第13話:コンビニ
不良と極道という悪の栄える街、浪川市。
既に草木も眠る丑三つ時だというのに馬力をとどろかせたバイクの音が何重にも鳴り響き、怒号や発砲の音が街を彩る。
日本だというのにまるで日本ではない、というよりメキシコやヨハネスブルクを思わせるような治安の悪さだ。炎を上げるドラム缶を囲んで騒いでいる不良たちを、巴はスナイパーライフルを担ぎながら横切る。
いくら治安の悪い街であろうと、ゴシックロリータの服を着てむき出しのスナイパーライフルを担ぐ女性に絡むような人間はそういたりはしない。
君子危うきに近寄らず。馬鹿や不良でもゴツい銃を担いだ頭のおかしい女には近寄らないものだ。
「……住めば都とは言いますけれども、ここの治安の悪さに慣れてくる自分が怖いですわね」
ここへ引っ越してくる前は外へ出るのにもおっかなびっくりだったというのに、今となっては何の怖気もせずに夜中だろうと出ることができるようになってしまった。
この街へ来たのもたった二か月前だというのに、だ。こんなにも早く悪の街に染まってしまった自分に、少しばかり悲しくなってしまう。
神流曰く、「表と裏でキッチリ分けられてるからそこまで気にしなくていい」らしいが……裏の方にもちょっかいをかけている神流の言うことをイマイチ信じられないでいるが。、今のところ彼女の言ったように、表側にいる間は何ももめ事に巻き込まれないではいる。
……毎度外出する際に携帯している銃のお陰もあるかもしれないが。
集団で暴走するバイクを追いかける白バイを横目見て、巴はコンビニへと入っていく。
「いらっしゃいませ~」
チープなBGMの入店音とおおよそやる気の感じられない挨拶をする店員を横切り、巴は適当にぶらぶらとコンビニ内を歩く。
深夜という時間帯だからだろうか人はまばらで、立ち読みをする身なりの悪い人やカップ麺を買うのにやけに悩んでいるプリン頭の女性、コピー機の傍らには「締め切りが……締め切りがぁ……」と虚ろな目で見つめる女性がいるくらい。
コンビニ前の道路でバイクがクラッシュし、火花を散らしてどこかへと滑って行った。
(こんな時間帯に出歩くの、最高にワルって感じしま……うーん、いろいろ経験したからか全然そうは思えませんわね)
少しばかりアウトローな空気に浸れるかと思いきや、中学のあれ具合を思い出して冷や水を浴びせられたような気分になる。巴もそこまで良い生徒という訳ではないのだが、他の連中に比べればマシ、らしい。教師曰く。
「これよりマシって言われても嬉しくはありませんわ」
デカデカと『狂気!!浪川中学校の生徒、ヤクザの事務所に殴り込み!!』や『密造酒売買する謎の中学生に挑む!!』と記載されたゴシック雑誌の表紙を見ながら、ため息をつく。
厄介なことに、ゴシック雑誌だというのに本当の事しか書いてないのだ。ため息の一つや二つ、当然出る。
巴の腹がせかすように鳴った。が、どこからか聞こえてきた爆音でかき消してくれた。銃声が店のガラスを振動させる。
「チリトマトラーメン……たまにはインスタントでいいですわね。ついでにチーズも買って~、と」
数か月前から見る新発売のチリトマトラーメンと6Pカマンベールチーズを購入し、レジ袋を提げて巴は帰路に就く。
相変わらず、道沿いの建物の向こう側からは銃撃の音が鳴り響き、その方面だけ空がほのかに明るい。抗争でもしているのだろうか。
ともあれ巴は特に気にすることなくいつも通り帰り道を歩いていた──その時、上の方から銃声が鳴った。
巴がレジ袋を持っていた右腕に、1円玉程度の大きさの穴が空く。弾は貫通しておらず、巴の腕の中に入ったまま。
巴は素早く、弾の飛んできた方向から壁になるよう生け垣の裏に隠れる。手から離したレジ袋が、くしゃりと音を立てた。
(狙撃された……!? 音からして距離は大体千メート……あぁもう、ヤクザ連中の銃撃音がやかましいですわね!!)
己の経験から大体の目安を立てる。ヤクザの銃撃音や暴走族のバイク音、それらが絶妙にガードとなって、距離をわかりづらくしている。
これがいわゆるプロであれば問題なく距離を当てることができたのであろうが、巴は銃が撃てるというだけで、そういった戦術や戦略に関してはズブの素人。しかも狙撃手と戦った経験もさっぱり無い。
(インベーダーの新型? でもこの威力、あまり強くはない……いや、人間がやったのであれば、今頃腕がもげてますわね。得物的に)
人間が使う狙撃銃よりも威力が低い。消去法にてインベーダーの手のものだと巴は仮定した。
巴の腕に刺さった弾丸は腕を吹き飛ばすどころか、貫通すらしなかった。
貫通しないというのは銃弾を受けたという点で見れば悪手ではあるが、狙撃銃で受けたとなれば。それは判断の材料となる。
巴は自分の得物のグリップ(木製のものと同じような感触の素材で出来ている)を噛みながら、弾丸の受けた右腕の穴に左指をねじ込む。熱された鉄を流し込まれたような痛みが走り、激痛に歯が砕けんばかりの力が入る。
ただの弾丸ではない、弾が引きずり出されるたびに、刺さるような引き裂かれるような痛みが走る。血液が穴からかき出される。
だが悲鳴を上げず、無理やりに弾丸を引きずり出す。真っ赤な血に覆われたそれは卵のような形をしており、無数の返し針が全身を覆っていた。
そして掘り起こした弾丸についた自分の血を草でぬぐい取り、よく観察する。
通常の弾丸ではまずあり得ない、引き抜いた際に肉を削り取る為の返しのついた形状の弾丸。黒い元の色が顔を表す。
「……なるほど。近距離ではあの二人に勝てないから遠距離からと。考えることが単純ですわねえ」
荒い呼吸をしながら、巴は撃たれた方向に向けてスナイパーライフルを構え、スコープを覗く。
暗視機能なんて便利なものはついていないが、巴は夜目が利くタイプだ。探すのは容易である。
だが、巴の覗いていたスナイパーライフルの銃身部分に衝撃が走り、ストックが巴の顎をかち上げた。




