最終話:ぶっちぎりバトルバッカーズ
天まで巻き起こった土煙を狼煙に、自衛隊たちが集まってきた。巴は適当なコンクリート壁の瓦礫に腰掛け、自衛隊たちに手を振る。
すり鉢状に出来た巨大なクレーター、落ちて一時間は経つというのに晴れない土煙の天幕。クレーターの中は所々土がガラス状に変化しており、どれだけの熱だったのか測り知ることすらできない。
「これは……本当に現実の出来事なのか……!?」
「現実に決まってますわよ」
思わずつぶやいた隊員の一人にアスファルトの粒をぶつける。
そう、現実なのだ。巴すらも未だに信じられないが、確かにインベーダーの連中を根絶やしにし、成層圏まで行き、そして地上へと落ちてきたのだ。
「まっ、なんにせよこれにて一件落着、ですわね」
「……それはいいのだが、君の連れていた子と、君が言っていたもう一人の子はどこに」
自衛隊隊長の問いに、巴はため息で答え、クレーターの中を指さした。自衛隊たちが双眼鏡で、巴の指さした方向をのぞき込む。
一人は、青と白の斑点が浮いた洋式の黒い軍服に身を包んだ、長い髪の少女。そしてもう一人は、袖などがボロボロに破れており、黒く変色した特攻服を身にまとった、短い髪の少女。その二人が距離を取り、にらみ合っている。
「あれは……彼女たちは、何をするつもりなんだい」
「さあ、知りませんわ」
「知らないって君……あの子達の友達だろう?」
「不良バカの考えることなんて、私にはわかりませんわよ」
ふてくされたように頬杖をつきながら、巴は吐き捨てるように言った。
◇
ずっと、我慢していたものがあった。竜子も神流も、両者ともに、今に至るまで我慢させられていたものがあった。
あの時──竜子の実力を試すというテスト。あれがもし、巴に邪魔されていなかったら。もし、世界の命運なんてものが最初からなかったら──きっと、最初からこうなっていたのだろう。お互い、面と向かい合いながら、竜子と神流は同じことを思う。
もはやインベーダーは一匹もこの場には存在しない。だからどうした、魔法少女の姿となり、互いに得物を手元に出す。
「どっちも殺した数を覚えてねぇってんならよぉ……」
「こうして喧嘩して勝った方が一番強い、でいいですよね」
今回喧嘩するお題目を互いに口にし、同時に笑う。
竜子と神流は、互いに得物を構える。
どちらが最強か、序列をはっきりさせたい。あの時預けさせられた喧嘩を邪魔する理由は、もはや存在しない。
この喧嘩に意味はない。する理由も無い。ならばなぜするのか。巴という普通の感性を持った人間には一生分からないことではあるが──
──不良ガキという生き物は、どこまでいっても子供ガキの道理ワガママで動くどうしようもない生き物なのだ。
「私が勝っても恨みっこ無しだぜ!!」
「そっくり返してやりますよその言葉ぁ!!」
両者、同時に地面を蹴った。土煙が舞い上がり、爆発したように消え去る。遅れて音が、金属の砕け合う衝撃が鳴り響く。
互いに壊れた得物を捨て、新たに得物を呼び出す。そして斬り結び、壊し合う。
衝撃がクレーターの面積を広げる。刃の壊れた斧や刀がそこら中にまき散らされる。
低い金属音が鳴り響き、それを二人の狂喜の笑い声が打ち消す。
何十、何百という得物の骸がまき散らされる。
「我慢したらした分だけ気持ちよくなるってのは本当だなぁ! 神流ぁ!!」
「ええっ!! ずっとこうして、殺してやりたかったですよ! 竜子ぉ!!」
互いに全力を出し殺し合う。無数では済まない傷が二人の身体を蝕み、血が土の色を埋め尽くす。
互いにこの喧嘩を経て得るものはない。この喧嘩に勝ったところで、何かが変わるわけでもない。
だからどうした、喧嘩をしない理由にはならない。
互いに同じくらい強いから、どっちが強いか白黒つけたいから。理由なんてものは、ただそれだけで十分だ。
「これで!!」
竜子が家すら真っ二つにできるくらい巨大な斧を振るう。
「くたばれえ!!」
神流も対抗して、巨大な刀を呼び寄せ振るう。
巨大な斧と刀がぶつかり合う。飛行機同士が衝突したような音が響き渡り、衝撃により地面がめくれ上がる。行き場をなくしたエネルギーがスパークし、周囲を緑色に染め上げる。
やがて拮抗した二つの力は相殺し合い、巨大な斧と刀は砕け散った。それと同時に、二人の魔法少女の服が粒子のように消え、その下から浪川中学校の制服が現れる。
お互いに魔法少女としての力は使い果たした。魔法少女としての力は出し尽くした。だが、出し尽くしたのは魔法少女の力のみ。
まだ死力は振り絞ってはいない。ここからが本番だ。
「おらぁっ!!」
竜子の放ったストレートが神流の頬を打つ。
「テクがねえんですよぉ貴様は!!」
神流は、殴られた勢いを利用し体を回転させ、反動をつけた回し蹴りを竜子の横っ面に打ち込んだ。
手ごたえを感じニヤリと笑う神流。しかし竜子はそのまま神流の足を掴み、地面へと叩きつけた。
力なく手が床に垂れる神流を、竜子は上がった息で見つめ、数歩分距離を取る。神流が地面に手を付け、飛び上がる様に起き上がった。
「脳みそ揺らしたってのに全然効いてねぇ……マジに人間かよテメェ」
「お生憎、こっちにもプライドってもんがありますのでね!」
二人して血の混じった唾を吐く。白い歯が血の混じった唾液に濡れ光った。
互いに殴り合うため、地を蹴る。竜子のドロップキックを神流は受け止めるが、そのまま体をねじり頭に直接蹴りを食らわす。
だが神流はその勢いのまま竜子を地面へと叩きつけた。肺に溜まっていた空気が無理やり叩きだされる、と同時に神流は頭を押さえ膝をついた。
「っだ、まだぁ!!」
竜子は呼吸も整えず立ち上がり、拳を握り締め、神流の顔面を殴りぬいた。
しかし、神流もまた竜子の腹に手刀を叩きこむ。
「ぬおっ!?」
「てっ……めぇっ……」
そして、二人同時に地面へと倒れ込んだ。
二人とも受けたダメージは大きい。二人の血が地面に広がり、交じり合う。
もとより激戦を繰り広げた後、体力なんてものはとっくの昔に使い果たし、気力のみで戦っていた状態。お互い、立ち上がる力すら入らない。
「はっ、ははっ……やるなぁ、おめえ」
「貴女こそ……その姿でも、ここまで強いとは……」
息も絶え絶えに、空を見上げる。既に日は落ち、満月と星空がゴーストタウンの空を彩っていた。
一呼吸、どちらともなく、まるで打ち合わせていたかのように同時に、膝に力を入れ、地に手を付き、立ち上がろうとする。しかし、うまく力が入らない。まるで小枝を杖にしたように、崩れ落ちてしまう。
「はっ、どうした……もうおねんねか、神流……」
「囀るんじゃないです、竜子……貴女こそ、随分、疲れているようですが……?」
「上等、寝言が言えるんならよ……!!」
「その言葉、そのままそっくり……返して、やりますよ!!」
どちらも勝ち、どちらも負けた。同士討ち、引き分け……そんなものでは、二人は納得できない。
あいつにだけは負けたくない、なんとしてでも勝ちたい……そう思うものの、体力はもはや限界。二人してこうして動けているだけでも奇跡のようなものだ。
足は震えている。顔の穴と言う穴から血が流れ、水晶の欠片が混じったコンクリートに染みを作る。
だがそれでも、もはや気合いだけでなんとか立ち上がる。視界すらまばら、互いの顔もよく見えない。
だが、それでも。立ち上がった。二人は立ち上がったのだ。ならばまだ決着はついていない。
決着はついていないのであれば、喧嘩を続行する理由には十分!!
「くた……ばれぇ!!」
「死ね……!!」
──やがて、一人が立ち上がり、地に寝そべっている相手を見下してこう言った。
「私の勝ちだ」




