第25話:クリア
地面を蹴る音と、丸い火が尾を描き、アポテムに迫りくる。アポテムは迫りくる光を頼りにサーベルを振るう。刀とぶつかり合い、火花が散った。
「こっ、のおおおっ!!」
アポテムは力づくで刀を押し返した。神流はその流れに逆らわず、むしろそれをバネにし後方へ飛び、アポテムから距離を取る。
刀が宙を舞い、天井に刺さる。
「はあっ、はあっ……なっ、なんだ貴様……なんなんだ、貴様!?」
神流が斬りかかってくるたびに全力で押し返す、これを何度繰り返したことか。天井や床に刺さった刀の数すらも数えるのがおっくうになる。化け物め、とアポテムは毒づく。
自衛隊相手に投入していたインベーダーを、思っていた以上に狩らせてしまったらしい。以前やり合った時より数段と強くなっている。
だが、インベーダーを大量に狩ったとしても、それでも解せないことがある。
「ふむ……確かに、強くなってはいるようですね。押し切ることができるほど、とはいきませんが」
アポテムは息を切らせているというのに、神流は息一つすら切らすことなく猛攻を続けてくる。いくら強くなったからと言って、これほどの強化は異常としか言いようがない。
新たに呼び出した刀を空中でつかみ、がりがりと床を切り裂きながらアポテムに迫る。
先ほどの力で刀をアポテムの体に叩きつけられたら、流石の防御力に自信のあるインベーダーだろうとただでは済まない。
故に、アポテムとしてはあまり取りたくない手ではあったが、この際手段を選んでいられる余裕もなかった。
「貴様相手に、我がコレクションを使うことになろうとはな!」
叫び、アポテムは袖口から穴の開いた黒い筒のようなものを取り出し、ピンを抜いた。
神流はアポテムの首を狙い刀を振り上げるも、首をそらされて回避された。一秒。
アポテムは足元に黒い筒のようなものを落とし、床に落としていたサーベルを蹴り上げ神流へと斬りかかる。サーベルは虚しく空を切り、神流により腕を斬られる。薄い傷が表れ、血がにじみ出る。二秒。
そのままアポテムの目玉を貫こうと刀の鞘を叩き、弾丸のように射出する。三秒。刀はアポテムの額へと刺さり、傷を作り血が少量流れる。四秒。
「これで貴様も終わりだ!」
アポテムの薙ぎ払ったサーベルを刀で受け止め、それを足場に宙を舞い距離を取る。五秒──が過ぎた瞬間、黒い筒から目が焼けつくような光と共に、耳をつんざくような音が響き渡る。
神流は咄嗟に目を覆うも、音の暴力が鼓膜を襲う。音が脳を揺らし、思わず膝をつく。
「ぐっ、スタングレネード!? クソッ、自衛隊め……余計な物を奪われてやがりますね」
通常の人間より網膜も鼓膜も数段強化された魔法少女には、その轟音と閃光はあまりに耐えがたいものであった。
咄嗟に目を覆ったことで視界は無事だったが、網膜がやられた。しばらくのうちは使い物にならないだろう。神流は音による気配察知をこの時点で切り捨てた。
「……逃げましたかね、これは?」
光が晴れ、そこにはアポテムの姿はなかった。逃げたか? 否、アポテムという小型インベーダーが、本拠地にまで乗り込まれておめおめと逃げるとは思えない。
……思えないが、インベーダーの増員を引き連れて戻ってくる可能性はある。神流は大量のインベーダーを斬れることを想像し、思わず舌なめずりした。
「さあ、来るなら来てみなさい。どれだけの軍勢だろうと──」
瞬間、神流は途中で言葉を切り、背中へとのけぞる。咥えていた葉巻が切り落とされ、火が床に落ちた。
(ちぃっ、どういうカンをしていやがる……聴覚はしかと潰したはずだぞ)
アポテムは斬り損ねたことに心底驚きながら、警戒し、神流から距離を取る。
アポテムの能力、透明化。自らの体を背景と同化させることにより、相手の視界から姿を消すというもの。外の世界であれば五秒と持たないものではあるが、この生まれ故郷であるクリスタルタワー内であれば、三十分は維持することが可能だ。
とはいえ足音までは消せないので、スタングレネードを使うことで感覚の強化されている魔法少女の鼓膜を破壊したのだが……それでも避けられてしまった
(吾輩なんぞよりよっぽど怪物ではないか、魔法少女)
「……姿を消していま、か。こざかしい真似を」
ライターで葉巻に火をつけなおし、神流はひとりごちる。
「その程度で勝てるとでも思っているんでしょうかね」
姿が見えない、そして耳も頼りにならないという状況。どう考えても圧倒的に神流の方が不利。ただの負け惜しみでしかない。そう、普通の魔法少女であればアポテムもそう判断しただろう。
(何か手があるな、こやつ。索敵能力でも持ち合わせているのか?)
だが、今は油断しない。そもそも透明になっての最初の一撃、あれですべてを決めるつもりだった。だというのに神流は見事に反応し、そして葉巻しか切り落とすことができなかった。
本来であれば、首を切り落とすつもりだったというのに。
そして、透明になったというのを知ってもなおこの調子。もはや警戒しない方がおかしいというもの。
しばらく静寂が流れる。神流は紫煙と一緒に、ため息を吐く。
「おっさんがガキにイモ引いてんじゃねーですよ、タコ」
神流はわざとらしくニヤリと笑いながら、中指を立てた。あからさまな挑発、しかしてそれに乗るほどアポテムは愚かではない。
だが、神流は既にアポテムが場所を移動していると思っているのか、様々な方向に見せつけるように体を回転させている。
あきらかに、未だ敵を見つけていないかのような動き。
透視能力や、位置を把握するような能力を持っている可能性は低い、とアポテムは仮定する。
ならば、ここで殺すしかない。狙うは一撃必殺の首ではなく、機動力を奪う足。アポテムは素早く、姿勢を低くし神流へと襲い来る。
(貴様の足を切り落とし、それから首を吊るして見世物にしてくれよう!!)




