勇者、バックレます!
俺はただのしがないサラリーマン。
この世界にステータスがあるとしたら、そこにはこう書いてあるだろう。
「「疲労度Max」」
そう、俺は疲れていた。
してもしても終わらない仕事を終電間際まで抱え、結局終わらなかったんだけども、今日こそはお布団で寝ようとやっとの思いで帰宅した。
コンビニで買ったおにぎりとカップラーメン、1番安い酎ハイを夕飯にして、シャワーもそこそこに万年床になっている布団に潜り込んで泥のように眠ったのである。
そして――――目が覚めると、そこは自分の部屋ではなかった。
シャンデリアが天井から下がる豪華な広い部屋。
赤いふかふかの絨毯。白い細かい細工の施された置物。金色の刺繍の入った重そうなカーテン。
ピカピカ光る名前もわからない宝石の付いた玉座に、髭を貯わえたエラっそーなおっさんが渋い顔で座っていた。
「おお! 伝説の勇者の血をひくものよ! そなたのくるのをまっておったぞ」
「―――――はいぃぃ?」
「その昔、そなたの先祖である伝説の勇者は、神から神秘の力を授かりこの世界に蔓延る魔物たちを封じ込めたという」
「え? 急に昔話?」
「しかし、いずこともなく現れた悪魔の化身、魔王がその力を闇で打ち消してしまったのじゃ! 」
「ま、魔王…? なんの話―――」
「このままでは世界は闇に飲み込まれ、やがて滅んでしまうことだろう。
勇者の血を引く者よ! 魔王を倒し、その手に神秘の力を取り戻してくれ!」
「えっと、それって、拒否権はあるんですか? 」
「――――――コホン。 これはわしからの贈り物じゃ! この宝箱にそなたの役に立つ物が入っておるはずじゃ。では、また合おう! 勇者の血を引く者よ!」
無視して話を終わらせやがった!
側近らしきおじさんが俺に宝箱を押し付けて、ところてんのように部屋から押し出した。
「王は一言も言わないが、魔王に拐われた一人娘の姫のことをとても心配されている。とても美しい姫だ。もしも、連れ戻すことが出来たならばその者を姫の夫としても良いと言うだろう」
側近は早口でそう言うと、ばたんと扉を閉めた。
一度閉ざされた玉座の部屋の扉は、重くて俺には開けることが出来なかった。何故なら疲労度Maxだったから。
仕方なしに扉の横に立っている兵士に話しかけた。
「あの―――」
「宝箱をすべて調べましたか? その中に旅立つ準備がすべてはいっています。それを装備したら、あなたの旅が始まるでしょう」
「いや、それより、ここってどこ―――――」
「宝箱の中身を調べましたか? その中に旅立つ準備がすべてはいっています。それを装備したら、あなたの旅が始まるでしょう」
「いや、だから―――――」
「宝箱の中身を調べましたか? その中に旅立つ準備がすべてはいっています。それを装備したら、あなたの旅が始まるでしょう」
怖い。
なんですか、めっちゃ怖いんですけど。
この人同じ話しかしない。こっちの話を聞いてくれない。
仕方なしに宝箱を開ける。
皮袋に入ったコインが50枚と小さめの剣。そして変なマークが胸の当たりに描かれた皮っぽいものでできた上下の服。
「これだけ? これだけの荷物でどこに旅立つっていうの? 日帰り旅行?」
「それを装備したら、あなたの旅が始まるでしょう」
「だああああ! それはわかったから! 装備ってなによ? ここで着替えるの? パンツ見せなきゃなの?」
「―――それを装備したら、あなたの旅が始まるでしょう」
表情の変わらない兵士の変わらない台詞にため息をついて、まあいいかとパジャマ変わりに着ていたテロテロのTシャツ上から皮製の服を着てみる。下のハーフパンツも脱ぐわけにいかなかったので、その上に皮っぽいズボンを履く。
ベルトに皮袋と剣を提げるところが着いていたので装着する。
そこで初めて兵士が笑顔を向けた。
「行ってらっしゃい、勇者さま。」




