第10話:殺す
窓の外からグラウンドを見下ろすと、インベーダーが数匹、生徒を殺しまわっていた。
グラウンドには既におびただしい量の血と生首、中には体がバラバラになっているものも存在している。
「インベーダーか!? ……にしてはなんかちっちゃい気もするが」
三階という高いところから見た感想ではあるが、それらを込みにしてもインベーダーのサイズが少し小さいように見えた。少なくとも、竜子と相対したインベーダーより小型であるのは確実だ。
「なんだろうと関係ないでしょう、とっとと殺しに行きますよ」
竜子、神流、巴の三人は魔法少女の姿に変身し、生徒会室の割れている窓からグラウンドへと飛び降りる。
「……なんだか小さいですわね」
地上に降り立ってはっきりと分かった。竜子の知るインベーダーと比べて、明らかに小さい。小さいとは言ってもトラックと同じくらいの大きさはあるが。
だが、今はそういったことを気にしていられない。
斧が、日本刀が、魔力の弾丸が、手近にいたインベーダーに向けて放たれる。
日本刀は浅く突き刺さり、魔力の弾丸は装甲を貫くことなく止まり、竜子の斧は背後にいた人影すれすれに飛んでいき地面に刺さった。
「ふははは、ここが貴様の墓場だ! 魔法少女どもよ!!」
「……誰だ?」
中型のインベーダーに囲まれている男性、アポテム伯爵。茶褐色の肋骨服を身にまとい、腰には巨大なサーベルを帯刀している。
病的とも、蝋人形ともいえるくらい真っ白な肌とは不釣り合いな、ギラギラと輝く瞳。茶色い髭を指で撫で、インベーダーたちに命令を下す。
「インベーダー共、魔法少女のガキ共を根絶やしにしたまえ!!」
男の命令に従い、先ほどまで生徒や校舎を襲っていたインベーダーたちが一斉に竜子たちの方へ振り返り、土煙を上げ、地面を破壊しながら迫ってくる。
建物と同じくらいかそれ以上の大きさはあった個体たちとは違い、トラック程度の大きさしかないが、その数たるや最初の投擲で殺した数を引いても九匹。男の周辺にいるインベーダたちも含めれば、その数は十三匹。中々に骨の折れる相手だ。
そして、神流の放った刀があまり深く刺さらなかった当たり、防御力は巨大な個体より上のようだ、
「……私の投げた刀が刺さらないとは、生意気ですね」
「小型な分装甲が圧縮され防御力が向上されているようですわね……神流さんちょっと楽しそうじゃありませんこと?」
「まさか」
神流は少し苛立ちげ半面楽しさを隠しきれていないな面持ちで、刀を構えてインベーダーの群れへと突っ込んでいく。
巴は神流の背後で銃を構え援護する体制を取り、大声で竜子に頼む。
「ああもう勝手に突っ込んで……私は神流さんの援護をいたしますわ! 竜子さんはあの男の相手と、私の援護をお願いします!!」
「あいよ」
数とは、すなわち力である。九匹という大量のインベーダーを神流と巴が引き受けてくれるのであれば、四匹のインベーダーを倒すのに集中できる。
「……貴様か、新たな魔法少女というのは」
「まあな。おめぇも新顔みたいだけど……悪いがここで出番終了もらう!!」
「なるほど貴様が例の新米の魔法少女か……やってみるがいい、ここまでたどり着けたらな!!」
インベーダーが三匹同時に、竜子へと襲い掛かる。
上左右から同時に振り下ろされる鎌、振り払われる斬撃から逃れるすべはない。
だが、しかし。
竜子は一歩も引かない。逃げるどころか、一旦引いて避けるという素振りすら見せない。猪突猛進、ただ前に進むのみ。
一歩前に大きく踏みしめ、手元に呼び寄せた巨大な斧を薙ぎ払う。
「……あん? デケェのと変わりねえじゃねえか」
斬馬刀のように長い斧が弧を描き、インベーダーたちの体を一刀両断。黒い血が噴水のように吹き上がり、体勢を崩す。
「ばっ、馬鹿な……馬鹿な!? 強度は大型の比ではないくらい高い中型だぞ!? それを、それをこんな……こんなあっさりと……!!」
信じられない、あり得るわけがない。アポテム伯爵は目を見開きうろたえる。
強度が足りなかったのか。否、それはない。竜子の背後で暴れる神流の姿を見ればわかる。突き刺さった刀の柄を叩き、釘のように突き刺してからその装甲を引き裂いている。大型であれば投擲で簡単に切断していた相手に、そのようなことをしているのだ。強度は十分な筈。
であれば、即ち、この目の前の娘が異常なだけ……!!
「この私が、見誤っていた……だと……!?」
「テメェの首落として終いだ!!」
竜子は斧を、アポテムに向けて袈裟に振り下ろす。
しかし、寸前のところで抜いたサーベルで防御。火花が散り、サーベルにひびが入った。竜子からの攻撃を防御した衝撃のまま後方へと飛び、足元に魔法陣を出現させる。
「悔しいが今のままでは勝てん……!」
「逃がしはしません」
マナイーターを片付け終わった神流が、足裏に呼び寄せた刀で蹴り突き刺そうと上空からアポテムに襲い掛かる。
アポテムがヒビの入ったサーベルで刀を受けるが、その勢いのまま刀の鞘から足を離し、地上へと降り立つ。
竜子の目の前に着地した神流が、右手に刀を呼び寄せた。竜子が憤る。
「なっ、テメェ横取りか!?」
「嫌なら先に殺してみせてください」
「上等!!」
竜子の斧と、神流の刀による左右同時攻撃。
だがろくに訓練も受けていない人間が、近距離特化の二人が、はたしてうまく戦えるのか。
「なっ、なんだこいつらは……!?」
否、刀は時として斧を天空へとかち上げ、また時として斧が刀そのものをたたき割る。
コンビネーションという観点からみると最悪の一言。二人きりで迫ってきているというのに、、サーベルでなんとか対処できてしまう。
「てめっ、邪魔するなよ神流!!」
「竜子こそ邪魔しないでください! こいつの生首切り落とすのは私なんですから!!」
「くっ、チームワークが無いだけに動きが読めん……っ!!」
言い合い罵り合い、互いが互いの足を引っ張る。それでも一瞬でも気を抜こうものなら命はないと思わせるような一撃なので、心は全く休まらないが。
偶然かみ合った左右同時、上下を狙っての薙ぎ払いを飛んで避け、アポテムは高笑いしながら三人をあざけ嗤う。
「ファーハハハハハ! 愚か者めが、もう転送準備は整っている! 貴様らが喧嘩なんぞしているうちにな」
「逃げることをあそこまで自信満々に言うやつなんでいるもんなんですね」
「プライドとかねーのか」
「まあ所詮は外来種ですからね、そんなもん持ち合わせていないんでしょう」
「貴様ら人の心攻撃するときだけはコンビネーション凄いな!?」
光に包まれ消えながら、急に息の合った口撃にツッコミを入れる。
下半身が全て消え、上半身も肩のところまで消えかかっているというところに竜子は斧をブーメランのように投げ飛ばす。
「ぬおっ!?」
とっさにサーベルで飛んできた斧を叩き落すも、サーベルがぽっきりと折れてしまった。
折れたサーベルの方に意識が向いたアポテム。神流はその隙をついて一気に肉薄し、刀をアポテムの脳天めがけて振り下ろす。
「死になさい!」
──だが、
「なっ」
神流の振り下ろした刀は、片手で呆気なく止められてしまった。
アポテムを引き裂こうと力を籠めるも、びくともしない。竜子の攻撃にはあそこまで機敏に反応し受けないように立ちまわっていたというのに、だ。
「貴様程度の力で、この吾輩に勝てるとでも?」
「ふざけっ」
神流は口を開く前に、アポテムによって地面に叩きつけられてしまう。かはっ、と大きく息の塊を吐き出す。
「神流っ!!」
「これでトドメ──」
アポテムが折れたサーベルで神流の胸を突き刺そうとした直後、アポテムの姿は消えた。
逃げられた。否、見逃されたという形となったというべきか。
情けをかけられたわけではない。ただ、勝つことができなかった。逃がしてしまった。それだけだ。
「チッ、逃がしたか……神流、立てそうか」
「……当然ですよ」
竜子に見降ろされ、神流はいら立ちを隠そうともしない表情で立ち上がる。
アポテム伯爵のいなくなった地面、折れたサーベルの切っ先がぽつんと残っている。
「こっちの方は片付きましたわー。神流、私一人に押し付けるの本当ひどくありませんこと?」
すべてのインベーダーを頑張って倒したのだろう、巴がぜえぜえと肩で息をしながら竜子たちへと走り寄ってきた。
だが、神流の重苦しい表情。何か面倒なことでもあったのだろうか、と竜子に耳打ちで訪ねる。
「神流……いったいどうしましたの、あれ? 今にも人殺しに行きそうな表情ですわ」
「あー、まあ……なんつうか、喋るやつを逃がしてしまった」
「別にいつものことですわよね。あの、シャムなんたらとか然り」
「あいつに関しちゃどうでもいい」
聞こえていたらしい神流が眉間にしわを寄せ、刀をサーベルの切っ先に向けて突き下ろす。折れた切っ先は火花を散らして宙を舞うが、傷がつくことは無い。
神流は葉巻を取り出し火をつけ、煙を立てる。ニコチンが苛立った脳を癒してくれる。
だがある程度マシになるだけ。コケにされ、見下され見逃されたようなもの。それへの苛立ちが消えることはない。
「問題なのはあいつが私らを舐め腐ってやがるってこと。そして私に汚名をつけくさりやがったってこと。この二つです」
思えば当然のことであった。己の刀では斬り捨てることのできないインベーダーを操る隊長格が弱いわけがない。だが、なまじ殺せただけに神流はどこか驕っていたのだ。あいつらなんぞ敵ではない、と。
「次は必ず殺す、あのアポテムとかいう男を」
天をにらみつけ、神流は誓いを立てる。
必ずやアポテムのそっ首を切り落とし、己の強さを証明してみせると。
竜子は、そんな神流の背中を見つめながら煙草に火をつけた。
葉巻と煙草の白い煙が、空の彼方へと登っていく。
「ちょっと! 二人とも黄昏れていないで、インベーダー共の跡片付け手伝ってくださいましー!!」
巴の叫びもまた、空の彼方へと消えていった。




