第27話:決戦は金曜日
迫撃砲による爆撃によってクリスタルタワーの壁が破壊され、そこに迷彩服を着た自衛隊たちがなだれ込む。
自衛隊たちを説得し終えた巴が、狙撃銃を構え後に続いた。
駐屯地に連れ込まれやれ民間人は帰りなさいの押し問答をすること三十分。そして竜子たちが打ち漏らしたインベーダー達を倒して破竹の勢いで進むこと十五分。
あの馬鹿二人と離れてかなりの時間が経っている。
「無事でいてほしいですわね……」
いくら強いとはいえ、敵の本願に乗り込んだ馬鹿二人の安否を祈る。
自衛隊が延々足止めを食らい続けていたのは、倒せど倒せど、インベーダーが無限沸きしていたことが起因である。だというのに、インベーダーの源泉地である本拠地に乗り込むなど命知らずにも程がある。
現にこうしてクリスタルタワーにも、またいつインベーダーが湧いて襲ってくるか、おっかなびっくりと足を踏み入れている状態だ。
だが見たところ、クリスタル内部にはインベーダーが存在しないことに安堵し巴は銃を下げた。
「とりあえずは安全、っぽいですわね……出入口を中間拠点としていったん休んだ方がよろしいと思いますわ」
巴は隊長に進言し、体長は頷き、部下たちに命令を下す。
巴はその間にビスケット型の携帯食料を口に運び、水で流し込み一息ついた。
竜子たちの姿はなく、壁や床、天井に破壊した痕が残っている。
(十中八九あの二人の仕業ですわね……それにしては、少し静かすぎる気もしまるけれども)
あの二人による破壊痕に仕方ないなとため息をつき、巴はその場に腰を下ろした。
「先行して突入した二人もそうだが……君たちは一体何者なんだ?」
軍曹、と呼ばれていた自衛隊の一人が巴に対して疑問を投げかけた。
巴自身も自分たちが何者であるかを理解しているわけではないので返答に困っていると、壊されている天井から何かが落ちてきた。
落ちてきた謎の物体に、自衛隊たちが一斉に銃を向ける。
「人の身体……!? 民間人のものか!?」
「いや、それにしては……明らかに年代がおかしい。昔の軍服? それにこの黒い血はインベーダーの……」
落ちてきたのは人間の遺体らしきもの。巴が自衛隊の人込みをかき分け顔をのぞかせる。
「あら、これは……」
「知り合いかね?」
「いえ、このような殺し方をする人に心当たりがありますの」
「……こんな猟奇的な殺し方をする人と知り合いなのかね?」
自衛隊の男にそう言われ、巴は苦笑いを返すしかなかった。
何も言い返せない。現にこの殺し方は、最近こそ慣れてきたものの、最初の方は大型インベーダーに対してすらも猟奇的と思えたほどだ。
「殺人鬼と付き合いがあるのは感心せんな」
「いえ、これはインベーダーのものですわ。確か……アポテム伯爵、だったかしら?」
浪川中学校を襲撃された時の記憶を思い出し、ずたずたになった肋骨服の肉袋と合致する人物がいないか照合する。
いつだかに見たアポテムの着ていた肋骨服だ。
肩から上の部分が、まるで石を壊したかのようにいびつに無くなっており、そして全身を剣山のように彩る刀の山。手足なんて、もはやちぎれかけといった見るも無残な様子だが。
巴がそれを確認した直後、その体を踏みつけ、神流が落ちてきた。手にはアポテムの生首。着地の衝撃であふれ出した血が、巴の顔にぶっかけられる。
「わぷっ!? かっ、神流さん!?」
「おっ、女の子!?」
「おや」
銃をこちらに向けられている敵だと認識した神流は手元に刀を呼び寄せる、が、斬りかかる直前に巴の振り下ろした狙撃銃によって、刀は床をなめるように切り裂くのみに留まった。
「この人たちは自衛隊! 敵じゃありませんわ!!」
「なんだ、そうですか」
神流はそこで刀をおさめ、自衛隊たちとクリスタルの床に空いた穴を面白くなさそうに一瞥。
「竜子の奴はまだ来ていませんか」
まるで自衛隊の連中など眼中にないとでも言わんばかりに葉巻を取り出し、火を灯す。
巴が突入してから、竜子の姿は見ていない。竜子は未だ、クリスタルの穴の奥にいる。
神流の言葉に、巴は頷いた。
「ええ、まだ姿を見ていませんわ。まああいつのことですし死んでないでしょうけれども」
「……まっ、どうでもいいですね」
「ふぇっ?」
どうでもいい、とはどういうことか。そう問いただす前に、神流はクリスタルの廊下の奥を見やる。
小型インベーダー、アポテムを殺す前は永遠に続いているように見えた廊下の先、だがどういう訳か今は、突き当りの壁がある。
「私たちが突入した時はいくら走っても廊下の終わりが見えなかったんですが。指揮官型のインベーダーを倒したのが原因か、それとも壁を破壊したことが原因でしょうか」
神流か竜子の戦ったインベーダーにそういった類の能力を持つ個体がおり、それを倒したことで能力が解けたか……それとも、無限の廊下を作るには外気との接触を遮断する必要があったか。
──もしくは、
「誘われているか、ですね」
この先に、敵の親玉がいる。小型インベーダーを倒した仇討ちか、それとも体力を消耗した今ならば勝てると思われているのか。
どの仮説が本当かはわからない。どれか一つか、それともどの仮説も合っている可能性がある。とはいえ、それを証明する手立ても無ければ、興味もない。
興味もないからこそ、神流は帰れなくなってしまう可能性を潰すことを優先することにした。
「ひとまず自衛隊の皆さんはその壊した壁を命がけで守っていてください。英雄の帰り道を守護るのもまた仕事ですからね。……ここからは、魔法少女の仕事です」
刀を肩で背負いながら、神流が気怠げに指示を出す。自分で仕事と言っていて苦虫を嚙み潰したように嫌な顔をしている。
しかし、この横穴を守ってもらわねば神流としても思い切り殺し合いをすることができない。防がれる可能性を少しでも減らしたい、自衛隊の連中に守ってもらった方が比較的安心して決着に臨める。
公僕という権力に頼らなければならない、というのには虫唾が走っているようだが、だからといって個人的感傷で判断を誤るような女ではない。
だからこそ苦虫を食い潰し飲み込んで言った訳だが、当然、国民を守る自衛隊だからこそ反発意見も出てくる。
「そうはいかん! ここからは我々大人の仕事だ! 巴君に関しては友達を探す為動向を許可したが、君たちを態々死地に行くのを見送ることはできん!!」
「……巴、こいつら全員殺しちゃ駄目ですか? 面倒くさい」
「駄目ですわよ何言ってるんですの貴女は!! 彼らは国民を守るために頑張ってるんですわよ!?」
面倒くさそうに眉間にしわを寄せ皆殺し発言をする神流に、巴は思わず苦言を呈す。
確かに巴としても面倒くさい相手ではあると思ってはいるが、それでも皆殺しを許していいとは到底思ってはいない。彼らは立派に務めを果たそうとしているだけなのだから。
「……んじゃ、しょうがないですね」
神流は面倒くさそうに頭をかき、巴を抱き寄せた。そして刀を一振り、床を斬る。
水のように斬られた床は引き裂かれるように切れ目を大きくした。魔法少女であれば簡単に飛び越せる程度の幅ではあるが、人間では飛び越すのはそれなりに難しいくらい広く、深い。
「なっ、たった一振りで……!?」
「それでは、精々そこを守っていてください。あと、下に私たちの……あー、友達?がいるかもしれませんので、いたら救助の方お願いしますねー」
「きっ、君たちっ! 待ちなさい!!」
どうでもよさそうに手を振って奥へと進む神流と、申し訳なさそうに頭を下げながら神流へと続く巴。自衛隊の一人は引き留めようと声をかけ手を伸ばすも、振り返ろうとすらしない。
国民を守るために鍛えられた彼らは、たった二人の少女すら止めることはできず、ただ見送ることしかできなかった。




