サイレント・ナイト
ラフカディオ・ハーンは日本で小泉八雲と名乗り、怪談など書いた。その彼が生前、好んでいた石狐を祀った神社がある。
石狐は老朽化のため、今は二代目の石狐像が置かれているが。私は初代の石狐像を雪の日に見たことがある。
周囲に人間は私しかいない、静けさに満ちた空間があった。きっと八雲は石狐の声を聞いたのだろう。あの日、私の耳にも石狐の声は届いた。
「綺麗な雪だねー。出会った日のことを思い出すなぁ」
「外で話しかけないで。私が一人で会話をしてると思われるじゃないの」
「いいじゃん、別にー。今は周囲に誰もいないよー」
田舎の夜道を隣の彼女と歩く。雪が降り始めた静謐な空間があった。
八雲の内面世界は豊かで、賑やかだったのだろう。神社で祀られることに飽きて、石像の中から出て、あの日から私に懐いてきた彼女を見るとそう思う。
結婚もせず、私以外には見えない彼女と生きてきた。どう見られようと構わないが、決して私は不幸ではない。