表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

上京物語

作者: 相川あい

桜が散る頃両手いっぱいに荷物を持ってイトは帰宅した。今日で6年間勤めた会社を辞めたのだ。高校を卒業してから社会人として成長した場所だった。


ホテルマンとして働いた6年間は今思えばあっという間だったと思う。離職率が高い業種でもあるし仲間の入れ替わりが多かった。何度も辞めてしまおうかと考えたが決断力に欠け気づいたら役職までもらったというパターンだ。今どき嫌になったらすぐに辞める人も多いと聞くが私は早くに決断できるのが羨ましいと思う。自分のためを思ったら早く辞めて次の職場でキャリアを積むのがいいだろう。


そんな私の辞めるきっかけは上京だった。小さな町の田舎で育った私は東京で働くことを夢見ていた。きらきらした世界がそこにはあるのだろうと。



上京するという大きな決断を上司に伝え順調に退職の準備が進んだ。家に帰ってからもアパート探しや引越しの準備に大忙しであっという間に当日を迎えた。

私自身、地元を離れる寂しさはなく自分の人生の始まりだと浮かれていたくらいだ。

家賃7万のアパートを借り、仕事にも慣れ結婚を見据える彼とも出会いを果たした頃、刺激的な日々が始まろうとしていた。



料理のレパートリーを増やそうとの思いで友達と通っている料理教室の帰り道、深く帽子を被った謎の女に話しかけられた。

『わたしたちって知り合いだよね』

イトは全く覚えていない。地元で知り合った人だろうか。

街灯を頼りながら歩く夜の中もやもやな気持ちのまま帰宅した。次の日いつも通り出勤したら職場にも現れた。

『私は覚えていないんですけど、どちら様ですか』

『丘の向こうで知り合ったじゃないですか』

『丘の向こうって、、』

"丘の向こう"それは地元で通っていたヨガ教室だった。たしかにヨガ教室には通っていたけれど、友達になれた人はいない。違和感を持ったまま駐車場へ向かった謎の女とは別れ、私は会社の朝礼に参加した。

なんで私のこと知っているのだろう。

そんな思いの中ショートメッセージが届いた。昨日からの謎の女だ。


私もっと仲良くなりたいの、ランチでもどう?


昨日からどうして住む場所も職場も番号も知っているのだろうと心が震え上がる。それでも真実を知りたかったイトは一度だけならと行くことにした。

2人だけの空間に緊張していたイトだが、謎の女のお喋りは止まらない。


『昨日からはごめんなさい。』


ヨガ教室であなたに出会ったとき人生が輝いているように見えて息子のことで悩んでた私に元気をくれたの。

あの時もっと仲良くなれたら良かったんだけど。

年齢も離れているし、きっかけがなくてね。


なんだろう、怖かった気持ちは完全になくなり人としての温かさを感じた。


そんな思いもあってきっかけを待っていたんだけど。

ある日からあなたを教室で見ることはなくなって、話しかけなかった後悔でいっぱいだった。

その後私もその町を離れることになって、

私は地元が東京で夫の転勤であそこに住んでたの。それから地元に戻って暮らすことになった。

1ヶ月くらい前にスーパーで買い物してたらパッと目に入ってすぐにわかったの。

こうしてまた再会できたなんて神さまはいるんだなと思ったよ。


それから2人は時間が合えば会うようになった。

イトも上京してきてから職場の人ばかりの付き合いが多く新たなコミュニティを探していたところだった。


平凡に暮らしている私でも誰かを笑顔にさせたり勇気を与えることが出来るんだなと。

自分自分奮い立たせてもっと頑張ってみよう。


新たな風が吹く日々に充実感を覚えながらイトは今日も会社へ向かう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ