退屈な職場のスパイス
1章:退屈な職場のスパイス
笹本裕也は、中途入社2年目の経理部員。
真面目に仕事をこなすが、刺激のない日々に少し飽き飽きしていた。
2つ隣の席には、同僚・山崎千春がいた。
千春は、真面目に業務をこなす、上司や他部署から一目置かれるも存在だった。裕也とは部署が同じになってから1年目だった。
裕也とは別に仲が良くもなく、悪い訳でもない。普通の同年代の同僚だ。
ある日、上司の不在時、仕事をしながらの雑談で、千春が裕也にふとした雑談を始める。
「ねえ、笹本さんって最近彼女と別れたんでしたっけ?」
「……あ、そうなんですよ。」
「人生にモテ期が3回来るってよく言いますけど……笹本さん、もう全部使い果たしちゃったんじゃないですか?」
そう言って千春は席を立って、隣の部署まで書類を取りに部屋を出て行った
「は? 失礼では?」
裕也は眉間にシワを寄せたが、不思議と悪い気はしてなかった。
2章:些細ないたずら
別の日、裕也が出先で買ってきたチョコをみんなに配った際も、千春だけがスルーされた。
「ちょっと! 私の分は?」
「ああ、これチョコなんですけど。千春さん、体重増えちゃうけど大丈夫ですか?」
「は? ……イラッ!」
千春は明らかにムッとした顔で、裕也を睨みつけた。
逆に裕也は笑みを隠すのに必死だった
別の日の打ち合わせ、千春がいつもの様に給湯室でみんなのためにお茶を淹れてくれたが、裕也の分だけがなかった。
「ん?俺のは」
「あれ? あ、ごめんなさーい、気付かなかったです。」
明らかに嘘くさい返答に、裕也は軽くイラッとする。
「嘘つけ。絶対わざとだろ。」
自分だけに聞こえる声で裕也は毒付いた。
千春は悪びれた様子もなく笑みを浮かべていた。
さらに、ある日のお弁当の注文。
食べる前に裕也がトイレに行く間に、彼のお弁当が無くなっていた
「あれ?俺の弁当がないんだけど?」
「さぁ〜。どこいっちゃったんだろうね」
机に2つ分のお弁当を置いた千春は、平然と言い放つ。
裕也は呆れた顔で千春を見つめたが、すぐに仕返しの言葉を放った。
「なんだ。千春さんが2つ食べようとしてると思いました? 好きですもんね、体重増えるの。」
「……イラッ!」
日々のダイエットに苦しんでいる千春の眉は、くの字に曲がった
3章:他己評価
二人のやり取りを見ていた同僚たちは、しばしば首を傾げる。
「ねえ、なんであの二人、あんなにお互いにちょっかい出すの?」
そんな質問に、千春はあっさりと答えた。
「小学生の頃、男子ってクラスの女子にやたらちょっかい出してきませんでした? 笹本さん、たぶんそれが大人になっても直ってないんですよ。」
裕也は千春に聞こえるか聞こえないか位の声で反論する。
「おい、それなら千春さんだって同じだろ。むしろ俺より子どもっぽいって自覚してるか?」
(確かに裕也は、小学生の頃に好きな女子にちょっかいを出していたタイプだった)
千春は、わざわざ裕也の方に顔を向けて、少し身を乗り出してにやりと笑いながら言う。
「もっと大人の自覚を持ってくださいね……。」
裕也は呆れて声も出なかった
(続く)