第7話:水晶の騎士たちよ
天井すらも透き通るような水晶で覆われた、円状の広い空間。中心部に座する黒い骨の御前にて、一人の人間、シャム男爵夫人が跪いていた。
「「またしても魔法少女めを打ち倒すこと叶わず、申し訳ございませぬ」」
「……謝罪は必要ない」
言葉が、脳裏に直接入ってくる。ざらりとした、厭な感覚。シャムの肩が大きく震えた。
シャムの脳裏に浮かぶ、処分の二文字。それが創造主の望みとあらば、己が死であろうと喜んで受け入れねばならない。……しかして理想と実体は、頭と心では考えるのはまた別だ。
黒い骨は口元から黒い煙を噴き出しながら、シャム男爵夫人に言葉をかける。
「新たな魔法少女と交戦した、となれば……我が欲するは陳腐な謝罪などではない。そんなもの、幾千とかけられたところで役には立たぬ」
その言葉は、慈悲をくださるということ。シャム自身の失態を責めず、新たな脅威についての対策を立てよとの命。
まだ見捨てられていない。幾度となく任務を失敗したというのに。シャムは主、クラスターの慈悲深さに涙した。
「「はっ、ははーっ! クラスター様のお望みの通り、指揮型の間でしかと情報共有をして参りまする!!」」
創造主の言葉に深く、額が床に付くくらい深く頭を下げた。
ひとまず命は繋がった。それに対しほっと息を吐く。
だが、次もこういくとは思えない。指揮型は簡単に処理されぬものではあるが、かといってシャムのように失敗続きではあるいは……。
そういった思考が頭をよぎったところで、クラスターから言葉が投げかけられる。
「もうよい、下がれ」
「「ははっー!!」」
創造主との謁見を終え、肩を落としながら水晶の廊下を歩くシャム男爵夫人。
ここのところ、創造主であるクラスターに報告できるものは失態ばかり。いくらでも替えが効く雑兵型とは違い、唯一無二の性能を持たされた指揮型ではあるが、もはやそのプライドも霞に消えようとしていた。
そのシャム男爵夫人の肩を、茶褐色の肋骨服を着た男が缶ビール片手に無理やり組んできた。
酒臭い息にシャム男爵夫人は顔をしかめる。
「いかがなされた、シャム男爵夫人! そう沈んでいては、このような素晴らしき廊下も色あせてしまわれるぞ!!」
「「……アポテム伯爵」」
酒を飲んでいるからだろうか、いつもの病的な白い肌に少し赤みがかっている。腰に下げているサーベルには、つまみとして食べていたのであろうなんらかの食べ物のカスが見受けられた。
アポテム伯爵。シャム男爵夫人と同じく指揮型のインベーダー。下界の下等生物の飲食物を好んでいるという変わり者である。
「「今はそっとしておいてくれ……私はもう駄目だ」」
「……飲むか?」
「「私が下戸なの知っているだろう貴様!?」」
カッカッカッカッ、と笑うアポテムに、シャムは項垂れたまま答える。
アポテムは壁にもたれかかりながら、缶ビールを一口飲んだ。
「インベーダーを殺されるなんて今までもあったことじゃないか、そう気にしていたら世界征服の一つも出来やしないぞ。私だって何匹とインベーダー倒されたしな!! ガッハッハッハッハッ!!」
「「貴様はもう少し気にした方がいいと思うぞ?」」
豪快に笑いながら負けたことを語るアポテムに、シャは思わず苦言を呈した。
確かに、これまで幾度となくインベーダーを魔法少女の手によってうち倒されている。なんとかこの浪川市近くである朱場緑地に拠点を構えることができたものの、目当ての代物であるカラミティナイト、それを採掘する為この街一帯を征服しなければならないのだが、未だ目立った成果を上げることが出来ていない。
「笑うしかなかろう! 私も貴様も、たった二人の子供相手にこの様なのだから!! 前戦力を投入すれば潰すのはたやすいかもしれんが」
「「そうなっては軍にこの城を鎮圧させられてしまう。我々インベーダーの力は凄まじく、その個体数はいくらでも増やせるとはいえ……無限の戦力を出せるという訳ではないからな」」
「自衛隊、とかいう奴らさえいなければもっと侵略は容易に進んだのだがな……」
水晶に映した塔外部の映像、そこには線のように積まれた土嚢、戦車、装甲車の姿。インベーダーを撃退する自衛隊の連中の姿があった。
魔法少女という少数相手に戦力を分散しなければならない原因がこれだ。じわじわとインベーダー達の優勢に持っていけてはするものの、それがいつ完全に塗り替えられるのか分かったものではない。
「奴らさえいなければ魔法少女二人程度相手ではないのだがなあ……」
「「……それならよかったのだが」」
「む? どういうことだ、シャム男爵夫人」
……もっとも、シャムの場合はその二人に負けたことよりも酷いものであったが。
「「……負けたのだ、魔法少女のヒヨッコ一人に」」
「魔法少女のヒヨッコ、というと……増えたのか? 魔法少女が?」
その報告にアポテムは飲むのをやめ、シャムの目をじっと見つめ話を聞く体勢になる。
魔法少女。インベーダーの血から力を得た目の上のたんこぶ。そんな厄介なものが増えたのだ、飲みながら聞くような内容ではない。
「それで、どんなやつだ? 武器は? どのように戦うというのだ?」
「「人の命を見捨てない、神流とは違い正義感のある魔法少女だ。武器は斧で、刃渡りが足りていないというのにインベーダーを真っ二つにした。おそらく、なにか能力が眠っているに違いない」」
「能力に慣れた様子は?」
「「インベーダーと情報を同期させたが、恐らく覚醒したばかりであろう……叩くなら今ではあるが、奴は天性の戦闘センスを持っている。一筋縄ではいくまい」」
「むう、それは厄介であるな……仕方あるまい」
アポテムは指をパチンと鳴らし、自信満々ににやりと笑いながらシャム男爵夫人に指さした。
「貴様はのんびり自衛隊共の相手でもしておれ、吾輩が倒してくれよう!」
ガーッハッハッハッハッ!! と高笑いをしながら、アポテム伯爵はシャム男爵夫人といた場を去った。
彼の後ろ姿を見つめながら、シャム男爵夫人は、飲み干された缶を指でつまみ呟いた。
「「……不安だなあ」」




