第15話:ロクデナシ
「いったい……何が起きたというのだ……」
突如ニクトの反応が消えた為アポテムが現地へと赴くと、そこには瓦礫に押しつぶされ苦しそうにうめく刺青の入った男たちと、それを助けようと奮闘する上半身裸で全身に刺青を入れた男たち。そして、インベーダー特有の黒い血液だけがあった。
「おい貴様、そこの男!」
「あぁん!? なんだテメェ目んたまついてんのか、テメェに構ってる暇なんぞねぇんだよ!!」
アポテムの方に顔すら向けず、瓦礫を押しのけようとする男。
アポテムは男の左腕を切断した。少しだけ浮かんでいた瓦礫が重力に引っ張られ、同じ仲間の亡骸をさらに傷つける。
「ぎゃああああああっ!!! いでぇっ、いでぇよぉ!!!」
切っ先を男の首元に突き付ける。
「いいか、貴様らなぞ殺すのは簡単なのだ。私の質問にだけ答えろ。貴様も、そこらのゴミと一緒になりたくはなかろう」
「あっ……はっ、はひっ……」
「よし。では何が起こったかを説明しろ」
アポテムの言葉に、男は首を横に振る。
男に突き付けている刃に力を込める。薄い皮膚が切れ、血が刃を伝ってアポテムの手袋を濡らす。
「わ、わからねえんだ……いつも通りオレオレ詐欺してたら急に爆発が起きて……いったい何が起こったのか……」
「……爆発だと?」
男の言葉に嘘は無さそうだ。涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔から出た言葉には、困惑と恐怖が色濃く残っていた。
アポテムは顎に手を当て考える。ニクトの使う武器も能力も、爆発系統のものは存在しない。そもそも奴は狙撃特化型の小型インベーダー、そのような派手で目立つ攻撃は避けねばならぬものだ。
であれば魔法少女の線──これが一番手堅いだろう。だがアポテムの知る限りでは、爆発するような武器を持った魔法少女はいなかった筈……。
「……そもそも、同族が同族を殺すなんてことあるのか? それも、こんな容易く」
アポテムはサーベルを薙ぎ払い、男の頸動脈を切断。男は口から赤い泡を吹き、切られた箇所を押さえながら床へとうずくまる。
そんな様子の男を一瞥もせず、アポテムは思案する。
「まさか、チューガクセーという子供が人を殺して平気な筈が……」
否、その決めつけこそが思考を阻害するのだ。アポテムの頭の中でいったん、常識というものを取り払う。
魔法少女が同族の人間を殺すのに躊躇せず、ニクトを倒す為だけにこの建物を、同族を巻き込んでまで破壊したとしたら……そんな荒唐無稽な正解を仮定として考えていると、ニクトの腕が何かを強く握りしめているのが見えた。
一体何を握り締めているのか。ゆっくりと指を開かせていくと、ニクトの手にはインベーダーの破片が握りしめられていた。
力尽きる前に藁にも縋る思いで握りしめたのか。否、小型インベーダーという選ばれた知能を持つ生物が、そんな意味のないことをするはずがない。
これは、ニクトが遺した何らかのメッセージに違いない。短絡的に考えては、ニクトの努力そのものが無駄となってしまう。
アポテムは自信の頭脳をフル回転させる。死の間際に握っていたインベーダーの破片、ニクトが命を懸けて、最後の最後に力を振り絞って伝えたかった事とは。
アポテムは、魔法少女たちとの闘いを思い出す。
ニクトが引き連れていたインベーダーはどれも中型、強度こそ小型に劣るが、大型インベーダーに比べたらその防御力は数倍にも上る。
事実、神流が振らせた刀すらも、中型インベーダーの前では楔のように刀を撃ち込まなければ、致命傷にはなりえなかった。竜子という謎の魔法少女は容易く中型インベーダーを引き裂いていたが、巴の放つ魔力弾すらもあの時は、一発では有効打になっていなかった。結局なんだかんだ倒されてしまったが。
いなかった筈だ。
ここでアポテムは、ある違和感に気付いた。
魔法少女に寄って見るも無残な姿にされた中型インベーダー、だがあの時竜子が、唯一中型インベーダーを容易に屠ることができる竜子がこのようにバラバラにしたとは考え難い。彼女の仕業であれば、もっときれいな死骸が残っている筈である。
「魔法少女は、我々が戦っていた時以上に爆発的に強くなる……?」
身の毛もよだつ恐ろしき予測。今でさえ強いというのに、さらにこれ以上強くなるなど悪夢以外の何物でもない。
であれば、考えねばなるまい。どのようにして魔法少女は強くなるのか。急務に答えを出さねば、インベーダー側は絶滅してしまう。魔法少女という、怪物たちの手によって。
アポテムは空に大きく登った月を見上げながら、これからの未来を悟り、深くため息を吐いた。




