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健康優良魔法少女ATTACK!!AGO!!GO!!  作者: プラン9


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第2話:男女

「「くっ、くっはっはっはっはっはっ……この時間であれば奴も授業の最中、我らが作戦を邪魔することもあるまい!!」」


 両方の性別の声がした。甲高い、まるで悪役令嬢といった感じの女性の声に、低く響く男性の声。

 男女(おとこおんな)は黒い水晶のはめ込まれた杖を天高くに掲げると、黒い水晶から光が溢れ、青空に奇妙な魔方陣を描き出す。


「「今度こそ我らインベーダーがこの地を支配してみせよう。そしてカラミティナイトをわが手に!!」」


 魔法陣の中から、怪物が現れた。四本の足に翼を生やし、鎌のように鋭い爪と二つの首を持った恐竜のような顔の怪物。

 それが建物を踏みつぶし、地上へと降り立った。

 その大きさたるや、二階建ての建物からでも姿が見えるくらいの巨大サイズ。


「「我らが力を思い知るがいい、地球人類!!」」


 建物を壊し、人を踏みつぶす怪物を目に高笑いする男女。

 まるでアニメや映画のような光景が目の前で繰り広げられている。現実味がないが、破壊された下水道管の臭いや、住人たちの血の臭いが、それらが夢ではなく真実だと伝えていた。


 だがそのような状態でも、流竜子は狼狽えない。


「……とりあえず」


 竜子は男女のすぐ後ろで腰を落とし、拳を引く。

 よくわからないが、あの怪物を出した原因は目の前のこいつのようだ。


「くたばれえ!!」

「「がはあっ!?」」


 元凶はこいつと判断し、竜子は思い切り背中から男女を殴りつけた。

 男女は数センチほど飛んだかと思うと、そのままアスファルトに顔から突っ伏し、竜子に殴られた箇所の背中を抑える。


 竜子はそのまま背中を踏みつけ、煙草を男女の頭に押し付けて火を消す。


「「あちゃちゃちゃちゃちゃ!? なっ、なんだ!? なにが起きている!?」」

「おいコラテメェ、確かに私はよぉなんか起きねえかなとは思ってたけどよぉ、これはやりすぎだろうがコラ」

「「きっ、貴様……まさか新手の魔法少──痛い痛い痛い痛い!! 待てその靴絶対何か仕込んでいるだろ貴様!! 重いっ、鈍器みたいに重い!!」」

「ピストルくれぇは防ぐ鉄板入りだ」

「「そんなもん履くか普通!?」」


 竜子特製、鉄板仕込みの喧嘩靴。靴屋の友達に作らせた特注であり、喧嘩の武器にもなれば足を鍛える道具にもなるというお気に入りの靴だ。

 そんな靴で踏みつけられているのだから、それはもうかなり痛いだろう。


「「──ええい、魔法少女でもない雑魚が我々を踏みつけるんじゃない!! やれえ、インベーダー!!」」


 竜子が何度もストンピングしている男女を助けに、建物を破壊しまわっていた怪物、インベーダーなるものはぴたりと破壊活動をやめ、竜子に向けて鋭い鎌を振り下ろす。

 竜子は咄嗟に男女を蹴り飛ばし、その勢いのまま後方へジャンプ。先ほどまで竜子の頭のあった場所を、鎌が切り裂く。


「「魔法少女ではないようだが……我々に喧嘩を売るその蛮勇、褒めてやろう」」

「魔法少女だあ? おめえ……(ヤク)でもキメてんのか? 大丈夫か、現実見えてる? ここのは質が悪いから変な幻覚(バッドトリップ)起こすんだぞ」

「「んなもんやるかっ!? ええい、あの不良女を殺せ!!」


 男女がそう命令すると、男女が呼び出した怪物、インベーダーなるものは無数の足で竜子に迫り、鋭い鎌を振り下ろす。


「やべっ!?」


 竜子は咄嗟に男女から飛びのき鎌を紙一重で回避するが、頬に一線の傷が入った。

 ようやく竜子の踏みつけから解放された男女は立ち上がってほこりを払うと、杖に付いた水晶を竜子の方に向け、怒り心頭な表情でインベーダーに命令する。


「「インベーダーよ! 我々シャム男爵夫人を足蹴にした無礼者を抹殺せよ!!」」


 男女、シャム男爵夫人に命じられインベーダーは竜子へ向かって突撃してきた。

 竜子に向けて振り下ろされる鎌、それを何とか紙一重で回避し続ける竜子。アスファルトがえぐれ、ささくれのようなものが何本も生やされ足場を悪くしていく。


 だが、そのどれもが竜子の命を奪うには至らない。いくら足場が悪くなろうと、竜子の足が止まることはない。


「「ええい猪口才な……いや、インベーダーよ、あのガキを狙え」」


 そう言ってシャムが杖を向けたのは、足を怪我したのだろう、逃げることもできず地面に転がり泣いている子供。

 インベーダーが攻撃の動きをやめ、ゆっくりと子供の方へと向かう。子供はがくがくと震え、インベーダーを見上げる。


「てめっ、卑怯だぞ男女!! 狙いは私だろうが!!」

「「ふん、卑怯もラッキョウもあるものか。貴様らなぞ所詮は皆殺しされる存在、順序を変えたところでいずれは同じことよ……やれっインベーダーよ!!」」


 シャムの命じるがままに、インベーダーは子供に向けて鎌を振り下ろす。

 ……あの子供を見捨てたところで、竜子の人生に何ら影響はない。わざわざ命の危険を冒す必要はない。


「……あー、クソッ!!」


 だというのに、考える前に、自然と体が動いていた。鎌を白刃取りし、竜子の目前で止める。

 見捨てるべきだった。命を張る必要はなかった。後悔が後から湧いて出てくる。


 だが竜子はそれを、後悔を踏みつぶす。

 やっちまったもんはしょうがねえ、吐いた唾は吞めないように、やってしまったことはやり直せない。一度やっちまったら最後までやり切るのが仁義ってものだ。


「つくづく、損する(へたこく)性格だな、私って……おいクソガキ!!」

「ひっ、はっはいっ!!」

「痛むだろうがよぉ、足引きずってでも、逃げろ……悪いが、あんま長く持ちそうにねえ……!!」


 徐々に、徐々にではあるが竜子の顔へと鎌が近づいている。


「「常人であれば普通、受け止めることもできぬぞ……何者だ、貴様」」

 竜子ごと背後の子供を刺し貫くのも、このままでは時間の問題。子供守るために態々損をしたというのに、その子供まで死んでしまったらそれこそ本末転倒だ。


「「いや、貴様が何者だろうと関係ない! 厄介ごとの芽は、ここで摘ませてもらおう!」」


 引きずる音が背後から聞こえ、それが段々と遠くなっていく。なんとか言うことを聞いて逃げてくれたようだ。だがこちらは、何も解決していない。未だ拮抗状態であり、それも徐々にインベーダーの方に傾いてきている。


 竜子の脳裏に、走馬灯が蘇る。好きな人が車で事故って死んだ思い出。その人が吸っていた煙草の香り。隣の中学へ遊び(カチコミ)突入(イッ)た思い出。友達が作った糞不味い密造酒。


 碌な思い出が無いなと自傷気味に笑う。あともう少しで、竜子の首を鎌が引き裂く。死ねば地獄行きは確定だろう、そういう人生を送ってきた。

 いざ死が目の前に迫ると、不思議と悪いことをやったなという気持ちが湧いてきた。


(南無三……!!)


 竜子が死ぬ覚悟を決めた瞬間、不意に鎌にかけられていた力がぬけた。そして頭上から降り注ぐ、黒い液体。


「なっ、なんだぁこりゃあ!? 何が、起きて……!?」


 竜子が鎌から手を離し見上げると、そこには信じられないものがいた。

 何本、どころではない。何十本もの日本刀がインベーダーの体を穴だらけにしたのだ。


「「出たな魔法少女! 内田神流!!」」


 インベーダーの視線の先、黒い洋服のロングコートとズボンを身にまとった、黒く長い髪の少女が、建物の屋根の上で葉巻を咥えながらシャムを見下ろしていた。

 手に持った日本刀をシャムに向かって投げつける。ダーツのようにまっすぐ飛んできた日本刀をシャムは杖で弾き飛ばした。アスファルトに日本刀が刺さる。


「「今日こそが貴様の年貢の納め時だ!!」」

「相変わらず、どこで覚えてるんですか。その日本語」


 シャム男が杖を光らせる。穴だらけにしたインベーダーの外殻がはじけ飛んだかと思うと、その中からトカゲのような、人間のような一回り小さい怪物が黒い骨のようなものを持って、神流に襲い掛かった。


「……小細工ばかり上手くなりますが、無駄ですよ」


 心底うんざりしたように吐き捨て、襲い掛かってきた小型インベーダーを一瞥もせず首を跳ね飛ばす。


「うえっ、汚ねぇ!!」 


 分断された胴体と頭が、黒い血をまき散らしながら竜子の傍にごとりと落ちた。


「「貴様ぁ……ならば押しつぶしてくれるわ!!」」


 シャムは杖を光らせ、魔法陣を二つ空中に呼び出す。そこから巨大なインベーダーが二匹、神流を押しつぶさんと勢いよく落ちてきた。


「巴」


 一匹に向けて刀を二本ダーツのように投げ刺し、短く言葉を放つ。すると次の瞬間、どこからともなく青白い光がもう一匹のインベーダーに当たったかと思うと爆発。インベーダーの巨体は大きく弾かれ、建物を押しつぶし絶命した。


 新たに呼び出したインベーダーたちすらもあっさりと倒されたことにシャムは歯噛みし、足元に魔法陣が現れ光に包まれる。


「「今のはただの小手調べだ、次こそは必ず貴様の命を奪ってみせるぞ! あと授業くらい受けておけや魔法少女共!!」」


 シャムは捨て台詞を吐き、光と共に姿を消した。大量の日本刀が突き刺さったインベーターの死骸と、アスファルトに刻まれた魔法陣の痕だけが残った。

 色々な事が起こりすぎて、ぽかーんと口を開けて事態を呑み込めないでいる竜子。

 神流と呼ばれた少女が竜子の傍へと降り立つ。凛とした佇まいながら、どこか竜子と同族の気配がした。


「……学校で会いましょう。待っていますよ」

「……はぁ?」


 一言、そう言い残し少女は姿を消した。


「……はぁ!?」


 竜子の疑惑の声が、誰もいなくなった大通りにこだました。


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