまで移動し、帆布を大きく捲って外を見る。
空はすでに日が落ちており、月が幾つか上がっていた。
「あー、異世界ってやつかぁ……」
改めて感じる、今まで生きてきた世界との違い。孤独。親や兄弟、友人の顔がよぎって、恥ずかしながらガチ泣きした。小一時間泣いた。泣き声は馬車の揺れる音で欠き消されていたのか、御者に気づかれずに済んだようだ。
頭に巻いたターバンで涙を拭い、もうなにもでなくなったころ、町か村か――集落にたどり着いた。
慌ててもとの藁のなかにかくれると、御者が女と話す声がする。
「お帰りなさい、あなた。ずいぶん遅かったのね。」
「王都というのに、マトモな値段での取り引きができる、体力のある商会はもうないみたいだ。そろそろ河岸を代えないとうちがつぶれてしまうな……」
「それにしても、王都の様子がおかしいわ。最近、勇者がまた召喚されたって噂でしょ?」
「ああ、城の連中が慌ただしかったよ。でも、いつものことだ。すぐに死ぬか、逃げるか……。もう何年も魔王は倒れちゃいない。あっちもわざわざ攻めては来ないってのに」
「可哀想にねぇ。あんな若い子を次々呼び出して、捨て駒みたいに……」
俺は藁の中で息を潜めながら、聞き耳を立てていた。やっぱり俺は28人目か29人目くらいの使い捨て勇者なんだな……。ますますバックレて正解だわ。
会話が途切れた隙に、そっと帆布を捲って荷台から降りる。足音を立てないよう気をつけて、集落の外れまで歩き出した。
ここは小さな村らしい。木造の家が十数軒、井戸と広場があるだけの素朴なところ。
王都から離れただけマシだけど、まだ危ない気がする。とりあえず、村の外れにある森の方へ向かう。
夜の森は怖いけど、魔物が出るなら街の外も同じだし……。いや、待てよ。ファンタジー世界なら、森に隠れ家とか廃墟とかありそうじゃね?
疲労度Maxの身体を引きずりながら、月明かりを頼りに森に入る。しばらく歩くと、
確かに小道らしきものがあった。獣道かな? でも、人間が通った跡もありそう。さらに奥へ進むと、木々の間に小さな小屋が見えた。扉は半開きで、中は真っ暗。
「おい……誰もいないよな?」
小声で呟きながら、そっと中を覗く。埃っぽいけど、ベッド代わりの藁束と、古い鍋、薪が少し残ってる。どうやら猟師か木こりの隠れ小屋らしい。完璧! ここでしばらく寝かせてもらおう。俺は扉を閉めて、藁束に倒れ込むように横になる。くすねた洗濯物のシーツを毛布代わりにかけて、すぐに意識が遠のいた。




