第21話:NO Serenity
あのままでは自衛隊に強制的に連れ戻されるとなんとなく察知していた竜子、神流の二人は、インベーダーの群れの中で刀も斧も振り回して大暴れしていた。
インベーダーの装甲が引き裂かれ、血肉がそこらに飛び散る。切り裂いた断面から重力に従って、臓器がぼとりと地面に落ちる。
もはや自衛隊の姿もなく、たった二人で多数のインベーダーを相手取る。しかして傷は一切受けておらず、彼女たちの皮膚を流れる血はすべてインベーダーの黒い血ばかり。
「これで! あー……三十!!」
「多分二十五匹目!!」
中型インベーダーの装甲も切り裂けなかった神流ではあるが、竜子と共にインベーダーと戦っているうちに、徐々にではあるが中型相手でも刃が通るようになってきた。
巴の言っていた、インベーダーの血液を浴びることで強くなるという仮説は本当だったようだ。顔に付いた黒い血を舌で舐め取りながら、神流が笑う。
「どうしたどうした、ペースが落ちてきてるぞ神流!?」
「戯言を。私はいつでも、いつまでも! 絶好調ですよ!!」
まさに鬼神といった暴れっぷり。
たった二人では濁流のようにあふれ出るインベーダーを仕留めきることすら出来ないはずなのだが、竜子たちを自衛隊たちより脅威と判断したのか二人の魔法少女を倒すのに集中しているようだ。
明らかに、突入した時より数が多い。
「どうしたザコ共ぉ! ビッと気合入れて殺しに来いやぁ!!」
「怖気づくなら怖気づくでかかってくるんじゃねえですよ!!」
だが、それでも、刃が彼女たちの体を傷つけることは無い。その程度ものともせずともいわんばかりに、あふれ出るインベーダーの濁流に逆らい、進み続ける。
しばらくインベーダーたちを斬りながら進んでいると、やがて空に巨大な魔方陣が浮かんでいるのが目に入った。そこからまるで滝のように、インベーダーたちが地上へと降り注がれている。
そしてその向こう、大きく開けたラウンドアバウトのど真ん中にうっすらと見える、天まで届くなにか……竜子たちは、そこに何かがあるのを確信した。
「ぶった斬ります!!」
「あぶねっ」
神流はビルすらもニンジンのように見えるくらい巨大な刀を手元に呼び出し、それを横なぎに振るう。
刀の通ったビルが、インベーダーごと真っ二つに切断されていく。ビルが崩れ、倒れ、両断されたインベーダーの死体を踏み潰す。
人間の生息拠点である建物をまとめて破壊するという暴挙、広範囲の同族をまとめて殺されたというのに、流石に戦闘するだけの生物として作られている他のインベーダー達の動きも止まる。
しかし、透明な何かは切り裂くこそができず、刃がその何かに食い込み、止まってしまう。
「テメェ私までまとめて殺すつもりだっただろ!?」
「そんな訳ないじゃないですか」
「言い訳すんならせめて人の顔見てやれボケェ!!」
敵陣のど真ん中で掴みかからんとする竜子に、神流は感情のない笑い声で答える。
しかし一瞬バチッ、と強烈なフラッシュが二人の視界に飛び込んでくる。やがて半透明だった何かにノイズが走り、神流の刀が刺さった個所からぼろぼろと崩れるように、クリスタルの壁が表れていく。
そのノイズはやがて天にまで蝕み、巨大なクリスタルの塔が二人の前に姿を現す。
「これは……敵の本拠地?」
「でしょうね。それ以外考えられません」
竜子側にいたインベーダー達が二人に襲い掛かるのではなく、塔を守る様に二人の前に立ちふさがる。魔方陣から新たに追加されるインベーダー達も、同じように竜子たちの前に壁となる。
黒く分厚い壁、だがそれも竜子たち相手では障子程度の壁にすらならない。
そこで竜子たちの頭に、声が響く。
『チッ、指示が遅れたか。ステルス迷彩機能が壊れてしまった。……インベーダーども、きゃつらをこのタワーへと通してやれ。貴様ら相手では紙の屑にすらならん』
アポテム伯爵の声。そして、その声に従うようにインベーダーたちは壁を崩し、竜子たちに殺されぬよう散り散りになって姿を消した。
「どうします、竜子?」
「明らかに何か罠にハメようとしてやがる。普通ならいったん巴と合流するのを待つ。一般論ならな」
あからさまに怪しい。もはや誘い込んでいるのを隠そうとすらしていないように思える動き。
巴という遠距離どころか全距離で交戦できる魔法少女ならば、自衛隊の連中も引き連れていずれここへとやってくるだろう。インベーダー達は襲ってくる気配はないし、襲ってきたとしても簡単に返り討ちにできる。徹夜で殺せるくらいには、今の竜子たちは強い。
ならば常識的に考えれば、残る一人の戦力兼、このチーム唯一の頭脳との合流を待った方が良い。
「ですが不良なら?」
「ぶっ殺す!!」
その答えに、神流は満足げに笑みを浮かべ頷いた。
自分たちの街を荒らされ、罠が仕掛けられているからといってここで立ち止まるのは不良のやることではない。
不良たるもの、たとえ罠があろうと乗り込み、ただ前へと進むのみ。ここで仲間との合流を待つ等と怖気づいてしまうのは、戦略的に正しかろうと不良ではない。
竜子と神流はそれぞれ得物を構え、クリスタルタワーへと乗り込んだ。
「……ところでこれ、どこが入口なんだ?」
「ぶっ壊して入ればいいでしょ」
『今開ける! 開けるから壊そうとするなこの馬鹿どもが!!』




