第11話:バトン
「「で、貴様も負けてしまったと。アポテム」」
「ふん、やかましいわ……クソッ、あそこで転送さえされなければ一人は仕留めることは出来たというに」
周囲を青い水晶で囲まれた大きな部屋、大量のビールの空き缶を床にまき散らしながら飲んでいるアポテムに、シャムは言葉をかけた。
同じく水晶で出来たテーブルには大量のビールと、そしてつまみ。シャムは柿の種をぼりぼり食べている。
シャム自身、なんとなくではあるがある程度予測していたことではある。こいつの従えるインベーダーでは勝てる相手ではないと。
そんなに単純な相手であったなら、今頃シャム自身の手で殺すことができている。
アポテムは何も答えず、新たにビール缶を開ける。
「「しかしまあ、ここまで荒れるとはな」」
既に二桁は飲んでいるだろうか、毒に強いという彼らからしても、流石に許容範囲を超えてきている。アポテムの顔もどこか赤らんできている。
「「して、どうだったのだ? 中型インベーダーを投入してみて」」
大型では耐えられない戦車砲の威力すらも防ぐことのできる強度を持つ中型インベーダー、それを投入して負けたとしてもある程度は通じたであろう。
魔法少女に対して使用したのは今回が初めて。シャムとしてもぜひその戦闘データが欲しいところ。できれば有用な結果が残ってくれると嬉しい。
そう期待を込めての言葉であったが、アポテムはビールを一気に飲み干してから問いに答えた。
「……通じなかった」
「「……なんと?」」
「通じなかったのであるよ! 刀使う娘と銃使う娘に対しては、その防御で一撃で殺されるということはなかったものの結局少し硬い敵程度でしかなかったし、件の新たな魔法少女に関しちゃそもそも大型と切り味変わらんと言う始末!! ここまで圧倒されると吾輩も流石にお手上げであるわ!!」
戦車と同じくらいの強度はある大型インベーター以上の防御力を持つ中型インベーダーが、魔法少女に通じない。その報告は、シャムとしても想定外のものであった。
神流と巴に対しては少しは差が出ているようだが、それにしても少し硬い敵程度であれば、わざわざコストのかかる中型を投入したところで何の違いもありゃしない。
しかも竜子に至っては大型との違いがさっぱり分からないくらいあっさりと倒されてしまったという。
「……しかもだ、見ろ」
そう言ってアポテムは腰のサーベルを抜き、その刀身をシャムに見せる。
竜子の振り下ろした斧を防ぎ、斧を打ち落としたサーベル。ものの見事に中心から先が折れている。
「「これは……!?」」
「小型インベーダー以上の強度を誇る専用武器でさえも、新米の小娘相手にはこのありさまだ」
アポテムの使うサーベルの硬さたるや、ダイヤモンドをはるかに凌ぐくらいだ。それも衝撃にも強く、これを壊すには同じように作られた小型インベーター専用の武器出ないと不可能──である筈だったのだが、こうしてものの無残に破壊されてしまっている。
「創造主以外は壊せないと思っていた物すら竜子の手にかかればこの様だ、吾輩はもうどう対策すればいいのか分からん!」
アポテムは嘆き叫び、ビールを一気に飲み干してテーブルに突っ伏した。
アポテムの愚痴はもっともだ。どう対策すればよいのか、ただでさえシャムだって頭を抱えているところにさらに絶望的な現実が待ち構えていたのだから。
かといって、あの女、石川竜子を無視することもできない。あのまま放置していては、侵略作戦に多大な支障が出てしまうのは確実だ。
「……ただでさえ神流と巴という目の上のたんこぶがいるというのに、そこに来てあの娘だ……もう視界が真っ暗になっておるわ……神流のやつも仕留めきることできなんだし」
「「情報共有したところでお手上げだからな、これに関しちゃ……」」
圧倒的力を持つ魔法少女。アポテムのサーベルすら容易に傷をつけるレベルの力を持った相手に取れる手段なんぞ思い付きはしない。
周辺の住民に不信感を持たせて追い詰めるのも、あの不良中学校に通う生徒相手には効果は薄いであろう。そもそも校内で酒や薬の売買をされているような学校に通う生徒の悪評を広めたところで、効果なんてものは一切無い。
「……対自衛隊用の遠距離攻撃機能搭載のインベーダーを使わせてもらうか?」
抵抗する自衛隊相手に回している、二人よりは性能の劣る指揮官たちが従える狙撃型インベーダー。あちらの方も大概消耗が激しい上、穴が空いたが最後一気に攻め込まれてしまう危険性こそあるが……もはやそこまでしないと、奴らには勝てないのではないかと思わずにはいられない。
「「あれは精密性に欠ける代物であるから魔法少女相手には不得手であろう。それに、巴という遠距離狙撃を得意とする魔法少女もいることだし」」
魔法少女に比べて動きが現実的な自衛隊であるからこそ成り立っている代物だ。少数精鋭というレベルではない実力を持った魔法少女相手には、流石に分が悪い。
「万事休すではないか!?」
アポテムが缶を握りつぶし、テーブルを強く叩いた。
それと同時に天井に穴が空き、小さい人型の何かが落ちてきた。アポテムもシャムも、思わずその落ちたものを見やる。
「「そういえば、創造主が新たに作り出すと言っていたな。純粋な戦闘型の小型インベーダーを……」」
「……あれが、か?」
「「恐らく」」
人型でありながら、シャムたちが従えるものと全く同じ色をした、人の形をしているだけのインベーダーを二人で見やる。
黒い小型インベーダーは状況を把握できておらず、子供のように二人を顔を交互に見渡した。




