第18話:恐喝~kyokatsu~
松山組、この地域一帯を取り仕切る暴力団であり、ひとたび喧嘩を売れば日の出より早く飛び出でて、日の入りより深く埋めると謳われるほど狂暴な暴力団団体である。
その事務所の似つかわしくない、三人の少女がソファーに座っていた。
一人は足を組んで威風堂々と茶を飲み、もう一人はまるで波一つない水面のように静かに座っている。そして残る一人は楽しそうな笑みを浮かべながら仕切りにちゃきん、ちゃきんと刀の鍔に指をかけ、音を鳴らし続けている。
「あっ、こいつ……! こいつです!! 俺たちに怪我を負わせたの!!」
「じゃかやしい!!」
いつぞやに竜子に絡んできた下っ端が竜子を指さして喚くも、すぐに、そいつより地位が上の極道に殴られて黙らされる。
「てめぇこんなガキに負けてようおめおめと面見せることできたな、おおっ!? わかってんのか、ウチの看板にドロ塗りやがったってよぉ!!」
下っ端の顔を革靴で何度も蹴りつける男。竜子は煙草を咥え、それを眺めながら火をつけた。
男の足がチンピラの顔に沈むたびに、血と歯が床へと飛び散る。
「すっ、すんませんアニキ……すんません! 許してください!! どうか命だけは」
「命より大切なもん潰してんだぞコラ、腐れチンピラが!! てめぇも指山みてぇに指詰めるかコラァ!!」
怒鳴りながら蹴り続け、やがてチンピラが動かなくなったのを確認すると、男はハンカチを取り出し、顔に飛び散った返り血をふき取った。
そして竜子たちの方へと向き直り、睨みをつける。
「
余所の島をあいつらが荒らしてテメェに迷惑かけたってので、ウチの看板にドロを塗った件に関しては目ぇ瞑ってやる。それで満足して二度と面見せるな、クソガキ」
「生憎だが用があるのは私じゃねえんだよ、クソヤクザ」
竜子は煙草の火先を横に向ける。
男は巴の前に立ち、覗き込むように巴の顔に睨みを付けた。
巴はそれに対し、何も臆することなく口を開いた。
「私はあなたと、取引をしに来たんですわ」
「取引だあ? ガキが俺たちとどう取引できるってんだ? 臓器売ろうにも浪川のガキは全然売れねえしよぉ」
浪川中学校の人間は、基本的に学生時代に酒や煙草などに手を出してしまう。そのためあまり高値がつかないのが現状だ。
話にならねえ、とでも言わんばかりに男は、窓辺の席に座る。
「それとも、中学生が体で返すとでも言わねえだろうな。まあマニアにゃ高く買ってもらえるだろうがよぉ」
「早漏男子は嫌われますわよ?」
巴の言葉に、男はニヤつくのを辞めた。
明らかにこれは、なめられている。たかが中学生ごときに。
「私たちが要求するのは、外に停めてあるスポーツカー一台。それを一台、私たちに譲りなさい」
「対価は? 金か、それとも体で支払うってのか?」
「そうですわね……身の安全、とでも言っておきましょうか」
巴が答えた瞬間、男は勢いよく引き出しを開け物を取り出す。だがそれよりも早く神流が灰皿を男に投げつけ、床を蹴った。
「姿が変わった!? 手品か!?」
「いやそれよりも、アニキ!!」
魔法少女の姿となった神流が、男の首筋に刀を突きつけていた。部下のチンピラたちが竜子たちに銃を向ける。
チンピラの手下たちがナイフやドスを抜くも、それより先に巴の放った狙撃銃の青い弾丸が、轟音を上げて壁に穴をあけた。
「テメェらなんのつもりだ!? いくらガキだからって殺さねえとでも思ってんのか!?」
「まさか。ただ、私を殺すってことはあいつを止められる奴がいなくなるってことだ。そこんとこきちんと認識してんだろうな」
拳銃を突き付けられているというのに余裕の表情で返す竜子。
「このクソガッ──」
男が拳銃を引き出しから引き抜き、神流に向けようとした直後──男の腕は血を吹き出しながら宙を舞っていた。
突然のことに判断が追い付かない男、茫然とする男を真っ二つに切り裂かんと神流が刀を振り下ろした直後──刀は、間に割り込んできた竜子によって止められてしまった。
神流は今にも張り裂けそうな笑みを浮かべ、竜子から距離を取る。
「まっ、こうなるって訳だ。大丈夫……ではなさそうだな、おっさん」
強く握られている指をへし折り拳銃を懐にしまいながら、竜子は男を横目見て声をかけた。男は切られた腕を押さえ、声にならない嗚咽を流している。
「邪魔しないでください竜子、極道なんていう斬られる為に生きている連中を斬らずしていつ斬るというのですか!? 目の前の生き藁を斬るなんて機会そうそうないんですよ!? それともあなたも私に殺させてくれるというのですか!?」
「当初の目的見失ってんじゃねえよ馬鹿!! ただの恐喝りで済ませる予定だったってのに、極道殺すなんて面倒起こすんじゃねえよボケェ!!」
「あぁん? ぶち殺しますよ」
一触即発、斧を構えた竜子と刀を構えた神流がにらみ合う。極道の連中は、蛇に睨まれた蛙のように動くことができなかった。今まで感じたこともない殺意に、身がすくんでしまったのだ。
ぱんっ、と手をたたく音が響いた。巴が口を開く。
「さて、これでわかってくれたでしょう。あなたたちでは相手にならないと。ではもう一度要件を言いますわね。彼女からあなたたちの身を守るのを対価に、私たちに車をよこしなさい」
巴の言葉に、極道たちはただ頷くしかなかった。




