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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

God's Grace

作者: 肉球ぷにぷに


ラクーンシティの夜は、まるで黒い霧そのものが生きているかのように息づいていた。街の外れ、朽ちかけた教会の尖塔が月光に照らされ、冷たく輝く。街全体が深い闇に沈み、遠くで鳴る時計塔の鐘が、不気味な静寂を破る。この街は、昼は欲望に塗れ、夜は悪魔に支配されていた。警察は賄賂に溺れ、政治家は私腹を肥やし、市民は恐怖と無関心の狭間で生き延びる。夜の鐘が鳴るたびに、黒い霧が這い寄り、その中から現れる悪魔たちを退治する者たちがいた。不死の神父アスターと、不老のシスターマリア。聖職者の名を冠しながら、彼らは武器を手に、粗野な言葉と行動で悪魔を狩るデビルハンターだった。


教会の重い扉が軋みながら開く。酒瓶を片手に、ヨレヨレの黒い神父服を着たアスターが現れた。銀の聖剣が腰にぶら下がり、酒の匂いを漂わせながら、彼は祭壇の前にどかりと腰を下ろす。乱れた金髪と、血走った目が彼の疲れと苛立ちを物語っていた。「チッ、今月も金欠だ…聖書売るしかねぇな。」彼の声は、酒と疲労でかすれていた。


祭壇の影から、煙草の煙が漂う。シスターマリアだ。尼僧の修道服に身を包み、聖水の弾を込めた銃を手に、彼女は煙を吐きながら冷ややかな目でアスターを見た。「神父が賭博をしてはなりません。悔い改めなさい。」彼女の声は低く、どこか嘲るような響きを持っていた。


「煙草ふかしながらよく言えたもんだ。」アスターはニヤリと笑い、酒瓶を傾ける。瓶の中の液体が喉を焼く感触に、彼は一瞬だけ目を細めた。「お前だって、そいつを聖書に押し付けて火ぃ消す癖、やめねぇだろ?」


「ふふ、これは灰皿なので大丈夫です」マリアは小さく笑い、煙草を聖書に押し付けた。焦げた匂いが一瞬漂い、彼女は肩をすくめる。「貴方の破滅も、神の試練かしら。」


二人の会話は、まるで長年の友のように軽妙で、しかしどこか疲れを帯びていた。彼らは聖職者でありながら、聖人とは程遠い存在だった。賭博と酒に溺れるアスター、煙草を愛し皮肉を吐くマリア。それでも、彼らはこの街で悪魔を狩り続けていた。それは、使命感からか、単なる習慣か、あるいは逃れられない呪いか。二人とも、その答えを口にすることはなかった。


街の闇と過去の傷


ラクーンシティは、かつては繁栄を誇った工業都市だった。グラトニー社が街の経済を支え、市民は安定した生活を享受していた。しかし、20年前のある事件を境に、街は変わった。グラトニー社の地下研究施設から漏洩したウイルスが、市民を怪物に変え、街は一夜にして地獄と化した。生き残った者たちは、恐怖と絶望の中で新たな秩序を築いたが、それは腐敗と欲望にまみれたものだった。警察はグラトニー社の残党と結託し、政治家は市民の命を顧みず私腹を肥やした。夜になると、黒い霧が街を覆い、悪魔と呼ばれる怪物たちが現れるようになった。


アスターとマリアは、その地獄を生き延びた数少ない者たちだった。アスターはかつてグラトニー社の研究員だった。ウイルス開発の片棒を担ぎ、無数の命を奪った罪を背負っている。彼が不死の身体を得たのは、実験中の事故によるものだった。神の祝福と彼は呼ぶが、それは呪いにも似ていた。マリアもまた、過去にグラトニー社と関わりがあった。彼女は修道院で育てられた孤児だったが、ウイルス実験の被験者として連れ去られ、不老の身体を得た。彼女の冷ややかな態度は、過去の裏切りと喪失に対する防衛機制だった。


二人は教会で出会い、互いの傷を共有する中で、奇妙な絆を築いた。彼らは聖職者の名を借り、悪魔を狩ることで贖罪を求めていたのかもしれない。しかし、アスターの酒と賭博、マリアの煙草と皮肉は、彼らが完全に聖なる道を歩めないことを示していた。それでも、彼らは戦い続けた。ラクーンシティの闇を、少しでも切り裂くために。


深夜の鐘と黒い霧


夜中0時、ラクーンシティの時計塔から重々しい鐘の音が響く。街全体が息を潜め、闇が一層濃くなる瞬間だ。教会のステンドグラスが月光に輝く中、黒い霧が地面を這うように広がり始めた。霧の中から、赤い目が無数に光る。悪魔の群れだ。爪と牙、黒い翼を持つ異形の怪物たちが、教会へと殺到する。


「ゴミ掃除も楽じゃねぇな。」アスターは酒瓶を投げ捨て、銀の聖剣を抜く。刃は神の祝福を受けた光を放ち、霧を切り裂く。剣の柄には古びた十字架が刻まれ、彼の過去の信仰を象徴していた。


「それが仕事ですから。」マリアは銃を構え、聖水の弾を装填する。彼女の動きは無駄がなく、まるで戦場を舞うように優雅だ。修道服の裾が翻り、煙草の煙が戦いの熱気を切り裂く。


悪魔たちは咆哮を上げ、教会に突進する。アスターは剣を振り回し、悪魔の腕を斬り落とし、胴を貫く。マリアの銃からは聖水の弾が放たれ、命中した悪魔は悲鳴を上げて溶けるように消える。戦いは一進一退だった。悪魔の数は多く、アスターの背後から一体が飛びかかり、その鋭い爪が彼の胸を貫いた。鮮血が祭壇に飛び散る。


「何故死なない!?」悪魔が驚愕の声を上げる。アスターの胸の傷は、まるで時間が巻き戻るように塞がっていく。


「神のご加護ってやつさ。」アスターはニヤリと笑い、剣を振り上げて悪魔の首を刎ねた。血が彼の顔に飛び散り、酒の匂いと混ざり合う。


マリアは冷静に銃を撃ち続け、悪魔を一掃していく。彼女の不老の身体は疲れを知らず、動きは一瞬たりとも乱れない。二人の連携は完璧だった。だが、悪魔の群れの中心に、一際巨大な影が現れる。角を生やし、炎をまとった上級悪魔だ。


「お前たち、人間ごときが我々に挑むとは愚かだ!」悪魔の声は地響きのように教会を震わせる。炎がその巨体を包み、教会の壁を焦がす。


「人の言葉を教えるスクールでもあるのか?」アスターは剣を構え直し、突進する。剣が悪魔の鱗に当たると、火花が散った。


悪魔の誘惑


上級悪魔との戦いは苛烈だった。アスターの剣は悪魔の鱗を切り裂くが、完全には貫けない。マリアの聖水の弾も、悪魔の炎に阻まれる。教会の壁は崩れ、ステンドグラスが砕け散る。炎と黒い霧が渦巻く中、悪魔が哄笑を上げる。


「人間よ、なぜこの無意味な戦いを続ける? この街はすでに我々のものだ。抵抗すれば、さらなる悲劇が待っているぞ。」悪魔の声は、まるで心の奥底に響くようだった。


「はは、言葉がお上手で。」アスターは剣を振り下ろし、悪魔の腕に傷をつける。だが、傷はすぐに再生し、悪魔は嘲笑を続ける。


「お前たちは罪人だ。過去の罪を背負い、贖罪を求めて戦う愚か者だ。だが、その罪は消えない。我々に身を委ねれば、永遠の安息を与えよう。」


マリアの目が一瞬揺れる。彼女の過去、グラトニー社での実験、失った仲間たちの顔が脳裏をよぎる。だが、彼女はすぐに煙草を口にくわえ、火をつけた。「私達の安息は聖書でケツを拭いたらトイレと一緒に流れていったわ。」彼女は銃を撃ち、聖水の弾が悪魔の顔をかすめる。


戦いはさらに激化した。アスターは悪魔の攻撃をかわしながら、剣で何度も斬りつける。マリアは銃を撃ち続け、聖水の弾で悪魔の動きを封じる。二人の攻撃は息が合い、まるで一つの生き物のように動いた。しかし、悪魔の力は圧倒的だった。教会は半壊し、炎が祭壇を飲み込む。


「これ以上戦うと、教会も周りの人間にも被害が及ぶぞ? 俺を殺せたとしても、さらに多くの悪魔がこの街に押し寄せる。それでもいいのか?」悪魔の声は、まるで街全体に響くようだった。


アスターは剣を握り直し、血に濡れた顔で笑う。「答えは『イエス』だ。」


マリアが銃を構え、聖水の弾を撃ち込む。「悔い改めなさい、クソ野郎。」


二人の攻撃が同時に悪魔を捉え、聖剣がその心臓を貫き、聖水がその身体を焼き尽くす。悪魔は断末魔の叫びを上げ、黒い霧と共に消滅した。教会は静寂に包まれ、炎が徐々に収まる。


新たな脅威


夜が明け、ラクーンシティに朝日が差し込む。教会は廃墟と化し、市民たちは怯えながらも日常に戻っていく。アスターとマリアは教会の残骸から出て、朝の光を浴しながら次の目的地を考える。


「さぁ、次の教会へ行きましょう。」マリアは煙草をくわえ、火をつける。「ところで、路銀が少ない今、貴方は賭博をやめれるのですか?」


アスターは酒瓶を手に、苦笑いを浮かべる。「…それはイエスとは言えねぇな。」


二人は笑い合いながら、荷物をまとめ、街を後にする。しかし、彼らの背後で、黒い霧が再び動き始めていた。悪魔の消滅は、一時的な勝利に過ぎなかった。ラクーンシティの地下では、グラトニー社の残党が新たな実験を進めていた。彼らは悪魔の力を利用し、さらなる怪物を作り出そうとしていた。


アスターとマリアは、次の街へ向かう道すがら、過去の記憶と向き合う。アスターは酒瓶を手に、かつての同僚たちの顔を思い出す。彼らが怪物と化した姿を、自らの手で斬り捨てた記憶が、彼の心を締め付ける。マリアは煙草の煙を吐きながら、修道院での穏やかな日々を思い出す。だが、その記憶はすぐに実験室の冷たい光に塗りつぶされる。


二人の旅は続く。ラクーンシティを後にし、新たな戦場へ向かう。彼らは知っていた。この戦いが終わることはない。悪魔がいる限り、罪が消えない限り、彼らの戦いは続くのだ。


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